ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~第13章・116話

魔獣(キュマイ・ラー)

「魔獣(キュマイ・ラー)の能力を、ことごとく無効化(レジスト)するとは……これが、貴女たちの召還した高位精霊の力ですか!」
 溶けた槍を回収する、ベレ・ロ・ポンティス。

 彼の手懐(てなず)ける魔獣の前には、風と水の2体の高位精霊の姿があった。

「随分と苦戦しているな、ベレ・ロ・ポンティス。お前らしくも無い」
 鷹のような鋭い眼光をした少年が、赤銅色のカールした髪の少年の背中から近づいて来る。
手には、大暗刻剣(マハー・カーラ)を携えていた。

「拙者は手が空いて、退屈をしていたところだ。手を貸して、やろうか?」
 コーヒー色の身体に黒い髪を頭の後ろで結わえた少年は、銀色の縁取りのある緑色のコートの下に、金色の鎧を装備している。

「余計なお世話ですよ、レオ・ミーダス。彼女たちは、わたしの獲物です。手出しは無用……」
「強がるな、多勢に無勢だ。1体は、拙者が相手をしてやる」

「アナタこそ、わかってませんね。アナタの敵は、まだ倒れてはいないのですよ」
「フッ。なにを言っている、ベレ・ロ・ポンティス。蒼髪の少年は、この大暗刻剣が生み出した、3つの黒きエネルギー球(トゥリ・シューラ)の重力によって、身体を押し潰され……」

 その時、突然なにも無い空間がひび割れ、中から別の空間が覗いた。

「な、なんだ、これは!?」
「言ったでしょう。彼は、時空の狭間で生きていたのですよ」

 ベレ・ロ・ポンティスが語った通り、時空のひび割れは徐々に大きく広がって、中から青い髪の少年が現れる。
けれども、普段は翡翠色の瞳が、ワインレッドに変わっていた。

「キ、キサマ、どうやって拙者のトゥリ・シューラから、逃れるコトが出来た!」
 大暗黒剣を構えながら問いかける、レオ・ミーダス。

 すると、ベレ・ロ・ポンティスの魔獣が激しい咆哮を上げ、背中のヤギの頭までいなないた。

「ど、どうしたのです、キュマイ・ラー。落ち着きなさい!」
 けれども魔獣は、主の静止も聞かずに、舞人に飛び掛かって行ってしまう。

 舞人が、ガラクタ剣を1閃した。
キュマイ・ラーの獅子の頭がボトリと落ち、魔獣の腹の前後でも両断され崩れ落ちる。

「簡単な、話さ。ボクのジェネティキャリパーは、魔王とか強力な魔族を、女のコに変える能力なんだ」

 獅子の頭、ヤギの頭のある上半身、蛇の尾を持った下半身の、3つに分断された魔獣。
やがてそれぞれのパーツは、眩(まばゆ)い光を放ち始めた。

「な、なにが、起きてるの!」
「斬られた魔獣が、ドンドン小さくなってくよ!?」
 驚きを隠せない、ウティカとルスピナ。

「そう言えばお主らも、初見じゃったかの。妾にとっては、見慣れ過ぎて見飽きた光景なのじゃがな」
 ルーシェリアは、ヤレヤレと言った表情で、魔獣が3人の少女に変化する様を見守った。

「随分と、ふざけた能力だな。だが魔王でも魔族でも無い、人間には無力なのだろう?」
「まあね。だから人間のキミとは、身体強化だけで戦わなくちゃならなかった」

「なるホド。だがどうしてキサマは、トゥリ・シューラを撃ち破れた?」
「ジェネティキャリパーは、魔力の弱い魔物は消滅させてしまう。キミのトゥリ・シューラは、暗黒の魔力そのものだったから、消滅させられたんだ」

 レオ・ミーダスの疑問が解決される頃には、眩い光は収まる。
キュマイ・ラーの3つのパーツがあった場所には、全裸の3人の少女が地面に転がっていた。

「な、なんと言うコトだ。わたしの魔獣が、こんな姿に!?」
 気を失っている3人の少女をかき集め、姿を確認するベレ・ロ・ポンティス。

 3人はそれぞれ、ライオンのタテガミのような髪と牙を持った少女、ヤギの様な角を持った少女、ヘビのシッポを持った少女に生まれ変わっていた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第51話

