ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第一章・EP005

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一人だけのサッカーチーム

「……え?」
 思わず耳を疑った。

 ボクは、目の前のジャージの人を凝視する。

「だから、お前がウチのチームの最初のメンバーだ」
 倉崎さんの発言を聞いた先パイたちも、後ろでポカーンと大口を開けていた。

「あ、あの……倉崎さん。サ、サッカーは、十一人でやるもので……」
 意外にもスラスラと言葉が出る。
倉崎さんと話すのも慣れてきたと言うより、その内容があまりに酷すぎた。

「アハハハ、流石にそれくらいは知ってるぞ?」
「ボクが最初の一人って……?」
「言葉通りの意味だ、心配すんな」爽やかに微笑む倉崎さん。

 それが、大問題なんですケドォーーーーーーッ!

「く、倉崎さんと……二人だけのチーム?」
「いや、お前一人だ。オレはある事情があって、自分のチームの試合には出られない」

「えええええッ!」ボクは頭を抱えた。
 知らない間に、本当に頭を抱えていた。

「オイ、練習始めようぜ」「おお、そうだな」
「夏の全国大会に向けて、気合入れてくぞ!」
 呆れ顔の先パイたちが、川縁のグランドで練習を始めてしまう。

「そこの土手に座って、話の続きをしようぜ?」
「は、はあ……」
 ボクと倉崎さんは、土手へと移動する。

「オレはサッカーチーム、『デッドエンド・ボーイズ』のオーナーであって、選手ではないんだ」
 ボクの隣で寝そべって、空に浮かんだ雲を眺める倉崎さん。

「そ……それじゃあ、ホントに……ボク一人!?」
「まあ最初はどのチームも、そんなモンだろ」
「ううッ!」

「……とは言え……だ。お前には、クラブの一員としてオレが給料を支払う」
「きゅ、給料!?」
 予想外の提案に、予想外の大きな声が口から飛び出す。

「今は大した額は払えんが、そのウチお前の実力に見合った金額を支払うさ。どうだ?」
「高校一年のボクが……給料?」
「別におかしくはないだろう? 芸能界じゃ、子役なんか物心つく前から金を貰ってるんだ」

 倉崎さんは、立ち上がった。
河縁を吹き抜ける風が、草の香りを舞い上がらせる。

「オレはな、一馬。サッカーに一生、深く関わっていきたいと思ってる。選手生活を終えても、まだ先は長いからな……」
 すると倉崎さんはジャージのポケットから、名刺入れを取り出した。

「お前の名刺だ……一馬。きっと、来てくれると思っていたからな」

「ボクの……名刺?」
 ホントだ、名刺が百枚くらい入ってる。なんか、大人っぽい!

「オレはしばらく、本業が忙しくて動けん。そこでお前に頼みがある」
「……んなッ、なんですか!?」
 倉崎さんの、本業ってなんだろ。

「お前も言っただろ。サッカーは一人じゃできないって。そこでだ……」

「ふえ? フエエェェェーーーーーーーーーーーーッ!!?」
 ボクの耳は、とんでも無い台詞を聞かされた。

 日が傾き、ボクは倉崎さんと別れ、肩を落としトボトボと家に帰る。

「ただいまぁ」
 玄関のドアを開けて、汚れたスパイクを脱いでるとドタドタと音がした。
平凡な一戸建ての二階階段から、奈央が勢いよく降りてくる。

「あ、カーくん。どこ行ってたのよォ! もしかして、アイツのトコじゃないでしょうね」
 うッ、妙に鋭い! 奈央ってボクのコト、やたら知ってるんだよなあ。

「一馬、そんなに汗だくで、どこ行ってたのよ。奈央ちゃんも、ジュース飲んで待ってたのよ」
「勝手に人の部屋に、上げないでよ。母さん」

「もしかして、部屋のどっかにエッチな本が隠してあるとか?」
「ないよ、そんなモン」

 家が隣同士の奈央とは、ホントに小さな頃からの幼馴染みだ。
昔は一緒にお風呂とか入ったっけ。

「今日は六時から、Zeリーグのサッカーの試合がやるんだった」
「わたし、ドラマみたーい」「自分の家で見ればいいだろ」
「一人で見ても、つまんな~い」「だったら文句言うなよ」

