揺れる大地
「油断しおって。雑兵を相手に、何をやっておるのだ!」
大魔王ダグ・ア・ウォンが、部下たちの不甲斐ない戦いぶりを嘆(なげ)く。
「言うてやるでないわ、海皇よ。メイド服姿の2人の娘たちは、かのリュオーネ・スー・ギルの高弟なのじゃよ。お主が呼びよせた雲の龍(ペット)も、あの娘たちになついておろう」
突風が渦を巻く闘技場で、ルーシェリアが重力剣を携(たずさ)え、ダグ・ア・ウォンの方へと歩み寄って行った。
「久しいな、小娘よ。名は確か、ルーシェリアと言ったか」
蒼い巨体の大魔王ダグ・ア・ウォンは、オレンジ色のヒレの付いた4本の腕の1本に、海皇の宝剣トラシュ・クリューザーを持ち、その他の3本には雷球を発生させている。
「天空の街以来じゃの。あの時の決着を、付けようではないか」
傷付いたミノ・テリオス将軍の前に立つ、襲名したばかりのミノ・アステ将軍。
「き、気を付けろ。ヤツは、オレなど及ばないホドに強い」
ルーシェリアの背中で、ミノ・テリオス将軍が言った。
「知っておるわ。ヤツとは1度、刃を交えておるゆえな。お主とて、魔王ケイオス・ブラッドとの戦いで疲弊(ひへい)しておらねば、もっと戦えたであろうに」
「フッ、買いかぶり過ぎだ。だがここは、任せて構わないか?」
「元より、そのつもりじゃ。のォ、ご主人サマよ」
ルーシェリアの紅の瞳には、蒼き髪の少年が映っていた。
「だ、だけど、サタナトスが、ミノ・リス王の元に……」
サタナトスの動向が気がかりで仕方ない、因幡 舞人。
地下闘技場の様子を伝える鏡が割れてから、ミノ・ダウルス大将軍との戦いの行方がどうなったか、知るコトが出来ないでいた。
「どの道、地下闘技場に助けに行くコトは、叶(かな)わぬ。今は、目の前の敵に集中するのじゃ」
「わ、わかったよ、ルーシェリア。サタナトスの剣が復活したのなら、ボクの剣も、復活させなきゃならないからね!」
ガラクタ剣を抜く、因幡 舞人。
「そうじゃな。出来れば、目覚めぬままであって欲しいのじゃが……」
ルーシェリアは、舞人に聞こえないくらいの声でポツリと呟いた。
「天空の街にて、サタナトス様と戦っていた蒼髪の小僧か。あの時は、剣の能力に取り込まれておったが……面白い!」
大魔王ダグ・ア・ウォンも、三又の剣とも槍とも付かぬ宝剣を、2人に向ける。
「まずは、妾が仕掛けるぞェ。ご主人サマは、彼奴(きゃつ)の隙を突いて攻撃を仕掛けるのじゃ」
「了解だ、ルーシェリア」
「1度に、かかって来ぬのか。だが、どんな策を弄(ろう)しようと、我の前では無意味ぞ!」
「それは、やって見ねばわからぬのじゃ。イ・アンナ!」
ルーシェリアが、重力剣の能力を目一杯解放した。
「このダグ・ア・ウォンに、重力などと。トラシュ・クリューザー!!!」
大魔王が、三又の宝剣を天に掲げると、闘技場の地面が激しく揺れ始める。
「うわあッ、じ、地震だ!?」
「こ、これホドの揺れ……これも、大魔王の剣の能力と言う気か!?」
「その通りぞ。我は、海皇であると同時に、地震をも司(つかさど)るのだ」
三又の剣の起こした激震は、闘技場を中心に同心円状に広がり、ウティカやルスピナの居た宿屋も激しい揺れに襲われる。
先代のミノ・アステ女将軍が最期を迎えた部屋も、鏡が割れ床に散らばった。
「こ、この揺れ……立っていられない!」
「マ、マズいのじゃ。このままでは、無防備のまま攻撃を受けて……」
背中にコウモリの羽を伸ばし、空中に逃げるルーシェリア。
「グハハッ、逃すと思うたか!!」
大魔王は、3本の腕が発生させた雷球を砲弾のように放ち、空を舞うルーシェリアを追撃した。
「ル、ルーシェリア!」
舞人は、ルーシェリアを助けようと、ジェネティキャリパーで自身の身体を強化する。
「クッ……あああッ!」
揺れる大地を蹴り上げ、大魔王に向かって飛び込んで攻撃を仕掛ける、舞人。
「所詮(しょせん)は、苦し紛れの攻撃よ!!」
「ガアアァァ!!?」
けれども空中の舞人は、三又の剣の放った雷(いかずち)に撃たれ、地面に墜ちた。
前へ | 目次 | 次へ |