代役の少女

「オ、オレ、頭がこんがらがって、もうワケわかんねェよ!」
 観客席から、大きな男性の声が轟(とどろ)いた。

「渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)ちゃんは、殺されて無かったってコトでしょ」
「じゃあ、風呂場で首飛ばされて発見されたのって?」
「だから、代役の少女って言ってるじゃない!」

「代役って、そんなのが歩いてたら、簡単にバレるんじゃね?」
「警察にとってサキカちゃんは、いきなり孤児院からやって来た女のコに過ぎないのよ。同い年くらいの女の子が、サキカちゃんと同じ格好をして歩いてても、気付かないって」

「そっかァ。まあ、そんな気もするな」
 やっと納得する、男性客。

「ケドよ。死体を解剖すりゃ、本人じゃ無いコトくらい解るだろう?」
「今ならね。昔の話だし、孤児院で育った私生児のサキカちゃんを、本人だとどうやって特定する?」

「そりゃ、えっと……どうやって?」
 男性客は、さらなる疑問にぶち当たった。

「サキカさんは、自分の代役の少女が部屋にやって来るまで、自室に隠れていたのでしょう」

 観客席の推理論争が終わる頃を見計らって、マドルが推理の続きを始める。

「少女を招き入れたサキカさんは、彼女に睡眠薬入りの紅茶などを勧める。2人は、同じ孤児院で育った顔見知りだった。とうぜん少女は、疑いも無く紅茶を飲んでしまう」

「だが彼女の部屋からは、ティーセットなどは発見されとらんぞ」
「睡眠薬さえ投入できれば、お菓子でも何でも構わないよ」
 マドルは、苛立ち気味に言った。

「睡眠薬は、遅効性のモノだったのだろう。彼女は浴室で、湯舟に浸かった頃に眠りに落ちてしまう」

「そこをマスターデュラハン……渡邉 佐清禍に、首を斬り落とされたと言うワケか」
 警部の見解に、マドルは反応を示さない。

「だけど全部、アンタの憶測だろう?」
「証拠は、あるのかい?」
 シスターの長女と三女が、マドルを問い詰めた。

「貴女方の言う証拠……つまり犯行現場に残っていてはマズいモノが、2つあった」
「なる程。1つは、代役の少女の首だな?」

「ご明察だね、警部。そしてもう1つが、サキカさん自身だ。彼女はマスターデュラハンによって、殺されてなくちゃ行けないからね」

「アンタ、墓穴を掘ったね。そんな証拠、見つかっていないんだろ?」
 次女の菊も、マドルの推理をあざ笑う。

「とうぜん貴女方は、それらの処理方法も考えていた。その日は、土砂降りの大雨だったからね」
「マドル。お前は、そこまで解っているのか?」

「代役となった少女の首は、布か何かに包んで、窓から投げ出せば済む話さ。それをレインコートを着た、貴女方の誰かが回収した」

「確かにあの夜は、土砂降りで屋根を叩く雨音も凄まじく、雷まで鳴ってやがったからな。真夜中に首が1つ転がったところで、誰も気付かないってワケか」

「そしてレインコートを着た貴女方の誰かは、館の玄関へと回り込んで、住み込みのメイド長を呼び出した。それに応じたメイド長が玄関に行ってる隙に、サキカさんは館から逃げ出したのです」

「なるホド。そうやって代役少女の首と、サキカ本人を館から遠ざけたのか」

「フン。何かと思えば、全部アンタの妄想だろ?」
「ウチらは、証拠を示せって言ってるんだ」
「レインコートでも何でも、出して下さいな」

 3人のシスターたちは、その役職に相応しくない口調で言った。

「証拠と言うより、証言なら取れてます」
「な、なんだって!?」
「一体、誰の証言だってんだい!」

「子供たちです」
 マドルの台詞と共に、そこが孤児院だと示す子供たちの声が流れる。

「子供たちだって? ふざけんじゃ、無いよ!」
「ふざけてなどいませんよ、菊さん」
「このガキどもが、何を言ったってんだい!」

「子供たちが、証言してくれました。あの日、居なくなった少女のコトを」
 神於繰 魔恕瘤(かみおくり マドル)は、言った。

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キング・オブ・サッカー・第10章・EP028

別れた運命

「マジか。このスカした野郎が、倉崎 世叛(よはん)のチームの選手ってのはよォ」
 題醐(だいご)さんが、怪訝(けげん)そうな顔でボクを睨(にら)んでいた。

「間違いないだろう。地域リーグの公式も確かめたが、そちらにも得点者として彼の名前が乗っている。まあ、相手に14点も取られてはいるがな」
 宝城さんが、スマホでさらなる情報を提示する。

