ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第03話

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メロンクリームソーダ

 挽き立てのコーヒーと、焼きたてのパンの香りに誘われ、ボクはカフェの中に足を踏み入れた。

  渋い色のウッドデッキに、ブルーやオレンジ色の照明の光が落ちる。
「ソファーもフワフワだし、コーヒーも上手い。やはりセレブな街で店を開くとなると、かなりの品質や素材が要求されるんだろうな」

 ボクは注文したコーヒーの湯気を、顎に当てながら香りを愉しむ。
無論、普段コンビニで頼む100円コーヒーで、その様な行動を取った記憶は無い。

「メロンクリームソーダを一つ……アイスの量はたっぷりでお願い」
 突然だった。

 ボクのソファーから、テーブルを挟んで反対側のソファーに、サングラスを架けた小柄な女性が座る。
つまりは、ボクと相席になる様に彼女は座ったのだ。

「あ、あの……あなたは?」ボクの質問に、女性は即答する。
「依頼主よ。家庭教師のね。全く……」彼女は不機嫌そうに言った。
「え? き、キミは……まさか……?」ボクは、彼女の声に聞き覚えがあった。

 ブカブカのハンチング帽から溢れ出す栗色の髪の毛や、サングラス越しでも神秘性を失わない瞳を知っている。
ボクの目の前に座っているのは、紛れも無く『瀬堂 癒魅亜』だった。

「わたしの依頼に応じたのが、寄りにも寄ってあなただなんて……そりゃ、驚くってものよ」
 瀬堂 癒魅亜は、サングラスをずらしながらボクを見る。

 すると店員が、エメラルド色の液体の入ったグラスを運んで来た。
注文通り、たっぷりのアイスが乗っかっている。

「い、いや……驚いたのはボクの方だよ。ユークリッドの教師であるキミに、家庭教師なんて必要無いだろう? どうしてこんな依頼を……」

「必要だからに決まっているじゃない。あなたを雇うかどうかはホント迷ったけど……実を言うと、今でも迷っているわ」
 彼女は、メロンソーダの上に渦巻き状に盛られたソフトクリームを、スプーンですくった。

「確かにボクは、教師として誰かを教えたのは教育実習くらいだ……。少しは勉強してきたつもりだケド、一年を通して授業を受け持ってきたキミには、到底及ばない」
 ボクは、彼女に言い返せるだけの実績を持って無い、自分に対して腹が立った。

「ご、ごめんなさい。今はそれどころじゃ……ちょっと待ってて」
 見ると彼女は、溶けると量が増し、溢れ出しそうになる仕組みのメロンソーダのアイスを、必死に口に運んでいた。

「こ、これ量が多過ぎだわ。ソフトクリームが溶けて、ソーダが……」
 夏の日差しはアイスを容赦無く溶かし、水量の増したソーダ水は、グラスからあふれ出ている。
ボクは思わず噴き出しそうになりながら言った。

「それ、先にソーダ水を飲めば溢れないんじゃ……?」
 彼女は顔を真っ赤にしながら、勢い良くソーダ水を啜った。

「う、うっさい。そ、そんなに可笑しいかな? 誰にだって失敗はあるでしょ!」
 瀬堂 癒魅亜は、女子高生の八つ当たりっぽく怒った。

「アハハ……ゴメン、ゴメ……」「ほら、まだ笑ってる」
 彼女と目が合うその瞳は何故か潤んでいた。
それに気付いたのか、彼女は顔を背ける。

「そ、それよりね。わたしが家庭教師を雇おうとしてるのは……」
 言いかけた瀬堂 癒魅亜は、周りの目を気にし始める。
彼女が瀬堂 癒魅亜である事は、ある程度知れているのかも知れないとボクは思った。

「場所を変えましょう。とりあえずウチに来て」「ウチって、まさかキミのマンション?」
「それはそうよ。家庭教師として契約すれば、そこがあなたの職場になるのだから。何か問題でも?」
「た、確かに……」

 ボクと瀬堂 癒魅亜は店を出ると、近くの高級マンションのフロントを通った。
彼女無しでは、到底ボクなど入れない場所だった。
高速エレベーターで最上階まで上がると、両開きのエレガントなドアが開く。

「入って」瀬堂 癒魅亜は、瞳の虹彩認証で部屋のドアを開けた。
「あ、どうも。お邪魔します」ボクは恐る恐る足を踏み入れる。
 部屋は黒い大理石の床にベージュ色のカーテン、大きな天蓋付きのベットまで置かれていた。