 奈央の家は、両親が共働きで夜遅くまで家にいないことが多く、子供の頃からボクの家で預かるコトが多かった。

「確か、名古屋リヴァイアサンズVS東京ギガンテスなんだよ」
 ウチの地元は名古屋だ。

 リヴァイアサンズは、日本のトップリーグであるZeリーグの中じゃ、強くも無ければ弱くも無いって感じのチームだった。

「ふ~ん、興味な~い」
 ソファに座ったボクの太ももを枕にして、寝そべってお菓子を頬張る奈央。

「お前、パンツ見えるぞ。さっきも階段から降りてくるとき、丸見えだったし」
「なによ、今さら。もしかしてあたしの魅力に、気付いたぁ?」
「魅力ってさあ。奈央ももう少し……」

「あ、始まるみたいよ」
 三十二インチの薄型液晶テレビに目を向けると、両チームの選手たちがZeリーグの軽快なテーマソングに合わせ、入場してくるところだった。

 

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP004

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クライフターン

 あ、倉崎さんだ……と、心の中で叫ぶボク。

 弾いたボールに、追いつくなんてスゴイ!
ボクのボールが倉崎さんの足元にあり、倉崎さんのボールであろう黒にオレンジ模様のボールが、ボクの足元にあった。

「なんだぁ、テメーは?」
「こっちは今、後輩と揉めてんだ」
「ジャマはしないでもらいたいね」

 ボクのボールを奪おうとしていた二人の先パイと、最初にボールを取りに来た屈強な体躯の先パイが、今度は倉崎さんから三人がかりでボールを奪いに行く。

「そのボール、よこしな!」
「クソナマイキな一年のボールだ。河に叩き込んでやるぜ!」
「そうかい。だったら簡単には、渡せないなあ?」

 倉崎さんは、右足でボールを引くと、体の後ろを通してかわす。
サッカーをやっていれば知ってるくらいの、かなり一般的(オーソドックス)なフェイントだ。

「なんだぁ、クライフターンかよ?」
「随分と、古ぼけたフェイントを使いやがって!」
 先パイたちは、クライフターンによるボールの動きを予測し、タックルを仕掛ける。

 上手い、もう一度同じフェイントだ。
倉崎さんは先パイの動きを読んで、クライフターンを連続させた。

「このッ!?」「ふざけやがって!!」
 けれども、勢い任せのスライディングタックルは、あっさりとかわされる。

「コ、コイツ……同じフェイントしか使わないのに……」
「どうしてボールが取れねえ!?」
 その後も三人の先パイ相手に、『クライフターン』のみでボールをキープし続ける倉崎さん。

 凄い上手いな、倉崎さん。
ボクみたく、一対一を作らなくてもボールをキープしちゃってる……。

「ハア、ハア……クソッ!?」
「ど……どうしてコイツは、三人相手に息が上がってねえんだ!?」
「キミたちとは、鍛え方が違うからねぇ。それに、ボールは汗をかかない」

 根を上げ始めたのは、三人の先パイの方だった。
クライフターンによって、自分たちのペースでは無いタイミングで、走らされていたからだ。

「クライフターンの創始者でもある、ヨハン・クライフ。オランダの生んだスーパースターだ」
 倉崎さんはボールをキープしたまま、クライフの説明まで始める。

「スポーツ選手がスーパースターと呼ばれるきっかけとなったのも、クライフのイニシャルが、当時ヒットしていた映画、ジーザス・クライスト・スーパースターの、ジーザス・クライストと同じだったからとされている」

「コ、コイツ、喋りながらなのに……」
「な、なんでここまで、い、息が上がって……ねえ!?」
 余裕の表情の倉崎さんに比べ、三人の先パイは明らかに疲労困憊な感じだった。