「14点だァ。どんなキーパー使ってんだ。オレだったら……って、そう言うコトかよ」
 題醐さんは、自分で納得してしまった。

「サッカーで14点なんざ、普通はあり得ない数字(スコア)だからなあ。オメーが必要ってのも、わかる気がするぜ」

「美浦の言う通り、キーパーが早急な補強ポイントと言うワケだな?」
 宝城さんの質問に、コクリと頷(うなず)くボク。

「確かに14点なんて、野球ですらほとんど聞いたコトがない数字だからね。どうよ、鷹春。アンタ、行ってやってみたら?」
 ポエムさんが、それとなく聞いた。

「誰がやるか」
「なんだい、口先だけ? アンタがキーパーでも、変わらないって……」

「流石に、変わるだろ。少なくとも、何点かは防いでるぜ」
「だったら、なんで?」

「倉崎のヤツの下に付くってのが、気に喰わねェ」
「相手は、サッカー界期待の新星なんだろ。別に下に付いたって、構わないと思うケド」

「フッ。そう言えばお前、代表の合宿じゃ、倉崎 世叛と一緒だったと言っていたな」
 宝城さんが、話に入って来る。

「そうなの。ってかアンタ、代表にまで呼ばれてたってコトかい!?」
「ジュニアユースの頃の、話だ。アイツもオレも、代表の常連ってワケでも無かったんだがな」

「それが、片や日本サッカー界の注目を集める的で、名古屋じゃレギュラーどころかチームの中心でよ。片や学校も退学して、サッカー部からも……」

「黙れ、アホ。オレは、サッカーから足を洗ったんだ。じゃあな!」
 美浦さんの言葉に反発した題醐さんは、どこかへ行ってしまった。

「あちゃ~。怒らせちまった」
 悪いと思っているのかどうか、美浦さんは頭を掻いている。

「アイツ、自分の部屋に行ったね。ま、ほとぼりが冷めたら、またアタシから話してみるよ」
 ポエムさんが、大人らしい対応をした。

「お願いします。オレたちも、アイツにはサッカーを続けて貰いたいと思っているんで」
「わかっているよ。だケド、最終的に答えを出すのは、アイツ自身さ」

「はい。そろそろライブも始まる様ですし、オレたちは失礼致します」
「ああ。また、寄っとくれ」
 気さくな挨拶を交わす、ポエムさん。

「じゃあわたし達も、お暇(いとま)しよっか、ダーリン」
「……ウ、ウン」
 ボクたちも、席を立った。

「オレンジジュース、美味しかったです。わたし達も、またお邪魔させて貰ってもイイですか?」
「モチロンさ。深夜時間じゃなきゃ、また来てくんな」
 女の人同士、会話が自然に流れてる。

 ボクもあんな風に、普通に喋れたらな……と思いながら、地上へと出る階段を昇った。

 外に出てライブハウスを振り返ると、Gilbert(ギルバート)と書かれた看板が、薄っすらとピンク色に光っている。
それが、ポエムさんの亡きお父さんの名前だと知った今、ただの看板とは思えなかった。

「さ、沙鳴ちゃん……今日は……アリガト」
 精一杯、言葉を口から吐き出す、ボク。

「どう致しまして。でも、題醐さんはまだゲットしてませんよ」
 隣を歩く、沙鳴ちゃんが上を見上げた。

「また、来なくっちゃ……」
 空には星が、輝き始めている。

「わたしも、出来る限り付き合いますから、頑張りましょう!」
「ウ、ウン」
 頼もしい相棒を得たボクは、決意を胸に家路に付いた。

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一千年間引き篭もり男・第09章・23話

浴室での尋問

 ステュクス少佐の艦隊旗艦から、漆黒の宇宙へと飛び立った小型宇宙艇。
宇宙艇は偵察用であり、内部に4機のサブスタンサー等を搭載可能だった。

「これより、宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアの、視認可能宙域に進入。これ以上の接近は、発見される危険を伴います」
 格納庫内のサブスタンサーに登場した、ヴェローナ少尉が告げる。

