スカウトの仕事
「なんだ、テメーら。雁首(がんくび)揃えて。オレを、連れ戻すつもりならムダだぜ」
題醐(だいご)さんは帰って来るなり、上着をソファに放り投げてドラムセットに向かった。
「ワン、ツー……ワン、ツー、スリー!」
ドラムスティックでカウントを取り、バラードらしき曲を歌い始める。
ドラムの完成度に比べて、明らかに歌は音程がズレていた。
「相変わらず、歌はド下手だな、宝城」
「ああ。文化祭のときと、変わらないレベルだ」
美浦さんと宝城さんも、呆れ顔でステージを眺めている。
「ケッ、止めだ、止め。気分が、乗らねェぜ」
題醐さんはドラムスティックを置くと、ボクたちの居る観客席の方へとやって来た。
「さっき、ツラ合わせたばかりだってのによ、宝城。オレに、なんの用だ?」
「他でも無い。題醐、お前の将来について話がある」
「将来? 見ての通りだぜ。オレは、ドラムを続ける」
「続けるってアンタ、バンドメンバーも無しに、どうやって音楽を続けるって言うんだい?」
ポエムさんが、話に入って来る。
「ウッセー。今、募集かけてるトコだ」
「彩遠寺さん。コイツ、まだバンドに所属して無かったんですか?」
宝城さんが、ポエムさんに問いかけた。
「アタシが3件ホド、紹介してやったんだがね。コイツが、余りに変わり者で唯我独尊なモンだかから、どのバンドとも上手く馴染めなかったんだよ」
さもありなん……っと、思ってしまう。
「仕方無ェだろ。音楽性の、違いってヤツだぜ」
「なァにが、音楽性の違いだよ。ヒヨッコの、クセに!」
「だ、誰が、ヒヨッコだ!」
「アンタのドラムは、周りに合わせるってコトを知らないからね。それじゃ、いつまで経っても、メンバーなんて集まりゃしないよ」
「放っとけや!」
苛立ちを、前の席の椅子に八つ当たりする題醐さん。
「鷹春! ボロい椅子に、当たってんじゃ無いよ。アンタの退学した経緯は、このコたちから聞いたよ」
「ケッ。まったく、余計なコト喋りやがって!」
宝城さんと美浦さんを、睨み付ける題醐さん。
「そう怒るな、題醐。お前が学校を辞めたのは、少なからずオレの責任でもある。キャプテンであるオレが、厳煌(げんこう)教諭の横暴な采配を止めれなかったばかりに……」
「オイオイ、宝城。そりゃ、ムリってモンだぜ。いくらサッカー部の主将だからって、顧問になっちまった教師の指示にゃ、逆らえんだろ」
「美浦の、言う通りだ。オレが退学したのは、全てオレの責任だぜ。お前にゃ、関係無ェよ」
「お前とは、中学の頃から5年間、チームメイトだったんだ。関係はあるさ」
「昔話だ。言っただろ。オレは、サッカーを止めたってよ」
「お前……彼らの話は、聞いたのか?」
宝城さんの視線が、ボクと沙鳴ちゃんの方へ向いた。
「アン……アア、コイツらか。バーガーショップで会ったヤツらで、オレをスカウトするとかどうとか、抜かしてやがったな」
「ヤッパちゃんと、聞いて無かったのかよ?」
「ウッセ、美浦。オレらより年下みてェなガキが、オレをスカウトって言われてもよ。まともに取り合う方が、どうかしてるぜ」
ま、まあ確かに、言われてみればそうだよね。
紅華さんにも、最初は相手にされなかったし。
「だけど鷹春。このコたちは、どうやらかなり大物がオーナーを務めるチームから、来ているみたいなんだよ」
「なんだって?」
「彼らは、あの倉崎 世叛がオーナーを務めるチームから、お前をスカウトしに来ている」
「そうだぜ、題醐。デッドエンド・ボーイズってチーム名でよ。今のお前に、ピッタリな名前だよな。ギャハハ!」
「黙れ、美浦。だいたい、コイツらが倉崎のチームのスカウトだって、証拠はあんのかよ?」
「スマホで調べたが、彼の顔がホームページに載っている。名前は、御剣 一馬だそうだ。地域リーグの、フルミネスパーダMIEとの試合で得点を決めている」
宝城さんが、ボクのプロフィールを明かした。
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