「先に一馬の相手をしていたとは言え、まだまだ鍛え方が足りないなあ?」
 砂の地面に倒れ込んだ三人の先パイの傍らで、倉崎さんはヘディングでのリフティングに切り替え、ボールをポーン、ポーンと弾ませていた。


「一馬……オレからボールを取れるか?」
 倉崎さんは、おでこに張り付くようにボールをピタリと止め、ボクに視線を向ける。

「……」
 い、行きます、倉崎さん! ……っと、ボクは心の中で叫んだ。

 まずはボールの動きだけに集中し、間合いを詰める。

 今のルールじゃ、抜かれても護るべきゴールなんか無いんだ。
だったら、最大限に間合いを詰めて……体とボールの間に割り込む!

「フフ……そう来たか。だが、甘いな」
「うわあッ!?」
 ショルダータックル気味にボールを奪いに行ったが、地面に倒れたのはボクの方だった。

「オレとお前じゃ、体幹が違う。筋肉量も、鍛え方もな」
「……!?」
 挑発する倉崎さんに、あえて乗っかる。

 大好きなサッカーで負けるのは口惜しかったが、一向にボールが取れない。
決定的に、実力が違っていた。

「す、凄えぞアイツ」「あの一年も大した技術なのに……」
「それが、全然ボールを奪えないなんて……」「何者なんだ?」

 先パイたちの声も、ボクの耳には届かなかった。
滴る汗が空を舞い、ボクは何度もバランスを崩し、地面へとひれ伏す。

 と、取れない。上には上がいるとは思ってたケド……。
膝に付いた湿った砂の感触。
心拍数を上げた心臓の鼓動まで聞こえる。

 た、楽しい! なんでだろ?
不思議な感情が、ボクの心を支配する。

「まあ、そんなに落ち込むな、一馬。お前にはまだ、伸びシロがあるってコトだ」
 そう言って手を差し伸べた倉崎さんは、息も切らしていなかった。

 別に落ち込んでなんかなかったケド、楽しい時間が終わってしまったのが寂しかった。

「……入りたい……」
 口が勝手に動作する。

「ボク……倉崎さんのチームに……」
 奈央以外の他人の前で、久しぶりに喋れている。

「ああ。歓迎するよ、一馬。お前がオレのチームの、最初のメンバーだ!」
 倉崎さんは、サラリと言った。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第06話

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淡いグレーのスーツ

 十四人もの少女たちの人生……それをボクが先生として教えるコトで、台無しにしているのだろうか?

 単純に勉強を頭に詰め込むだけなら、ユークリッドの教育動画の方が遥かに効率的なのだ。
「それは、いつも思ってますよ。大勢の教師が職を失ったのも、ユークリッドという完全に近い授業動画を流す存在が現れたからですし」