「これはまた……セレブの力は恐ろしいな……」
 日頃見慣れた、四畳半の床に黄ばんだカーテン、煎餅の様に固くなった布団が年中敷かれた部屋とは、対極を成す部屋が目の前に存在した。

一千年間引き篭もり男・第03章・05話

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ハンバーガーショップ

 ボクの目には、セミも夕日も、目の前にある見慣れたハンバーガーショップの看板すら、本物にしか見えなかった。

「ハンバーガーの、この安っぽい肉の感じも本物にしか思えない……」
 それは千年前に味わった味覚と、完全に一致する。

「なに独り言、言ってんだよ? それよりおとといの試合、惜しかったんだよな。アタシのシュートがバーを叩いてなけりゃあ……」
 六人掛けの席で、自らの武勇伝を語る真央は、サッカー部に入っている記憶を植え付けられていた。

「ヴァルナは、こないだの選考レース、どうだったんだ?」
「バッチシ……水の中でわたしに勝てる者など居ない」
 水色のセミロングの髪の少女は、どうやら水泳部のようだ。

「わたしは妹の面倒見なきゃだから、あんまラクロス部にも顔出せなくてさ」
「ナマカちゃんと、ヒイアカちゃんですよね? 二人とも、ハウメアにソックリなのですゥ」
 ハウメアに本当に妹が居るのかは、解らなかった。

「なあ、セノンは何部なんだ?」ボクはあえて、問題になるような質問をする。
「もう、新体操部ですよ。なに寝ぼけてるんですか、宇宙斗くん!」予定通り怒るセノン。

「そーそ、リボンを身体に巻き付けたり……」「頭でクラブをキャッチするのが得意……」
「フープに乗っかって、股を抑えて悶絶してたりもしたよね?」
 三人の女子高生のスマホには、レオタード姿のセノンの、その場面が映し出される。

「ふぎゃああぁぁぁーーッ!!? な、なに、宇宙斗くんに見せてるんですかぁ!!?」
 顔を真っ赤に染めながら、慌ててボクの目を塞ぐセノン。
「宇宙斗くんも、今みたことは忘れてください。いいですね」「あ……ああ……」

 ボクが強制的に納得させられていると、自動ドアが開いて見覚えのある顔が入って来た。
「プ、プリズナー!?」入って来た彼は短ラン姿で、昔のヤンキーのような格好をしている。

「そ……それに、一緒に居るのって……もしかして?」
 彼と共にハンバーガーを注文しているのは、バイオレットのクワトロヘアの女子高生だった。
彼女の足元には、ラズベリー色の髪の小学生が四人、赤いランドセルを背負いながら走り回っている。

「あの綺麗な女子高生って、トゥランなのか!? 走り回っているのは、ラサたち?」
 トゥランは、プリズナーの機構人形(アーキテクター)であり、女性型の美しい顔はしているものの、その容姿はアンドロイドのハズだった。

「オイ、ちょっとツラ貸せ!!」
 プリズナーがボクたちの席にやって来て、低い声で言った。
「そ、宇宙斗くんが、不良に絡まれてますゥ」「心配しないで、セノン。直ぐ戻るから」


 ボクはプリズナーの後に付いて行き、クワトロテールの女子高生の隣の席に着く。
「あの……トゥランさんだよね?」「はい、そのようです」彼女は、美しく笑った。
「同じクワトロテールでも、セノンより黒乃に似てるな……」ボクはポツリと呟く。

「まったく……ワケが解らんぜ。目覚めてみりゃあ、オレはこんな格好だしよォ。コイツらにいたっては、人間の姿になってやがる!」
 オラつく感じは、ヤンキーにしか見えない。

「わたしは気に入ってますケドね。どうです? 魅力的に感じませんか?」
「べ、べべ……別に感じるかよ、アホ!!?」動揺が隠せないプリズナー。
「わーい、わーい」「人間になれたぁ!」はしゃぐ女子小学生。

 彼女たちは、トゥランの四本の髪の先が分離した、小型アークテクターのラサたちだった。
「ウッセーぞ、お前ら!! 走り回るな! スカート、バサバサすんな、パンツ見えんだろ!!」
「うえェ~ん!」「プリズナーさまに怒られたぁ!」

