ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・99話

海戦の決着

「野郎ども、これより撤退戦を開始する。アル・ゴゥース号が離れたら、アドゥル艦隊旗艦に1斉放火を浴びせてやれ!」

 イアン・ソーンは、肩にメリィ・ディアーを抱えたまま、アル・ゴゥース号へと跳び乗った。

「イアン、キサマ逃げる気か!」
 手首を完全回復させたアドゥルが、イアンに神槍を向ける。

「流石は神槍アスク・ラピアだ。オメーの手首を、1瞬で回復させちまうたァよ。だがソイツの射程は、オレの魔銃に遠く及ばん!」
 メリィを甲板に降ろすと、イアンは両手の魔銃を発射した。

 銃から発射された銃弾は自由に跳んで、アドゥル艦隊旗艦のまだ落ちていなかったマストの帆を支えるロープを切断する。

「今だ、1斉砲撃!」
 アル・ゴゥース号が、敵旗艦から離れると同時に、横2列に並んだ大砲が次々と火を吹いた。

「こちらも、応戦しろ。使える大砲全てを、ヤツの船に叩き込め!」
 アドゥルの檄が飛び、横腹に大きな穴を開けられた旗艦も反撃を開始する。

「ダ、ダメです、アドゥル提督!」
「敵火力が圧倒的に上で、こちらの艦が持ちません!」

 砲撃を受けたアドゥル艦隊旗艦は、甲板や船体のあらゆる場所に穴を開けられ、炎に包まれた。
船倉などに海水が乱入して、喫水が下がる。

「アドゥル・メート様、これ以上は……」
 アドゥルの危機を救った、アー・ポリオが主に進言した。

「やむを得まい。総員、退艦せよ。後続の艦に、拾って貰え!」
 艦隊司令官の命令で、次々に海へと飛び込む乗組員たち。

「イアンめ。この借りは、必ず返すぞ!」
 紺碧の海に投げ出された男たちは、海に消える自分たちの船を見送った。

 旗艦を失ったアドゥル艦隊は、海に浮かぶ男たちを拾って港へと引き返す。
その頃には日も沈み、夜が訪れたクレ・ア島のあちこちで、火災の炎が輝いていた。

「キレイな、景色ね。でもあの炎の中で、焼かれている知り合いも居るのよね」
 星の海の下を行くアル・ゴゥース号の甲板で、1人の女が島の炎を見つめている。

「後悔しているのですか、メリィ」
 背後から、1人の男が問いかけた。

「なによ、ソレ。今さら紳士ぶったところで、アナタの本性は隠せないわよ」
 紫色のアイシャドーが塗られた猫のような目を、男に向ける女。

「アレは、わたしの性質の1つです。人には、人格がいくつもあるモノでしょう?」
「そうね、イアン。ところで、夜は攻撃を仕掛けないの?」

「こちらも、かなりの弾薬を消費しましたからね。貴女の商船などとは違って、戦闘艦は重たい大砲や弾薬を積載し、乗組員も多く必要です。航続距離は、長くありません」
「ようするに、補給が必要ってことね」

「ええ、そうです……」
 背中から、女を抱く男。

「そっちは、任せて。お望みの物資を、確保してあげるわ」
 2人は、口付けを交わした。

「これから北へ向かいます」
「北……か。でも、連中を信用して大丈夫なの?」
 女が、問いかける。

「今は彼らを、信用する他ありません。すでに我々は、ミノ・リス王を裏切ってしまったのです」
「そうね、イアン。でも強大なラビ・リンス帝国に、本当に勝ち目はあるのかしら?」

 夜の海を快適に走る、アル・ゴゥース号。
すでにクレ・ア島は視界から消え、4方全てが海へと変わった。

「今回の反乱には、大海の7将の半数が加担しているのです。今頃は、カラ・イースとデル・ザース兄弟の艦隊が、我々の替わりに島を取り囲んでくれてますよ」

「アナタが言うなら、信じるわ」
 女の瞳に、男の顔が映る。

「これは失敗が、許されなくなりましたね」
 男の瞳にも、目を閉じた女が映った。

 夜の海風を受けた男と女は、互いに身を寄せ合う。
やがて2人は、アル・ゴゥース号の船尾に備わった豪奢(ごうしゃ)な船尾楼にある、船長室へと消えて行った。

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