「そうさ。ユークリッドの授業動画は、完璧とは言わないまでも、完璧に一番ちかい授業を提供していると思っている」

 淡いグレーのスーツをラフに着こなした男は、組んだ左腕に支えられた右腕のこぶしの上に、顎を乗せながら言った。

「何を言ってるかわからない年老いた教師や、経験不足で授業を進めるのがやっとの新米教師よりも、よほど的確でわかりやすく説明された授業だよ」

「その新米教師ってのが、ボクだと言いたそうですね」
 ボクは次の台詞まで間を開けたが、ユークリッドの社長は何も返して来ない。


「確かに教壇に立つ以上、新米だとか甘えたコトは言ってられない。ボクの授業が理解できなければ、困るのは生徒たちだ。教師としては失格だと思ってます」

「そうだねえ……」
 久慈樹 瑞葉は、腕を組んだポーズのままクルリと後ろを向いた。

「キミみたいな教師が多ければ、学校教育という既成概念に捕らわれた者たちの牙城も、もう少しは持ちこたえられたのかも知れないね」

 分厚い金属製の箱は、ボクたちを天空まで運ぶかの勢いで上昇する。

「彼らが守ろうとしたのは、理想的な学校教育なのかな?」
 透明ガラスの向こうには、昨日とは打って変わって晴れやかな空が広がっていた。

「彼らが守ろうとしていたのは、ただの既成概念じゃないのか……ボクはそう思ってるんだ」

 容赦がなく辛らつな言葉で、かつての学校教育を否定する久慈樹 瑞葉。

「既得権益とまでは言わない。だが彼らは、学校という時代錯誤なシステムにいつまでもこだわり、それが永遠に続くと思い込んでいた」

「危機感を感じていた教師だって、たくさんいますよ……」
「それはいるだろうねえ」「え!?」

「ただ時代を嘆いてるだけの教師や、何の代替案も示さず反対したいだけの教師……」
 社長の声のトーンが上がる。

「自分たちの不完全な授業を、学校教育とはそう言うモノだからと正当化する、愚かなヤツらが大量にね」
 淡いグレーの背中から、次々に辛らつな言葉が紡がれた。

 確かに今の子供たちから見れば、学校教育はいびつな代物だろう。

「動画で完全な授業が見れるのに、わざわざ解かりづらい授業を受けに、学校に行く必要はあるのかい。子供を学校なんて閉鎖空間に閉じ込めれば、それこそイジメの温床になりかねないだろ?」

 ボクも、かつてあった学校教育というシステムが抱える、最大の問題点だと思っていた。

「確かに以前の学校教育じゃ、イジメはあってはいけないモノとされてましたからね」
 ボクの心は、晴れ渡った空とは裏腹にヒドく澱んでいる。

「イジメを隠ぺいし、無かったコトにしたい校長や学校経営者ども。教育現場で派手なイジメが起きるのを、ハイエナのように待ち構えているマスゴミ連中。学校という古びた欠陥だらけのシステム自体に、問題があると思わないのかい?」

「いいえ……残念ですが、学校が無くなっても、イジメは無くならないと思います」

「そうかもね……」
 ボクの言葉に、小さなため息を付いた淡いグレーの背中は、エレベーターを降りて行った。

「教育者となった以上、イジメなんて存在しないとは……言ってられない」
 エレベーターの透明ガラスの向こうの、冴えない男が呟く。

 頬をはたき覚悟を決めると、ユミアたちの待つ『天空教室』へと向かった。

 

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP003

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二対一

 トラス橋が河をまたぐ、河川敷。

「……やっぱ来ちゃった」
 入学式が終わり、桜の花びらが舞い散る土手にはツクシが顔を出している。

「奈央は怒るだろうケド、このまま何もせずにサッカーを辞めるなんてイヤだ」
 けっきょくボクは、ポケットに放り込まれた名刺の住所を頼りに、河川敷を訪れていた。

「でも、倉崎さんのサッカークラブって、どこにあるんだ?」
 見たところ、河川敷にサッカーを練習している人もいないしなあ?

 名古屋の、それなりに大きな街を流れる一級河川の堤防沿いには、遊歩道があってランニングや犬のさんぽをしている人たちが行き交う。

 河川敷まで下りて行けば、砂の野球グランドがあり、サイクリングコースも通っていたが、小さなサッカーグランドには人すらいなかった。

「地元の高校のサッカー部が、使ってそうなグランドだな……」
 ここが、倉崎さんのデッド・エンド・ボーイズのグランドなのかな?
グランドに降りて、砂をすくってみる。

 ジャリジャリとサラサラの間くらいの砂だ。
「こんな場所で練習すれば、足腰が鍛えられそう」
家から持ってきたボールを、さっそく転がしてみる。

「あ。やっぱ、砂にスパイクの跡がある。誰かが練習してたのかな?」
 グランドには、無数の足跡が刻まれている。
すると急に、背後から声がした。

「あ? こないだの一年じゃねえか」「なんだ、こんな場所で?」
「ひょっとして、やっぱ入部したくなったとかで、オレたちを待伏せかぁ?」
 振り向くと、怖そうな顔がたくさん並んでいる。

