精霊使いの少女たち
キュマイ・ラーの咆哮(ほうこう)と共に、ライオンの口が火炎を吐き出す。
ベレ・ロ・ポンティスが投げ込んだ槍(プルム・ヴム)は、溶けて灼熱の緋弾となってウティカやルスピナを襲った。
「荒ぶる風を巻き起こせ、アニチ・マリシエイ!」
「水の壁(ウォーター・ウォール)よ、メガラ・スキュレー!」
自分たちの召還した精霊に、命令を降す2人の少女。
風の精霊は5本の竜巻を発生させ、水の精霊は流れ落ちる滝の壁を発生させた。
「その歳で、高位精霊を使役するとは大したモノですね。ですがその程度の妨害で、わたしの灼熱の緋弾は止められませんよ!」
魔獣の火炎によって熱せられ、ドロドロに溶けた鉛の粒。
竜巻の中を瞬時に突き抜け、水の壁をも貫いて、2人の少女の身体を貫く。
「キャアアアッ!?」
「イヤアアアッ!!」
ウティカとルスピナの悲鳴が、闘技場に響き渡った。
「ウティカ姉さま!」
「ル、ルスピナ姉さまが!?」
イオ・シルら12人の少女たちが、目の前の光景に青褪(ざ)める。
「なんてこった。アイツらが、やられちまった!?」
「オレたちの盾すら、焼き尽くしちまった炎だ」
「熱せられた鉛球を身体中に喰らえば、助かりは……」
その後ろで、ティンギスら3人の船長も、悲痛な表情を浮かべていた。
「ククク。高位精霊を以ってしても、我がプルム・ヴムを防ぐコトは不可能。さあ、次はアナタたちが身体を焼かれ、鉛に貫かれる番ですよ」
ベレ・ロ・ポンティスは、魔獣の喉を撫でながら、3人の船長と12人の少女の方へと近づいて行く。
「それは、どうかの」
魔獣を操る英雄の前に、漆黒の髪の少女が立ちはだかった。
「オヤオヤ、貴女がおいででしたか。貴女も、レオ・ミーダスと同じ重力を操る剣を使うのでしたね」
重力の影響を警戒し、ベレ・ロ・ポンティスは足を止め身構える。
「なんじゃ、妾のイ・アンナを警戒して、近づいて来んとはの。じゃが、お主の相手は妾では無いぞ」
「……どう言う意味でしょう?」
「そのままの意味じゃ。後ろを、見てみるが良かろう」
「後ろ? 後ろに、なにがあると……なッ!?」
振り返って驚く、ベレ・ロ・ポンティス。
英雄の目には、2人の少女の姿が映っていた。
「ど、どう言うコトです。彼女たちは、我が灼熱の緋弾に貫かれて、死んだハズ!」
「それは、早とちりと言うモノじゃ。ああ見えて2人は、大魔導士リュオーネ・スー・ギルの高弟なのじゃからな」
「リュオーネ・スー・ギル……ヤホーネス王国が誇る5第元帥の1人にして、魔導の探求者と云われた、あの大魔導士ですか」
「残念だったね。わたしのアニチ・マリシエイは、蜃気楼(しんきろう)の精霊でもあるの。アナタが貫いたと思ったわたし達は、小さな水の粒のスクリーンに映った幻影よ」
竜巻の中から姿を見せない精霊を従える、ウティカ。
「で、では、水の精霊が発生させたあの滝は、まさか……」
「メガラ・スキュレーが生んだ流れ落ちる滝は、小さな水の飛沫を生み出すためのモノだよ」
ルスピナも、獣の下半身を持った美しい少女の精霊に、寄り添っていた。
「流石と、言うべきでしょうか。魔導の能力だけで無く、頭の方も切れる。ですが!」
ベレ・ロ・ポンティスは2人に向け、キュマイ・ラーを解き放つ。
「性懲りもなく、また火炎の攻撃かァ。だがよ、ウティカとルスピナの嬢ちゃんたちにゃ、効かないぜ」
観客席から大きな声で冷やかす、ティンギス。
「フッ、キュマイ・ラーの能力は、火炎だけとは限りませんよ」
魔獣を操る英雄の指示で、キュマイ・ラーの背中から生えたヤギの頭が奇怪な声でいななき、不快な音波を放った。
「アニチ・マリシエイの前で、空気を振るわせる攻撃なんて無意味だよ!」
風と蜃気楼の精霊が、魔獣の音波攻撃を完全に無効化する。
「ならば、こんなのはどうです!」
キュマイ・ラーのシッポの大蛇が、毒の霧を吐いた。
「水の精霊は、毒を中和するの」
けれどもメガラ・スキュレーの下半身から流れ出た水が、毒を完全に洗い流してしまった。
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