「了解です。戦闘になったら、こちらに勝ち目はありません。敵艦との距離を維持し、ヴァクナ少尉、ヴィカポタ少尉との交信を優先します」
 ニー・ケー中尉が、返した。

 小型宇宙艇は、宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアからの距離を保ちつつ、その内部に捕虜となって捕まっている同胞との通信(コンタクト)を続ける。

「これでヨシっと! ウンウン、キレイになったね」
 宇宙戦闘空母の中に存在する豪華な浴室で、ご満悦の群雲 美宇宙。
彼女は全身泡まみれで、泡以外は何も身に着けていなかった。

 浴室には、大理石で作られた巨大な円形の浴槽が中央にあって、獅子の頭をした魚の口から湯が注ぎ込まれている。
金色のシャワーヘッドがいくつも並び、観葉植物もジャングルのように植わっていた。

「キミたち、クーリアの尋問も終わったコトださ。そろそろ自分の口から、名前を教えてくれたって、イイんじゃないかな?」
 泡を洗い流した美宇宙が、浴槽に横たえた2人の少女に問いかける。

 2人の少女は、髪型は違っていたが純白の髪に、褐色の肌の身体をしていた。
膨らみかけた乳房が、僅かに湯から出るくらいに浸かっている。

「なんだい。まだ、意識が戻らないのか」
 不機嫌そうな、美宇宙。

「仕方が無いよ、美宇宙。コミュニケーションリングを通じての尋問で、意識が混濁しているんだ」
 2人の少女の1人を、膝枕をするように抱えた、オレンジ色のボブヘアの少女が言った。
彼女は健康的な肌に、深緑色の瞳をしている。

「わかってるよ、レオナ。でもクーリアって、意外に酷いよね。いくら捕虜だからって、汚れた身体のまま尋問しちゃうんだモン」
 美宇宙は我がままを言って、足をバタつかせた。

「止めてって、美宇宙。バシャバシャしないの!」
 もう1人の少女を膝枕に抱えた、マゼンタ色の長い髪の少女が叱る。
彼女は、純白に近い絹のような肌に、バイオレット色の瞳をしていた。

「なんだよ、リリオペ まで。でもボク、こうやって誰かとお風呂入るの、始めてなんだ」
 レオナとリリオペに挟まれた美宇宙が、真っ白な大理石の天井を見上げる。

「そっか。美宇宙は、宇宙斗艦長のクローンだから……アッ、ゴメン!」
「イイって、レオナ。ボク自身、気にしてないし。でも、どうして女になっちゃったんだろ」

「わたしとしては、美宇宙ってメッチャ可愛いから問題無いと思うわよ」
 リリオペが美宇宙に、メリハリの利いた身体を寄せた。

「リリオペは、イイよね。胸もバインバインだし。ボクは、元が男なせいかこんなだモン」
「アハハ。美宇宙は、どっちが背中か解らないな」
 ケラケラと笑う、レオナ。

「ウッサイな。レオナだって、そこまで大きくないクセに!」
「な、なんだとォ。美宇宙よりは、わたしのが大きいぞ!」
「僅差だよ、僅差。そんなんで勝って、嬉しいワケ!?」

「ウフフ……」「クスクス……」
 そのとき、2人の耳に笑い声が聞こえた。

「アレ? 今笑ったの、リリオペ?」
 美宇宙とレオナが、同時に同じ質問をする。

「いいえ、違うわよ。ホラ、笑ったのはこの2人」
 それは、リリオペとレオナが膝枕のように抱えた、2人の少女だった。

「ア! キミたち、やっと起きたんだ!」
 喜ぶ、美宇宙。

「わたしの名は、ヴァクナです。階級は、少尉よ」
「わたしは、ヴィカポタ。同じく、少尉だ」
 2人は、膝枕のまま口だけ動かして言った。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・115話

精霊使いの少女たち

 キュマイ・ラーの咆哮(ほうこう)と共に、ライオンの口が火炎を吐き出す。
ベレ・ロ・ポンティスが投げ込んだ槍(プルム・ヴム)は、溶けて灼熱の緋弾となってウティカやルスピナを襲った。