 ヤバイ! ウチのサッカー部の、先パイたちだ。
急に顔の筋肉が強張って、口から言葉が出ない。

「オイ、何とか言えよ?」「またまた黙りかあ?」
 ひょっとして謝罪すれば、許してもらえそうな……雰囲気じゃ無いよね、これ。

「なんだお前、サッカーボール蹴ってたのか?」
「だがよ。ここはオレら、曖経大名興高校サッカー部のサブグランドだぜ」
「勝手に使ってんじゃねーぞ、コラァ!」

 えー、ココそうだったの? ヤ、ヤバイ……早く退かないと!
そう言えばウチの学校のサッカー部は、立地が大都会である名古屋のど真ん中で、グランドが無いから外のグランドを使っているとか言ってたな。

「オラ、ボールはあっちだぜ!」
 屈強な体躯の先パイが、ボクのボールを河に向かって蹴り飛ばそうとする。

「う、うわ……」
 ボクは反射的に左足の足裏でボールを引いて、右脚の後ろへと隠した。
かなり広い河なので、ボールが流されたら拾いに行けない。

「おわッ!?」
 蹴り飛ばすハズだったボールが消え、ハデにスッ転ぶ先パイ。


「ぎゃははは。コイツ、空振ってやんの!」
「ダッセーやつ」
 他の先パイにからかわれ、顔が真っ赤になる屈強な体の先パイ。

「こ、この……いい度胸じゃねえか。一年が、先パイをコケにしやがってよォ!」
 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! 先パイ、マジでキレちゃってる。

「今は少しばかり油断したがよォ。オレら曖経大名興高校サッカー部は、県大会じゃベスト4に残る強豪なんだ。テメーみたいな一年、本気を出せば簡単に……」
 そう言いながら、後ろに下がったボクの前を、勢い良く通り過ぎて行く先パイ。

 口はぜんぜん動かないクセに、体はナゼか反応してしまう。

「なんだよ、またかわされてるじゃねえかよ?」「一年相手に、だらしねえな?」
 二人の先パイがボクを前後に挟み込んで、同時にボールを取りに来る。
取られた方がいいのか? でも、大事なボールを河に放り込まれたら……。

「ありゃ。な、なんでボールが取れねえ?」
「ムムゥ、二人がかりだってのに……」

 ボクは、後ろから来る先パイを右にかわすと、前から来た先パイにボールを取られないように、足裏で引いてボールを体の後ろへと隠す。
それからは、二人の先パイが一直線に重なるようにボールを動かした。

「コ、コイツ、オレら二人を相手に、顔色一つ変えてねえぞ……」
「そ、それに、なんてキープ力だ。ナマイキなだけのコトはあるぜ」


 後ろの先パイが、左から前の先パイの前に出ようとすると、ボクも左に動いて前に出させない。
常に一対一の環境を作り出す。

「あ……!」
 すると、ボクのボールが別のボールに弾かれた。

「だ、誰だ!」「ジャマすんのは?」
 先パイたちと始めて意見が合ったボクも、弾かれたボールの転がった先を見る。

「ジャマして悪かったな、一馬。来てたのか?」
 そこには、見覚えのあるジャージ姿の男が立っていた。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十七話

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侘び・寂び・萌え

「な、何故じゃ!? あの小童は、妾が事故に見せかけ始末したハズ……」
 渡辺の姿を一番の驚きで迎えたのは、舞台の最深部に潜む経営コンサルタントの女だった。

「もう、遅いよ渡辺先パイ!」
「どこ行ってたの。心配したんだから!」
 慌てて壇上へと続く階段を駆け上がる渡辺を、双子は叱り付ける。

「双子の言う通りじゃわい、心配かけおって」
「みんな時間かせぐの、とってもタイヘンだったガオ~!!」
「ボクも舞台袖で見てて、すっごくハラハラしちゃったよ!」

「ホンットにゴメン! 色々とあって……結局、絹絵ちゃんも見つからなかった」
「そ、そんな……」「まったく絹絵ったら、どこ行っちゃったんだ!」
 気を揉む双子姉妹は、最後の舞台用の黄色とピンクの着物に着替えていた。

