地下闘技場の死闘の決着
クレ・ア島の周辺海域で、艦隊戦が繰り広げられる前まで、時は遡(さかのぼ)る。
ラビ・リンス帝国の名前の由来となった地下迷宮では、サタナトスとミノ・ダウルス将軍による戦いが佳境を迎えていた。
「オレが、援護してやる。サタナトス、さっさとソイツにトドメを叩き込め!」
立ってられない揺れの中で、ティ・ゼーウスが叫ぶ。
真っ赤な臓物の触手が、再び大将軍を襲った。
大半は大戦斧(アステリオス)にて降り払われるものの、いくつかはミノ・ダウルス大将軍の手や足に絡み付いた。
「この程度の貧弱な枷(かせ)で、我の動きが止められると思ってか!」
「オ、オレの、ハート・ブレイカーを巻き付けたまま……コイツ、なんて力だ!?」
けれども大将軍は、臓物の触手をモノともせずにアステリオスを振った。
「ケイダンを、傷付けた罪……ボクはお前を許さない!」
黒と白の六枚の翼を開き、サタナトスが大将軍との間合いを急速に詰める。
「ラビ・リンス帝国の、強大な軍事力の象徴である大将軍よ。お前も、お前を支持する愚かな民の前で、魔王と化すがイイ!!」
アメジスト色の剣が、大将軍の胸に突き刺さった。
「や、やりおったか!?」
「イヤ。鎧は貫通したみてェだが、筋肉の鎧が分厚過ぎて心臓にまで届いて無ェ」
大建築家ダエィ・ダルスの言葉に、懐疑的なティ・ゼーウス。
その見立て通り、プート・サタナティスは大将軍の黄金の鎧から抜け、サタナトスも宙に飛ばされた。
「グヌオォォーーーーーーッ!!!」
少しだけ遅れて、星砕きとあだ名される大戦斧アステリオスが、ブンッと振り回される。
その軌道にあったサタナトスの身体を、ゴムボールでも打つかの如く弾き飛ばした。
「サ、サタナトス!?」
ティ・ゼーウスらの目の前で、地下闘技場の壁へと叩き付けられる金髪の少年。
「……やはり、敵わなかったか。神の血を引く、ミノ・ダウルス大将軍に勝とうなどと、そもそもがつけ上がった考えだったのやも知れぬ」
大戦斧の巻き起こした大地震が収まった地下闘技場で、項垂(うなだ)れる大建築家。
「やはり……そうか」
「お前は、知っておったのか……ティ・ゼーウスよ」
驚きの顔を見せる、ダエィ・ダルス。
「神の血(イー・コール)のコトだろ。まあ、それなりにな」
ハート・ブレイカーを構え、警戒をしながら答える、アッシュブロンドの長髪の少年。
「大将軍の身体には、神の血が流れておる。もちろん、純血と言うワケでは無いが」
「純血だったら、神そのモノだからな。巷(ちまた)じゃ、大神の血を引くって噂の、ミノ・リス王の息子だからな。神の血をそれなりに受け継いでるのも、納得だぜ」
「イヤ、そうでは無い」
「ああ……なんだって?」
「今は、将軍の血の謎を論じている場合では無い。ここは、一旦引くぞ!」
大建築家は、鋭利な石切りの剣(ダイア・レイオン)を抜き、いくつかの石を斬る。
地下闘技場はグラグラと揺れ始め、やがて天井が崩壊し始めた。
「流石は大建築家サマだぜ。どこを崩せば、建物が崩壊するか解るとはな」
「感心する前に、サタナトスを運び出すのだ」
「仕方ねェ。ハート・ブレイカー!!」
ティ・ゼーウスは、ハート・ブレイカーの真っ赤な臓物の剣身を展開し、瀕死のサタナトスとケイオス・ブラッドを手繰(たぐ)り寄せる。
ほぼ同時に、地下闘技場は崩落した。
「ミノ・ダウルス大将軍まで、崩落に巻き込まれてくたばった……なんてコトは、無いよな?」
「当然だ。楽観論が、過ぎる」
「ヤレヤレ。コイツら抱えて、逃げ切るのは骨が折れるぜ」
「……オ、オレは、大丈夫だ……」
魔王ケイオス・ブラッドが、立ち上がる。
「大丈夫……ねえ。魔族としての姿すら、保てねェのにか?」
ティ・ゼーウスの目の前で、ケイオス・ブラッドはケイダンの姿に戻った。
「人間の身体でも、走るくらいは出来る。それより、サタナトスを頼む」
「まったく、しゃァねェな」
全身から血を流しているケイダンの言葉に、アッシュブロンドの少年は頷(うなず)いた。
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