「荒ぶる風を巻き起こせ、アニチ・マリシエイ!」
「水の壁(ウォーター・ウォール)よ、メガラ・スキュレー!」
 自分たちの召還した精霊に、命令を降す2人の少女。

 風の精霊は5本の竜巻を発生させ、水の精霊は流れ落ちる滝の壁を発生させた。

「その歳で、高位精霊を使役するとは大したモノですね。ですがその程度の妨害で、わたしの灼熱の緋弾は止められませんよ!」

 魔獣の火炎によって熱せられ、ドロドロに溶けた鉛の粒。
竜巻の中を瞬時に突き抜け、水の壁をも貫いて、2人の少女の身体を貫く。

「キャアアアッ!?」
「イヤアアアッ!!」
 ウティカとルスピナの悲鳴が、闘技場に響き渡った。

「ウティカ姉さま!」
「ル、ルスピナ姉さまが!?」
 イオ・シルら12人の少女たちが、目の前の光景に青褪(ざ)める。

「なんてこった。アイツらが、やられちまった!?」
「オレたちの盾すら、焼き尽くしちまった炎だ」
「熱せられた鉛球を身体中に喰らえば、助かりは……」

 その後ろで、ティンギスら3人の船長も、悲痛な表情を浮かべていた。

「ククク。高位精霊を以ってしても、我がプルム・ヴムを防ぐコトは不可能。さあ、次はアナタたちが身体を焼かれ、鉛に貫かれる番ですよ」
 ベレ・ロ・ポンティスは、魔獣の喉を撫でながら、3人の船長と12人の少女の方へと近づいて行く。

「それは、どうかの」
 魔獣を操る英雄の前に、漆黒の髪の少女が立ちはだかった。

「オヤオヤ、貴女がおいででしたか。貴女も、レオ・ミーダスと同じ重力を操る剣を使うのでしたね」
 重力の影響を警戒し、ベレ・ロ・ポンティスは足を止め身構える。

「なんじゃ、妾のイ・アンナを警戒して、近づいて来んとはの。じゃが、お主の相手は妾では無いぞ」
「……どう言う意味でしょう?」
「そのままの意味じゃ。後ろを、見てみるが良かろう」

「後ろ? 後ろに、なにがあると……なッ!?」
 振り返って驚く、ベレ・ロ・ポンティス。
英雄の目には、2人の少女の姿が映っていた。

「ど、どう言うコトです。彼女たちは、我が灼熱の緋弾に貫かれて、死んだハズ!」
「それは、早とちりと言うモノじゃ。ああ見えて2人は、大魔導士リュオーネ・スー・ギルの高弟なのじゃからな」

「リュオーネ・スー・ギル……ヤホーネス王国が誇る5第元帥の1人にして、魔導の探求者と云われた、あの大魔導士ですか」

「残念だったね。わたしのアニチ・マリシエイは、蜃気楼(しんきろう)の精霊でもあるの。アナタが貫いたと思ったわたし達は、小さな水の粒のスクリーンに映った幻影よ」
 竜巻の中から姿を見せない精霊を従える、ウティカ。

「で、では、水の精霊が発生させたあの滝は、まさか……」

「メガラ・スキュレーが生んだ流れ落ちる滝は、小さな水の飛沫を生み出すためのモノだよ」
 ルスピナも、獣の下半身を持った美しい少女の精霊に、寄り添っていた。

「流石と、言うべきでしょうか。魔導の能力だけで無く、頭の方も切れる。ですが!」
 ベレ・ロ・ポンティスは2人に向け、キュマイ・ラーを解き放つ。

「性懲りもなく、また火炎の攻撃かァ。だがよ、ウティカとルスピナの嬢ちゃんたちにゃ、効かないぜ」
 観客席から大きな声で冷やかす、ティンギス。

「フッ、キュマイ・ラーの能力は、火炎だけとは限りませんよ」
 魔獣を操る英雄の指示で、キュマイ・ラーの背中から生えたヤギの頭が奇怪な声でいななき、不快な音波を放った。

「アニチ・マリシエイの前で、空気を振るわせる攻撃なんて無意味だよ!」
 風と蜃気楼の精霊が、魔獣の音波攻撃を完全に無効化する。

「ならば、こんなのはどうです!」
 キュマイ・ラーのシッポの大蛇が、毒の霧を吐いた。

「水の精霊は、毒を中和するの」
 けれどもメガラ・スキュレーの下半身から流れ出た水が、毒を完全に洗い流してしまった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第50話