「……絹絵ちゃんは、必ず後で見付けるから!」
 メガネの少年の強い意志を帯びた言葉に、一同はそれ以上詮索するのを止める。

「今は茶道部の……いや、オワコン棟が誇る極者部のメンバー全員の、最後の見せ場だ」
 渡辺は気を引き締め、顔を二度ほど叩いてから舞台へ上がって行った。

「どこかで見いてくれ、絹絵ちゃん。オレは必ず、みんなを笑顔にするから!」
 橋元も壇上に上がると、巫女・美娘ダンシング部の天原 礼於奈から声がかかる。

「橋元、あんたにしちゃあ良くやった。渡辺をちゃんと連れ戻してくれたんだね」
「何だよ礼於奈? オレには、醍醐寺 沙耶歌って『フィアンセ』が居るんだぜ?」
「バ、バッカじゃないの! そんなんじゃ無いよ~だ。フンっだ!」

「もう、ふぜけてる場合じゃないわ、蒔雄。最後の仕事が残ってるわよ!」
 副会長に耳を引っ張られながら、生徒会長もステージに上がる。

「あ~あ、もう尻に敷かれてやがんの……」
 天原 礼於奈は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「みなさま、長らくお待たせ致しましたぁ。いよいよ我がオワコン棟の大トリの登場だぜ!」
 橋元 蒔雄が、得意の演説能力をフル回転させる。
「え~、見た目はメガネのちょっと地味なヤツだが、決めるときは決める男だぁッ!」

 舞台の中央には、羽織はかま姿となった渡辺と、浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌の双子姉妹、それに艶やかな赤い着物姿の『千乃 美夜美』が立っていた。

「……な、なぜお前が、ココに……!?」
 彼女の母親は、美しい娘の姿を驚愕の眼差しで見つめる。
それに気づいた娘も、視線から顔を逸らさなかった。

「茶道部・部長にして『萌え茶』の創始者ぁ~ッ!」
 そう言って、拳を高く突き上げる。
時間稼ぎのため、間延びした会場の雰囲気を変えようとの試みだ。

「渡辺ぇぇーー文ぃ貴ぁぁッ! 奴の点てる抹茶は絶品だぁぁぁーーーー!!」

 双子姉妹も、橋元の言葉を納得して聞いている。
「……いっつも寝っ転がって、呑んでるからね」
「そこだけは説得力ある」

 親友でもあり、悪友でもある生徒会長に、かなりのオーバーアクションで紹介された渡辺は、何歩か歩み出てマイクの前に立つ。

「故あって、茶道部の部長を務めさせていただいております、渡辺です」
 メガネの少年は、少しだけ緊張の混じった言葉で、集まった観客に語りかけた。

「茶道とは、『侘び・寂び・萌え』の三つの要素が重要なのです!」

「何だよ『萌え』って?」「茶道にそんなの入ってないぞ~ッ!」
 意表を突いた渡辺の一言に、会場中が大爆笑に包まれる。

 壇上には、双子も使った簡易式の畳が敷かれていた。
渡辺もそこに座ると、おもむろに抹茶茶碗を取り出す。

(あっ……あのお茶碗って、フーミンと始めて会った時の……)
 美夜美の瞳に映ったのは、藤色をした抹茶茶碗だった。
自分が『カチュリーン』と命名し、ナマイキな後輩にダメだ出しされたコトを思い出す。

 渡辺は、抹茶を点て始める……と、誰もが考えた矢先。
「この抹茶茶碗には……このコが似合うと思うんです。いや、絶対に合ってます!!」

 少年は抹茶茶碗に、美少女フィギュアをINした。

 