「ほら、おいで」ラサたちは、手を広げるトゥランの元へと駆け寄る。
「ラサたちをイジメるなんて、悪い人ですね!」「ウ、ウッセー!!」
「あ……あの、それより……?」「わ、わーってるよ!」ボクはプリズナーに怒鳴られた。

「気になってるコトがあるんだケド、プリズナーたちは今までの記憶があるのか?」
「あ? 当たり前だろ。何を言って……って、まさかアイツらはッ!?」
「ああ……セノンたちは全員、記憶を書き換えられている」

「なんだと?」「それは本当ですか?」
「セノン、真央、ヴァルナ、ハウメア……それにクーリアたちも、記憶を入れ替えられていた。今の彼女たちは、自分がこの世界の普通の女子高生だと思って、生活しているんだ!?」

「マジかよ……『時の魔女』は一体、何を考えてやがるんだ!」
「コミュニケーション・リングに間違った情報を流せば、未来は簡単に支配できる……」
 ボクは学校で、中年教師が言った言葉をプリズナーに伝えた。

「そりゃ、そうかも知れんが……」腕を組んで考えるプリズナー。
「コミュニケーション・リングの情報は、二十一世紀に開発された『ブロックチェーン』の技術によって、互いの情報を担保し合ってます。本来であれば、簡単に書き換えられるハズは無いのですが……」

「ネットワークから切り離された、この宇宙船の中では、それも可能……と?」
「はい……」バイオレットのクワトロテールの女子高生は、小さく頷いた。

この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第02話

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セレブの住む街

 ボクは、スマホに表示された『家庭教師の求人』を見て考える。

「スマホでもパソコンでも気軽に、ユークリッドのわかり易い授業を全科目、無料で見れるんだ。先生だってリストラされるご時世に、家庭教師なんて雇う家庭、かなり減ってるみたいだけど……」

 この時代に家庭教師を雇うのは、ゲームなどに夢中になり過ぎて、動画で勉強をする気がまったく無い子供か、不良で荒れている子供かの、どちらかが多数を占めていたからだ。

「流石にそれは……」
 ボクはスマホをポケットに仕舞うと、職安の席を立った。
近くを流れる川の土手を通る小道を、肩を落としながら歩いてると、新たな考えが浮かんで来る。

「でも……どちらの理由であっても、教師を必要としているんじゃ無いか?」
 川は冷たく気持ちよさそうに流れていて、夏の川縁には草が生い茂っていた。
ボクは時折、顔に纏わり付いてくる小さな羽虫を払いながら、河川敷まで降りる。

「熱血教師が、生徒を選り好みしてどうすんだ!!」
 コンクリートの河岸に横たわって、スマホを太陽がギラつく真上に上げると、求人の登録ボタンをおもいきってタップした。

 直ぐにメールの着信音が鳴り、登録完了のメールが届く。
「さて……鬼が出るか、邪が出るか……まずは面接だろうな。先方もボクを気に入ってくればければ、雇ってはくれんだろうし」

 その日は、それで一仕事終えた気分になり、コンビニで発泡酒と好物のハッシュポテトを買ってアパートに帰宅する。

「アイツにも安上がりな好物だって言われたが値段は関係ない。好きなものが偶々安かっただけだ」
 まずはポテトを頬張り、少し温かくなった缶のタブを開け、ささやかな酔いを味わった。

 次の日、参考書を買い、ユークリッドを見ながら教え方のコツを研究する。
けれども、先方からは一向にメールは届がない。

 一週間が過ぎ、二週間を迎え、遂にアパートを引き払う期日も差し迫った折やっと、面接の日程を知らせるメールが届いた。

 その間も、教育系の求人を探し続けたが、ただの一件も見つからない。
「面接の場所は……この駅で降りるのか? 余りに連絡が無いから、次の企業面接も入れちゃったよ。まあ、面接が上手く行くとは限らないが……」

 面接は、むしろ上手く行かない場合の方が多かった。
学校の教師になりたかったボクにとって、それ以外の職業に付くコトは妥協でしかなく、ベテランの面接官たちは、それを見透かしたかの様にボクを不採用とした。

「いかん。いかん。これから面接だってのに、落ち込んでもられないな。家庭教師……か。一体、どんな雇用形態なんだろ? 個人契約なのかな?」
 目の前で両開きの扉が開くと、ホームドアも開いて次々に人が雪崩れ降りる。