サキカと孤児院

 渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)の件に、孤児院の3人のシスターが関わっていると言うマドル。
それに対し、ドームに集った観客から様々な声が沸き上がった。

「警察が、シスターたちを殺人に関わってると見ているって、どう言うコトだ?」
 観客の1人が、叫んだ……と言うより、それが彼本来の声量だったのかも知れない。

「サキカちゃんが殺された事件に、孤児院が関わってるってコトよね?」
「あり得なくはない話だケド、孤児院って今までそんなに関わって来なかったジャン?」
「館と孤児院って、けっこう離れてるっポイけど、どうやって関わったんだろ?」

「まさか3人のシスターが、館まで赴(おもむ)いてサキカちゃんを殺したってのか?」
「それは無いでしょ。大体、動機が不明過ぎるわ」
「ウ~ン。だったら、なんで?」

 騒(ざわ)めく観客席からも、疑問符しか浮かんで来なかった。

「わたし達が、あのコの殺人事件に関わっているだって?」
「残念ですがわたし達は、館に赴いたコトはございません」
「とんだ見当違いの、推理だったね」

 中年女性の3人のシスターたちの声が、ニヤニヤと笑っている様に聞こえる。

「オ、オイ、マドル!」
「落ち着いて、警部」
 マドルが、慌てる警部を制した。

「我輩は、サキカさんの件と言ったのであって、殺人とは言って無いのですがね」
「同じコトだろう。他に、なにがあるってんだい?」
 長女の珠の声が、反論する。

「我輩は、サキカさんの次に殺された、第3の殺人の被害者となったトアカさんを殺したのは、サキカさんだったと推理してるのですよ」

「チョット、警部さん。この警部補さんは、自分がなにを言っているのか解っておいでなのでしょうか。気が動転して、矛盾に気付いていないとしか思えません」
 次女の菊が、冷静な口調で言った。

「この人の言う通りだぜ、マドルよ。お前、どうかしちまったのか!?」
 更に慌てる、警部の声。

「サキカちゃんは、マスターデュラハンによる第2の殺人の被害者なんだぜ。浴室で、首無し死体となって発見されている。お前だって……」

「もしその死体が、サキカさんのモノで無かったとしたら?」
 神於繰 魔恕瘤(かみおくり マドル)は、言った。

「なに言ってんだ。渡邉 佐清禍のモノで無かったんなら、他に誰の……!?」」
 途中で口籠る、警部。

「そう。サキカさんは私生児であり、彼女が彼女と証明できる人物は、ほぼ皆無だ」
 マドルの推理に、ドーム会場が大きく騒めいた。

「だ、だったらお前は、サキカはまだ……」
「ああ。彼女は恐らく、まだどこかで生きている」

 マドルが台詞を終えると、背後のガラスの塔に渡邉 佐清禍の血文字が浮かび、それが流れ落ちるように消える。

「ふ、ふざけんじゃ無いよ!」
「どこに証拠が、あると言うのですか!」
「冗談もたいがいにしないと、訴えるよ!」

「随分な、慌て様ですね。サキカさんが生きていると、お困りのコトでもあるのですか?」
「そ、それは……」
「別に、無いさ」

「我輩には、そうは見えませんね。サキカさんが生存しているのであれば、浴室で発見された首無し少女はいったい誰なのか?」

「さ、さあね」
「わたし達には、関係が…」

「貴女方は、サキカさんの替わりとなる少女を用意できた。この孤児院にも、サキカさんと同年代の少女は大勢いる。身寄りの無い少女に、サキカさんと同じ服装をさせて、殺人のあった重蔵氏の館へと向かわせたのではありませんか?」

「な、なるホド。同じ服装の見ず知らずの小娘なら、警備の目も掻い潜れるって寸法か!」

「モチロン、代役となった少女は、自分が首を落とされて殺されるとは、露(つゆ)にも思わなかったでしょう。孤児院では見れない豪華な家具や食べ物をエサに、貴女方は少女を送り出したと、我輩は考えているのです」

 マドルの推理劇は、終焉(クライマックス)を迎えようとしていた。

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キング・オブ・サッカー・第10章・EP027

スカウトの仕事

「なんだ、テメーら。雁首(がんくび)揃えて。オレを、連れ戻すつもりならムダだぜ」
 題醐(だいご)さんは帰って来るなり、上着をソファに放り投げてドラムセットに向かった。