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP002

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倉崎 世叛

「キミ、サッカーやってるだろ? 左右の太ももの大きさが、極端に違うからね」
 男は一馬の脚を、ペタペタと触りながら言った。

 意思の強そうな瞳に、スラリと高い鼻、揺らぎのない自信を象徴するかの様な眉をしている。

「……あ?」
 いきなり見ず知らずの人間に脚を触られ、顔を強張らせる一馬。
けれども男の質問に、少しだけ緊張が緩む。

「な、なんなんですか、アナタは!」
 一馬の隣で、奈央が叫んだ。

「左利き……少なくとも、キックに関してはそうだろ?」
「人の話、聞いてますか? アナタは誰なんです。これ以上、カーくんの脚を触ったりしたら、警察呼びますよ!」

 奈央は、人見知りで喋れない一馬を押しのけ、男との間に割り込んで仁王立ちをする。

「そうか。いきなり失礼したね。オレはこういうモノだよ」
 ジャージ姿の男は立ち上がると、ポケットの財布から一枚の名刺を取り出す。

「えっと、なになに? 『デッド・エンド・ボーイズ代表取り締まり役』!?」
 一馬が受け取った名刺に書かれていた情報を、奈央が読み上げた。

「『倉崎 世叛(くらさき よはん)』……それが、アナタの名前なんですか?」
 一馬は相変わらず真顔のままだったが、ボクもそれ知りたい……とばかりに頷く。

「ああ、そうだ。こう見えて、サッカークラブのオーナーをやっている。よかったらキミ、ウチのチームに入らないか? 今ちょうど、メンバーを募集してるトコなんだ」
 倉崎の誘いの台詞に、自分の高校のサッカー部に入れなかった、一馬の目がキラキラ輝く。

「お? 乗り気じゃないか、キミのお兄さん」
「カーくんとは、幼馴染みです! 同い年ですから」

「そっか? てっきり、妹さんかと思ったよ」
 倉崎は奈央の容姿を観察しながら、悪びれるコト無く言った。

「う~~!」
 背の小ささや童顔に、コンプレックスのあった奈央は、生理的に倉崎が好きになれない。

「ダメだよ、カーくん。この人、怪し過ぎだから」
「オイオイ、オレのどこが怪しいって言うんだい?」
「全てです! 何もかもです!」「そいつは酷いな……」

「いきなり見ず知らずの人の脚を、ペタペタ触るなんて怪しさ全開でしょ。それにどう見たってあなた、高校生くらいですよね?」

「まあ、そうだな。高校三年だ」
「高校生が、サッカークラブのオーナーだって言うんですか!」
 奈央の的確な攻撃に、頭を掻きながら一馬を見る倉崎。

「クラブは今年、立ち上げたばかりでね。メンバー不足なんだ。クラブのオーナーってのは、ホントだよ。もちろん、トップリーグ所属のビッグクラブじゃあないケドね」
「それでも、クラブのオーナーなんですよね? あまり、お金持ちには見えませんケド」

「そうだな、今のところはね。金はこれから稼ぐところなんだ」

「あのですねえ……」
 奈央は呆れかえる。

「そんないい加減な話、誰が信じるって言うんですか。高校三年なら、わたしたちより先輩なんですから、もっとちゃんと将来を考えてですね……」
 小言モードに入る奈央を厄介と思ったのか、倉崎は耳を塞ぐようにフードを被る。

「……よかったら、見学においでよ。待ってるから」
 倉崎は奈央に聞こえないくらいの小声で呟くと、一馬のポケットにコッソリ名刺を入れて、走り去って行った。

「もう、人の話も聞かないで!」
 奈央は、一馬が最初に倉崎に渡された方の名刺を取り上げて、ビリビリと破く。

「カーくん、あんなヤツの言うことなんか、ぜったい信じちゃダメだよ!」
ゴミとなった名刺は、奈央の財布に仕舞われた。

「倉崎……世叛。一体、彼は何者なんだろう?」
 背の小さな幼馴染みを尻目に、一馬の中で倉崎に対する興味は膨れ上がる。

 彼のズボンのポケットには、もう一枚の名刺が残されていた。

 

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP001

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御剣 一馬

 その日、『御剣 一馬』は、サッカー部の部室中央に立っていた。

「何だ、お前……さっきから突っ立って、一言も喋らないでよォ?」
 年季の入った外の看板には、『曖経大名興高校サッカー部』と書かれている。

「オイオイ、口はついてんだろ?」「何とか言いやがれってんだ!」
 奥の窓際に座ったいかつい顔の男たちが、端正な顔立ちの少年に睨みを利かした。

「少しばかり顔がいいからって、スカした態度とってんじゃねーぞ、コラァ!?」
「サラサラした髪が自慢か、なあ? 一年がナマイキなんだよ!」
 先輩風を吹かしながら、言いがかりにも程がある態度で威圧を強める。