 ボクも、地下鉄独特の匂いがするホームに降り立った。

「この匂い、昔から嫌いじゃ無いな。でも、二時過ぎなのにそれなりに混雑してるなぁ。周りは、随分とセレブな地区らしいが……」
 金持ちが暮らす街でも、容赦なく急な階段で地上に出る。

「やっぱ、とんでもなくお洒落な街だな」
 そびえ立つ高層マンション群が、ボクをバカにし見降ろす様に出迎える。

「3Dの地図アプリで確認は済んでるが、実際に見ると凄いな。有名デザイナーが、建物も公園も、街を丸ごとデザインしたってだけのコトはある」

 周りには、煌びやかで上品ながらも気取り過ぎない女性や、ブランド物のスーツをさりげなく着こなし、高級外車のドアを優しく開けてあげる男性がいた。

「……うう。就活でくたびれた安物スーツなんて、場違い感ハンパ無いな……」
 みんなボクなどには目もくれず、優雅に自分の生活を愉しんでいる。
自分が、完成された絵画に描かれた、質の低い落書きの様にも感じられた。

「今はそんなコトを、気にしたって仕方ないか。面接の場所は……この先のカフェか? 随分と変わった場所で面接するんだなぁ」
 3D地図アプリに案内されたボクが、行き着いた場所は、小洒落たカフェの前だった。

萌え茶道部の文貴くん。第五章・第八話

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闇にうごめく獣たち

 暗闇と言ってしまっても過言では無い、土壁に覆われた小さな部屋。

 そこにたいまつが二つ灯り、暗闇から祭壇を赤く照らし出す。
「……どうッスか、お爺サマ? 何かわかったッスか?」

「……ウム……これは間違い無く、『キツネの毛』じゃぁなあ」
 祭壇には、長く伸びた毛に体中を覆われた一匹の獣が、人間の老人の様に腰を曲げて立っていた。

「や……やっぱりッスか?」
 祭壇の下には、一人の少女が正座をして座っている。
少女は小柄で、髪の毛はかなりのクセ毛であり、シマシマのポシェットをしていた。

「恐らくその女、キツネに憑かれたか……もしくは……」
 年老いた獣は、外観に似つかわしくないギラリとした黄色い目で、目の前の少女を見つめる。

「アリガトウございましたッス。では、行って参りますッス!」
 少女は、その場を後にしようとした。

「……待て、絹絵よ。お前が人間の姿で居られるのは、この事件が……」
 獣は、しゃがれた声で少女を呼び止める。

「……わかってるッス。元々、ご主人サマに助けて貰った命ッス。恩返しが終ったら……」
 少女は四つ足の獣となって、洞窟を出て行った。

「……やれやれじゃのォ。獣が人と関われば、悲惨な結末が待っていると云うに……」
 老齢の獣は、手に持った杖を突きながら、ヨロヨロと歩き始める。

「キツネ……か。彼奴(きゃつ)等は、我等より知恵が回りおる……厄介な相手じゃぞ、絹絵よ」
 やがて年老いた獣も洞窟を出て、漆黒の夜空に細い眼のように浮かぶ弦月を見上げた。
「我が孫娘よ……果たして……」

 空は澄んだ青空に変り、白い月が小さく浮かんでいた。

 薄いピンク色のナース服を着た五人の少女が、ある建物の前で立ち止まる。
「ここが、例のおじいさんの入っている施設ですわね」
玄関フォールには巨大な強化ガラスが並び、煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。

 庭には、リハビリ用としては巨大過ぎるプールがあり、南国のリゾートホテルを思わせる。
「ちょっと豪華過ぎない?」「高級ホテルよりスゴイよ?」
そこは『老後の保養施設』と言うには、余りにも豪華だった。

 施設の最上階の半分を占有する、大きな部屋の大きなベットの上。
「ほ~ら、お口を開けて。 お爺様、あ~~ん♪」
一人の老人が、五人の少女に甲斐甲斐しく世話を焼かれている。

「全く、揃いも揃って、貧相な体の女子どもじゃのォ?」
「酷いですわぁ。こんなぴちぴちした女子高生が、五人も居てお世話をしているのですよ」
 ナース服姿の少女たちは、大きなベットに跳び乗った。