「ワン、ツー……ワン、ツー、スリー!」
 ドラムスティックでカウントを取り、バラードらしき曲を歌い始める。
ドラムの完成度に比べて、明らかに歌は音程がズレていた。

「相変わらず、歌はド下手だな、宝城」
「ああ。文化祭のときと、変わらないレベルだ」
 美浦さんと宝城さんも、呆れ顔でステージを眺めている。

「ケッ、止めだ、止め。気分が、乗らねェぜ」
 題醐さんはドラムスティックを置くと、ボクたちの居る観客席の方へとやって来た。

「さっき、ツラ合わせたばかりだってのによ、宝城。オレに、なんの用だ?」
「他でも無い。題醐、お前の将来について話がある」
「将来? 見ての通りだぜ。オレは、ドラムを続ける」

「続けるってアンタ、バンドメンバーも無しに、どうやって音楽を続けるって言うんだい?」
 ポエムさんが、話に入って来る。

「ウッセー。今、募集かけてるトコだ」
「彩遠寺さん。コイツ、まだバンドに所属して無かったんですか?」
 宝城さんが、ポエムさんに問いかけた。

「アタシが3件ホド、紹介してやったんだがね。コイツが、余りに変わり者で唯我独尊なモンだかから、どのバンドとも上手く馴染めなかったんだよ」

 さもありなん……っと、思ってしまう。

「仕方無ェだろ。音楽性の、違いってヤツだぜ」
「なァにが、音楽性の違いだよ。ヒヨッコの、クセに!」
「だ、誰が、ヒヨッコだ!」

「アンタのドラムは、周りに合わせるってコトを知らないからね。それじゃ、いつまで経っても、メンバーなんて集まりゃしないよ」

「放っとけや!」
 苛立ちを、前の席の椅子に八つ当たりする題醐さん。

「鷹春! ボロい椅子に、当たってんじゃ無いよ。アンタの退学した経緯は、このコたちから聞いたよ」

「ケッ。まったく、余計なコト喋りやがって!」
 宝城さんと美浦さんを、睨み付ける題醐さん。

「そう怒るな、題醐。お前が学校を辞めたのは、少なからずオレの責任でもある。キャプテンであるオレが、厳煌(げんこう)教諭の横暴な采配を止めれなかったばかりに……」

「オイオイ、宝城。そりゃ、ムリってモンだぜ。いくらサッカー部の主将だからって、顧問になっちまった教師の指示にゃ、逆らえんだろ」

「美浦の、言う通りだ。オレが退学したのは、全てオレの責任だぜ。お前にゃ、関係無ェよ」

「お前とは、中学の頃から5年間、チームメイトだったんだ。関係はあるさ」
「昔話だ。言っただろ。オレは、サッカーを止めたってよ」

「お前……彼らの話は、聞いたのか?」
 宝城さんの視線が、ボクと沙鳴ちゃんの方へ向いた。

「アン……アア、コイツらか。バーガーショップで会ったヤツらで、オレをスカウトするとかどうとか、抜かしてやがったな」
「ヤッパちゃんと、聞いて無かったのかよ?」

「ウッセ、美浦。オレらより年下みてェなガキが、オレをスカウトって言われてもよ。まともに取り合う方が、どうかしてるぜ」

 ま、まあ確かに、言われてみればそうだよね。
紅華さんにも、最初は相手にされなかったし。

「だけど鷹春。このコたちは、どうやらかなり大物がオーナーを務めるチームから、来ているみたいなんだよ」
「なんだって?」

「彼らは、あの倉崎 世叛がオーナーを務めるチームから、お前をスカウトしに来ている」
「そうだぜ、題醐。デッドエンド・ボーイズってチーム名でよ。今のお前に、ピッタリな名前だよな。ギャハハ!」

「黙れ、美浦。だいたい、コイツらが倉崎のチームのスカウトだって、証拠はあんのかよ?」

「スマホで調べたが、彼の顔がホームページに載っている。名前は、御剣 一馬だそうだ。地域リーグの、フルミネスパーダMIEとの試合で得点を決めている」

 宝城さんが、ボクのプロフィールを明かした。

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