 細い眉に切れ長の目……御剣 一馬の風貌は、彼らがやっかむのも致し方なしと思えるくらいに、彼らとは対照的な涼しい顔だった。

「先パイであるオレたち相手に、眉一つ動かさないとはいい度胸じゃねえか?」
「その右手に持ったモンは、入部届けだろ」
「出すのか出さねえのか、いい加減はっきりしろ!」

 ……それから、三十分が経過した。

「だあああッ!? だからなんで一言も喋らないんだよ!」
「何がしてーんだ、お前?」
「入部してーんなら、さっさとそれ出しやがれってんだ!」

 するとサラサラ髪の一年生は、入部届けを持った方の手を高々と挙げる。

『ダアアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!」
 御剣一馬は『入部届け』を、部室の汚い長机に叩きつけた。

「お……おま、どんだけ根性座ってんだ、コラァ!!?」
「無言を貫いた挙げ句が、これかぁッ!?」
 それでも『御剣 一馬』は、表情一つ変えずに無言で立ち続けている。

「ワケわかんねーにも、程があるぜ……!」
「もう、いいから出て行け。お前みたいなヘンなヤツ、絶対に入部させねーからな!」
 いかつい顔の先輩たちは、ついに彼を強引に追い出した。

 それから一時間後……御剣 一馬は一人の女子高生と、川沿いの土手を歩いていた。

「あ~~~、またやってしまったぁあッ!!?」
 御剣一馬は、天を仰ぎ見る。
「すべての勇気を振り絞って、入部届けを出しに行ったのにィ、また一言も喋れなかったぁ~~!!」

 暖かくなり始めた日差しの元、真新しい制服に身を包んだ少年が叫ぶ。
「しかも、緊張のあまり入部届けを……入部届けを、机に叩きつけちゃったあぁッ!?」
 サラサラヘアーの頭を抱え、のたうち回る一馬。

「カーくん、アンタねえ。人前に出ると緊張して喋れなくなるの、何とか治んないの?」
 彼の叫びを聞いた女子高生は、ハアッと溜め息を付く。

「ムリだよォ、奈央。ボクが極度の上り症なの、知ってるだろ? 先パイたちに、ダメでドジで、要らないヤツだと思われたァ!」

 隣を歩く、サラサラヘアで端整な顔立ちの幼馴染みを横目に、奈央は思った。
(一馬の頭の中じゃ、未だに子供の頃のイジメられっ子のままなんだろうケド……アンタ、随分と背も伸びたし、カッコ良くなっちゃってるんだからね)

 土手を歩く二人は、奈央とは違う制服を着た女子高生の集団とすれ違う。
途端に、顔が強張る一馬。

「ねえねえ、今のコ見たぁ?」「めっちゃイケメンじゃん?」「でも、彼女持ちィ?」
「大して可愛くなかったよね、彼女」「だね~、不釣合い!」
 後ろから聞こえてくる女子トークを聞き流しながら、奈央は横目で一馬を見る。

「きっと先輩たちにも……イケメンでナマイキな一年だと思われたのよ……」
 一馬の幼馴染みの女子高生は、小さく呟く。

「ん? なんか言った?」
「カーくん、外見はカッコよくなってんだケドねえ……中身が……」

「やっぱ終ってるよねえ? だって自分の学校のサッカー部に、入部断られたんだモン」
 再び溜め息を付く女子高生の隣で、再び天を仰ぐ一馬。
「ああ、プロのサッカー選手になるっていう、ボクの夢があああぁぁぁッ!?」

 すると一人のジャージ姿の男が、土手をランニングしながら向こうからやって来た。
男はジャージのフードを頭に被り、顔はあまり見えない。
男は、二人の横を通り過ぎるかと思われたが、一馬の前にしゃがみ込んだ。

「……キミ、良い脚してるね」
 男はフードを外すと、若い青年の顔が現れた。

 

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