「もっと、色めき立ってもよくてよ?」「うっふ~ん♪」
 老人はため息を付く。

「……いくらナース服を着込んで、言葉使いを色っぽくしたところで、体つきまでグラマーになるワケでは無いのじゃぞ?」「そ、そんなッ!?」「う……うそ!?」
 少女たちは、驚愕の真実を突きつけられてショックを受けていた。

「これこれ、そう落ち込むでない。お主らはまだ若いのじゃから、体の成長はこれからじゃろうて」
「……そ、そうですわよねぇ!」「悩殺的なプロポーションになるのは、これからですわ!」
 周りではしゃぐ少女たちの輪の中で、再び老人はため息を付く。

「しかし、沙耶歌の知り合いにお主らの様な者がおるとはのォ。あの子は少し、堅苦しく物事を考え過ぎると心配しておったのじゃが……取り越し苦労だったかのォ?」

「……実はお爺様……その件について、お話がございますわ」 
 『ナース服・学生服化推進委員会』の香住 癒音は、かしこまった表情になっていた。
老人は、少女達の話に耳を傾ける。

 それから老人は、深く大きなため息を付き、部屋の窓から遠くの景色を眺めた。
「……全くワシをこんな場所に押し込めておいて……愚息どもは……何をやっておるのじゃ」

 ~別の場所~

 漆黒の夜空を舞い跳ぶ、一匹の獣がいた。

 その毛並みは月明かりを浴びて、銀色に輝いている。
雲が月を隠し、地上は闇に包まれた。

 再び月が顔を出した刻……獣は消え去り……。
地上には、吊り上がった妖艶な目をした女が、細い半円を描いた口で妖しく笑っていた。

この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第01話

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ボクは先生になる夢を先送りしました

 ボクは自宅のボロアパートへと帰宅した。

 今どき四畳半の畳が、ボクを出迎える。
「時代の波に抗い続けたこの畳とも、もう直ぐお去らばか」
来月には隣接する道路の拡張工事とやらで、アパートの取り壊しが決まっていた。

「思えば四年と少し前、大学の合格を勝ち取って上京したボクを、随分と落ち込ませてくれたのが、このボロアパートだったな」
 袋からカップ麺を取り出し、蓋を開けてポットでお湯を注ぐと五分の時を待った。

「それも今となっては……不思議なモノだな……」
 昭和の風情が残る木の柱も、ギシギシと軋む階段も、むき出しになった電気配線も、別れるとなると寂しさを感じる。

「このまま就職が決まらなければ、実家に帰って就職浪人か……何とも気が引けるなあ」
 蓋を開けると、カップ麺のうどんは少しふやけていた。

「親もボクには相当期待をかけてくれていただろうに……情けない話だ、まったく」
 厚揚げをどけてうどんを啜る。

 スープをたっぷり吸わせた厚揚げを頬張っていると、耳元で羽音が聞こえる。
振り払って天井を見上げると、蚊が飛んでいた。
夏のボロアパートは、吸血虫の侵入を容易に許すのだ。

「瀬堂 癒魅亜……か。偉そうに振舞ってしまったが、今のボクは女子高校生に完全に負けてるな」
 大学入学と同時にボクを絶望させたアパートは、久しぶりにボクを落ち込ませる。

「……彼女、ボクをお兄様に似てるとか言ってたよな。一体、どんな兄なんだろう?」
 網戸の向こうは、星灯りと黄色い三日月が夜空を照らしていた。

「何にせよ奇麗で優秀な妹を持って、さぞや幸せな兄じゃないか」
 何の考えも挟まずに、彼女の兄を羨ましく思う。

 ボクはそれよりもまず、彼女の言った言葉(キーワード)を、深く考えるべきだったし、推察すべきだったのだ。

「彼女……動画で見るより可愛いっていうか、意外とコケティッシュな部分もあるよな」
 炎天下を一日中歩き回り、食欲も満たされたボクの脳ミソは、十分に機能しているとは言い難かった。

「まずは食いつなぐ為の仕事を見つけないとな……明日、職安にでも行ってみるか」
 ボクは畳に寝転がると、天井からぶら下がっている照明の紐を引っ張った。

 バスタオル一つで朝を迎えたボクは、スマホのランプが点滅しているのに気付く。

 履歴を見ると、昨日の友人から何通もメールが入っていた。
折り返し電話をかけると、やかましい声がボクの脳を完全にを目覚めさせる。

「お、起きたか? オレさ、就職決まりそうなんだわ。まあオレが望んでたのとは少し違うんだが、最近流行ってるスマホゲームの音楽を手がけてる会社でさ。オレがネットにアップしてた動画を見て、気に入ってくれたらしいんだ。昨日あれから連絡があってよ……」

