2023-01-01から1年間の記事一覧
オンボロ車の事故 「言われて見りゃあ、カケル氏が親である重蔵氏に、隠し子の存在を明かす必要は無いよな?」 真新しいドーム会場に集った、観客の誰かが言った。 「男って、ホンット無責任よね。でも確かに、あえて言う必要は無いわね」「だ、だろ。オレだ…
ある若き板前の断言 大柄な若き板前が、華麗な包丁さばきで新鮮なイカを細切りにしていた。そこは静岡の海鮮市場にある食堂で、看板には野洲田(やすだ)食堂と書かれている。 「野洲田さんトコの倅(せがれ)さん、戻ってたのかい?」 日焼けした中年男が、…
コピーとオリジナル 宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアは、左舷後方に被弾をしながらも、マーズの別動艦隊から逃亡を図っていた。 「敵艦隊を、引き離しつつある。取り付いたアーキテクターを、各個撃破すれば終わりだ」 シルヴィアのアタ・ランティが、仲間の…
神の血と人間の血 「神の血を引く、大将軍か。だが神など、本当に存在するのか?」 ダエィ・ダルスの工房(アトリエ)で、ケイダンが工房の主に質問する。 「どうだなか。だがこの世界には、神の血(イー・コール)を引くとされる人間も、少なからず存在する…
遺言状の真贋(しんがん) 「2通目の遺言状の在り処は、重蔵氏の自室にある、古びた置時計の内側と書かれていた」 マドルが読み進める竹崎弁護士の日記が、当時の様子を呼び覚ます。 「わたしも立ち合い、警察の警部ら数人と置時計の内側を探った。置時計の…
ある汗ばんだ筋肉男の潜水 「1012、1013、1014、1015……」 部屋の中から、汗ばんだ筋肉男の声が聞こえる。 「先日の試合、2対14と言う屈辱的な大敗を喫(きっ)したでありますからな」 部屋には、ところ狭しと戦闘機や銃のポスターが貼ら…
女王を護る騎士(ナイト) 「帰って来たか、宇宙斗艦長。クーリアお嬢様とは、上手くヤレたのかよ?」 宇宙に出たボクに、下品な挨拶をするプリズナー。 「さあな。それより、宇宙船を収容してくれるそうだ」「マジかよ。だが敵の艦に、逃げ込むってのもな」…
不死の大将軍 「オイ、どこまで逃げるつもりだ」 瀕死のサタナトスを抱えながら迷宮回廊を走る、ティ・ゼーウスが問いかける。 「この先に、わたしの工房(アトリエ)がある。この迷宮を、建設していた当時のな……」 ダエィ・ダルスが、答えた。 「ココだ」「…
蝋燭印(シーリングスタンプ) 「吾輩は、竹崎弁護士が生前に、書き記していた日記を開いた」 弁護士事務所の机で、日記を開く仕草をするマドル。 「もちろん、捜査令状も取らないで行った、越権行為である。この時の吾輩は、ハリカさんを護れなかった罪悪感…
あるピンク色の髪の高校生の宣言 ピンク色の髪の高校生が、店の床に散らばった髪の毛を掃除している。 「遠光。お前だって疲れてるだろうに、アタシがやるからイイよ」 白い服に身を包んだ、中年の女性が言った。 店には年季の入った椅子が3脚並んでおり、…
襲撃の宇宙戦闘空母 「ゴメン、クーリア。無神経が過ぎるな、ボクは……」 慌ててスプーンを拾おうとするも、シルヴィアさんに先に拾われてしまう。 クーリアの顔を伺うと、俯(うつむ)いたまま目を閉じていた。 思えば火星では、パルク・デ・ルベリエでの華…
地下闘技場の死闘の決着 クレ・ア島の周辺海域で、艦隊戦が繰り広げられる前まで、時は遡(さかのぼ)る。ラビ・リンス帝国の名前の由来となった地下迷宮では、サタナトスとミノ・ダウルス将軍による戦いが佳境を迎えていた。 「オレが、援護してやる。サタ…
少女探偵の焦燥 「吾輩は、警部に館の現場を任せて、1人で竹崎弁護士の事務所を訪れていた。主を失った建物だったが、事務所の看板はそのまま架け変えられずにいた」 舞台で、状況説明をするマドル。もう何度目かの光景であり、事件がクライマックスに近づ…
2人の高校生と動画編集2 「日高グループが出て来たら、なんかマズいのか?」 動画製作会社のパソコンデスクに座った、真っ黒に日焼けした高校生が、社長に質問した。 「アホやな、お前は。相手は、日本を代表する芸能プロダクションやで。ウチなんか、比べ…
ロココ様式の艦 「まるでベルサイユ宮殿にでも、来たみたいだ」 そこが宇宙空間に浮かぶ、巨大な艦の中であるコトが、俄(にわ)かには信じられなかった。 「アレは、バロック様式の建築ですわ。この艦の部屋は、全てロココ様式なのですよ」 クーリアがしっ…