 ボクはオメデトウを言った。
それは、半分は心から言ったもので、半分は違っていた。

 歯を磨いて顔を洗い、着替えを済ませる。
朝食は外で済ませるつもりで、荷物の少なくなった四畳半の部屋を出ようとすると、玄関には冷めたコーヒーが置いてあった。

「まったくボクは……でも、もったいないから飲んで置くか」
 昨日のコーヒーを飲んだあと、部屋を出て鍵をかける。
「とりあえず職も探さないとな。それに来月からの住む場所も……どうしよっか」

 田舎の実家に帰る決断も出来なかったし、都会で新たな住居と仕事を見つけて、やって行く自信も無かった。

「瀬堂 癒魅亜の前で、あれだけ大人ぶって置きながら……計画性も決断力もゼロじゃないか。これじゃ生徒に勉強を教える資格なんて無いな」
 ボクはまず、職業安定所……通称、職安へと向う。

 設置してあるパソコンで、職種を選んで検索してみるが、教育関連の仕事は皆無だった。
「工場や運送業ならけっこうあるが、もやしなボクにやって行けるか不安だ。でも、そうも言ってられないか? その場しのぎな選択にも思えるが、悩むな……」

 マウスで画面をスクロールさせていると、ふと友人の助言を思い出しす。
「仕事を見つけるなら、ネットの求人サイトの方が優秀って言ってたな、アイツ」
 今にして思えば、処世術に長けた友人の知識には随分と助けられた。

「……アイツはもう、就活なんてしなくてもいいご身分か……大学の成績はボクの方が優秀で、勉強もよく教えていたケド、面倒を見て貰ってたのはボクの方かもな……」
 常に隣に居た戦友を失って、ボクはその有難みを感じずには居られなかった。

「就職アプリも、ダウンロードはしてあったよな。今までは大学経由で面接行ってたケド、流石に就職浪人ともなると……大学に頻繁に顔を出すのもな」
 喪失感を感じつつもスマホを取り出し、求人アプリも立ち上げてみる。

 アプリは、登録してある職種の求人が一覧で表示される仕組で、一週間に二度情報が更新される。
「職安じゃ教育関連の求人なんて一件も無かったケド、民間の求人アプリはどうなのだろう?」
恐る恐る、アプリの求人ページを開いた。

「お、あるじゃん! ……一件だケド」
 早速、その求人の詳しい情報を得るために、画面をタップする。

「え……か、家庭教師? ユークリッドがあるご時世に!?」
 熱血教師を目指しているボクでも、流石に驚いたし少し不安にもなった。

一千年間引き篭もり男・第03章・04話

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奇妙な授業風景

 窓の向こうに広がる風景は、ボクがまだ千年前の高校に通っていた頃と変わらない。

 教室を見渡すと、千年前にボクを殴ったチャラい男子生徒や、頭の悪そうな女子生徒もいる。
そこに、未来の住人であるハズのクーリアや、真央がいて、時澤 黒乃の席にはセノンが座っていた。
 三人の首元には、コミュニケーション・リングと呼ばれる輪っかが巻かれている。

 二十一世紀風に言ってしまえば、情報端末(ウェアラブルウェア)なのだろう。
「コミュニケーション・リングに間違った情報を流せば、未来は簡単に支配できる……」
ボクは、中年教師の言葉を、頭の中で繰り返す。

「クーリアも、真央も、セノンも、間違った情報を与えられ、なんの疑いも無く授業を受けているのか?」

 知識を得るために勉強しなくても、情報が詰まったチップを差し込むだけで、簡単に知識が得られるという利便性は、裏を返せば悪意のある間違った情報すら、簡単に知識として受け入れてしまう惰弱性をもたらしていた。

「次……ケイトハルト、読んでみろ」中年の先生は、次の生徒を指名する。
 ケイトハルトとは、『真央・ケイトハルト・マッケンジー』のことだった。
「千年前……世界は変革の時を迎える。それまで世界を支配してきたのは『国』、『国家』だった」

 セノンに『マケマケ』よ呼ばれる少女は、千年前からの人類史を語り始める。
「国に代わって台頭してきたのが、『企業』だった。小さな国よりも巨大な力を持った企業は、自ら電子マネーを発行し、やがてより強大な力を得るようになる」

「企業が……国に取って替わるだって!? そ、そんなコトが……!?」
 ボクの驚きを他所に、中年教師は満足した笑みを浮かべる。

「世界の主流が資本主義となる中で、資本を支配する者が世界を支配する。実質的な通貨まで発行し始めた巨大企業が、国に替わって政治力を増大させたのは、必然と言えるでしょう」
「ボクが惰眠をむさぼっている間に、世界はそこまで変貌を……」

「では次、ヴァルナ。読んでみろ」「あ、あのコは、腹をえぐられて……!?」
 先生が次に指名したのは、左の脇腹に重傷を負い、街の委員に残してきたハズのヴァルナだった。
水色のセミロングの髪に、青緑色の瞳をした少女は、ケガをしてる様子など微塵も無かった。

「はい。実質的な通貨を発行し、金融業をも巨大な資本力で牛耳り始めた企業は、やがて軍隊をも手に入れます。二十一世紀の初頭から始まった軍事兵器の無人化技術は、やがてAI技術の発展もあって、急速に進化していきました」

 中年教師はヴァルナの次に、ハウメアを指名する。
「国境の意味は薄れ、国の存在すら希薄になって行く中、人類は宇宙を目指し始めます」
彼女は、茶色いドレッドヘアに太い眉、モスグリーンの瞳を持った褐色の肌の少女だった。

「宇宙は資源の宝庫であり、化石燃料の枯渇も迫っていたため、人類は宇宙を目指さざるを得ませんでした。初期の宇宙開発が国の威信のために行われていたのに対し、二十一世紀では企業が商業目的で宇宙開発を担うようになったのも、国という枠組みの衰退に拍車をかけた要因とされています」

 彼女たちの口から紡がれる物語は、遂に人類の宇宙時代の幕開けまで来ていた。
『リィーンゴォーン』と、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「今日は、ここまで……」中年教師は、教壇を離れた。

 窓の外は、すでに大きな夕焼けとなっており、校舎から生徒たちが帰り始めている。
「宇宙斗くん、一緒に帰ろ?」制服姿のセノンが、ボクに話しかけてきた。
「なんか、『おじいちゃん』って呼ばれ方の方が、しっくりくるのはどうしてかな?」

「何言ってるの、宇宙斗くん。同い年でどうして、おじいちゃんなんて呼ばなきゃいけないの?」
「ま、まあその通りなんだが……」この茶番劇は、いつまで続くのだろうと思った。
「おう、宇宙斗、一緒に帰ろうぜ」「帰る」「だねだね」真央と共に、ケガの二人も寄って来る。

「ヴァルナにハウメア、ケガは大丈夫なのか?」「ケガ?」「なんのコト?」
 二人は不思議そうに、顔を見合わせた。
「なに寝ぼけてんだよ。それより帰り、ハンバーガー喰ってこうぜ!」

 三人の女子高生に囲まれながら下校するという、非日常を経験するボク。
下駄箱ロッカーまでくると、十一人の女の子が、傍らを通り過ぎて行った。
「クヴァヷさまの、お出迎えですね」「中等部のコたちを、メイドとして雇ってるんだ」

「仮想現実でも、金持ち設定のままか」「なにか言った、宇宙斗くん?」
「いや、ただの独り言だよ。セノン」「そ、そうですか」「セノンのヤツ、赤くなってんの!」
「マケマケ!!」真っ赤になったセノンが、真央を追いかける。

「なんだ……このリア充設定は……」
 ボクは、夕日を見上げながら思った。


一千年間引き篭もり男・第03章・03話

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簡単に得られる知識

「く、黒乃!?」
 ボクは思わず叫ぶ。

 小さな住宅街の、電信柱の下に立っていた女性のクワトロテールは、艶やかな黒ではなく栗色だった。
「世音……どうしてキミがここに……!?」
そこには、ついさっき別れたセノンの姿があった。

「その服……一体どうしたのですか、セノン?」クーリアも問いかける。
 セノンは白いシャツに、ピンク色のリボンを可愛らしく結んでいた。
下半身には紫陽花(あじさい)を連想させる、チェック柄のスカートを穿いている。


「セノン……その制服……ボクたちの学校の!?」
 彼女が身に着けていたのは、ボクの通っていた高校の女子生徒の制服であり、かつてボクの部屋に来た、時澤 黒乃も身に着けていたモノだった。