海戦の決着 「野郎ども、これより撤退戦を開始する。アル・ゴゥース号が離れたら、アドゥル艦隊旗艦に1斉放火を浴びせてやれ!」 イアン・ソーンは、肩にメリィ・ディアーを抱えたまま、アル・ゴゥース号へと跳び乗った。 「イアン、キサマ逃げる気か!」 …
遺言状の謎 「彼女の……ハリカさんの直接の死因は、断定できたのかい?」 心を許せた同年代の少女の、死んだ理由を聞くマドル。 「絞殺だ。発見された首と身体の両方に、ロープの跡があった。だが彼女の手からは、ロープに関する付着物は発見されなかったぜ」…
2人の高校生と動画編集1 デッドエンド・ボーイズの事務所も入っている3階建てのビルは、元は印刷会社であり、チームはビルの3階を間貸りしていた。 「なんや、クロ。お前も、来とったんか?」 金髪ドレッドヘアの高校生が、事務所の入っている下の階の扉…
現実味の無い世界 火星にて観艦式を終えた途端、時の魔女による襲撃を受けた、クーヴァルヴァリア。曲線を多く用いた真っ白な船体は、艦名の由来となった少女のように、気品と優雅さを漂わせていた。 「クーリア。今のキミは、時の魔女に操られてはいないの…
神槍と魔銃 紺碧の大海原にて、艦隊の旗艦同士が衝突し、激しい甲板戦が繰り広げられていた。荒々しい海の男たちのカトラスが、互いに斬り結び火花を散らす。 「アドゥル。お前の槍は、まさか!?」 マストにかかるロープを片手で握りながら、イアンが言った…
捜査の順番 「ハリカさんの首が発見された寺の現場にて、吾輩は警部と検証を行った。現場では当時、タミカさんが倒れて発見されおり、人命を優先したために大くの人の足跡が残ってしまっていた」 マドルが、嗅俱螺 墓鈴架(かぐら ハリカ)の首が発見された…
ある優等生2人の戦略(タクティクス)4 「ミス・シャルロット。ご自身のブランドを立ち上げるとのコトですが、我々のクラブのスポンサーになっていただけると言うのは、本当でしょうか?」 赤茶色の髪の優等生が、自然な所作(しょさ)でハンバーガーショ…
クーヴァルバリア 「クーリア……キミの艦へ?」 ボクを、自身の名を冠する艦へと招こうとする、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。 「わたくし共は、宇宙斗艦長に危害を加えるつもりは、一切ございません。宇宙の長旅で、お疲れでしょう。どうか我…
甲板戦 大海原で衝突した、2隻の艦隊旗艦。甲板戦の準備にとカトラスを抜く、互いの艦の乗組員たち。 「メリィ・ディアー。キミは船倉にでも隠れていろ。ここからは、血生臭い乱戦が始まる」 日焼した、海の男が言った。彼は黒い艦隊の司令官で、旗艦アル・…
打ちひしがれる探偵 「彼女……ハリカさんに、護衛は付いていなかったのか!?」 マドルが、伯父に苛立ちをぶつけるように言った。 「女の捜査官1人と、女中1人を同室にさせていた。だが2人とも、昏睡状態でクローゼットの中から発見されている」 姪の怒り…
ある優等生2人の戦略(タクティクス)3 催事用のビルで行われている、中部企業・国際フォーラムの会場を歩く2人の優等生。彼らの手には、多くの名詞が握られている。 「雪峰くんも、やるじゃないですか。技術(テック)系の企業を中心に、3社も名詞交換…
再会のクーリア 「艦長、敵影を見て見ろ。アレは……」 バル・クォーダで、宇宙に飛び出したプリズナーの声に、複雑な感情が絡んでいた。 「あ、あの巨大なサブスタンサーはッ!?」 ボクも、直ぐにその理由を理解する。 星の瞬く宇宙にあっても、その巨大なサ…
大海原の戦い アル・ゴゥース号と呼ばれる艦隊の旗艦は、船首に黄金に輝くライオンの像を掲(かか)げ、船体は黒く船尾には3層の立派な船尾楼を持つ。3本の4角帆メインマストに風を受け、艦の側面には大砲が2列に渡って並んでいた。 「港以外の軍事施設…
第3の犠牲者 「シャワーを浴びていた吾輩は、大柄の黒い影によって襲撃された」 マドルの声が、観客たちに経緯(いきさつ)の説明を始める。 「シャワー室の曇りガラスを割られ、暗闇の中で首を絞められた吾輩は、気を失ってしまう。飛び散ったガラスが脚に…
ある優等生2人の戦略(タクティクス)2 催事場やビジネス用途で使われるビルの前に、『中部企業・国際フォーラム』と、銘打たれた白い立てかけ看板が立てられていた。ビル周辺の道路や公園には、多くの人だかりが出来ている。 「ここが、会場のビルだな」 …