「もう、なにやってるんですか、宇宙斗くん。生徒会長も急がないと、遅刻しちゃいますよ!」
 セノンが、ボクとクーリアの腕を掴んだ。
「落ち着け、セノン。何を言ってるんだ!?」「ちょ、ちょっと……セノン!?」

 セノンは走り出し、ボクたちは引っ張られて何メートルか進まされる。
「トゥラン、やはり何かおかしいぜ。ラサたちを飛ばして、辺りを探れ!」
「了解です。プリズナー」トゥランが四本の髪の先から、小型アーキテクターを分離させる。

「ラサたち、お願いします」「了解ィ!」「任されたぁ!」
 四人のラサたちは、元気に上空へと飛び上がって行く。
「フギャアッ!?」「グハアッ!!」「キャアア!?」「ヒャアア!!」

 ラサたちは、雷にでも撃たれたかのように感電して、落下してしまう。
「やっぱ、オレたちを監視してやがる。『時の魔女』の仕業か!?」
 プリズナーとトゥランは、撃墜されたラサたちの元に駆けよる。

「待ってくれ、セノン。一体、どうしたと言うんだ!?」
 ボクは、セノンの手首を握って、彼女が走るのを止めた。
「学校、行かないと……遅刻しちゃいますよォ?」虚ろな表情のセノンが言う。

 すると空に浮かんだ雲や、街のコンクリート塀や商店街に貼られたポスターに、『Warning』の文字が浮かんだ。

「一体、なにがどうなってやがる!?」辺りに、警報音が鳴り響く。
「音波式の制圧兵器です。気を付けて……」トゥランの言葉は、超高音の音波でかき消される。
 ボクの意識は、一瞬で断ち切られた。

『リーンゴーン』耳に、聞き覚えのある鐘の音が響き渡る。
「ん……ここは……!?」ボクは、目を覚ます。
 一番に目に飛び込んできたのは、安っぽい模様の机だった。

「佐々木、十二ページの三行目から、読んでみろ」「はい……」
 顔を上げると、深緑色の長い板に白い文字が並び、その前に四十代くらいのおじさんが立っている。
「ここは……高校の教室!?」ボクも、いつの間にか制服を着ていた。

「そこじゃない、ちゃんと聞いていたのか、佐々木。仕方ない、委員長……」
「はい……」返事をして立ち上がったのは、クーヴァルヴァリアだった。
「ク、クーリア? どうして、キミまで……!?」

 ボクの高校に居るハズの無い、未来の世界の人間であるクーリアまでそこに居る。
「宇宙斗、どうしたんだ、ボーっとしてよ?」斜め後ろの席から声をかけてきたのは、真央だった。
制服も、黒乃の着ていたモノと同じだったが、首元にあるリングだけが違っている。

「確か、『コミュニケーション・リング』とか言ってたな?」
 リングについては、セノンから説明を受けていた。
「このリングによって、あらゆる情報を簡単に得られるんだよな?」

 千年後の未来では勉強をしなくても、チップ一つで簡単に知識が得られる。
覚えるのではなく、それぞれの分野の情報の詰まったチップを、差し込むだけである。
得た知識を管理しているのが、恐らくこの『コミュニケーション・リング』なのだ。

「普段の学校の風景にしか見えないケド……これも幻想なのか?」
 雲は浮かんでいたものの、メカニカルな天井も見えた上空も、澄んだ青空になっていた。
「セミが鳴いてるし、蒸し暑い。こんな授業風景をボクに見せて、何がしたいんだ!?」

「わたしたちの生きる千年後の未来では、知識は学ばなくても、簡単に得られるようになりました」
 クーリアが、朗読を続けている。

「初期の段階では、知識だけインプットしても、脳が知識にアクセスする過程が抜け落ちていたために、多くの精神障害を引き起こす事故が発生してしまい……」
 彼女が呼んでいるのは、コミュニケーション・リングの歴史という項目だった。

「ボクの時代のアナログな教科書に、未来の事柄が描かれているなんて、シュールな話だな」
 それは明らかに、この艦のあるじであろう『時の魔女』が、仕組んだモノだろう。

 中年の先生が言った。

「つまり、コミュニケーション・リングに、間違った情報を与えてやれば、未来は簡単に支配できるというコトだ」