殺戮の艦橋(ブリッジ)
自身の名を冠する宇宙戦闘空母の艦橋で、立ちすくむクーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。
「……あ……ああ……」
整った顔は恐怖と絶望で歪み、桜色の瞳も瞳孔が大きく見開かれていた。
その懐に抱えられた、アデリンダ。
顔に銃弾を浴びた少女の、僅かに痙攣(けいれん)していた身体も完全に動かなくなる。
「アデリンダ……」
クーリアは、虚空を見つめたまま固まった、アデリンダの眼を閉じた。
「死体なんざ、アンタにとっては珍しいモノでも無いだろ」
コリー・アンダーソン中佐は、頭の上半分を失ったアンリエッタの身体を蹴り転がす。
残った脳しょうが、金属の床にこぼれ出た。
「よくも、アンリエッタを!」
「直ぐにもう1人、追加してやるよ」
中佐は、エメラルドグリーンの長い髪を掻き上げながら、フーベルタへと近づく。
「イ、イヤァ! こ、来ないでェ!」
悲鳴に近い絶叫を上げる、フーベルタ。
涙を流しながら、小さな手で必死に抵抗を試みていた。
「オヤまあ、可愛らしいコだねぇ」
コリー・アンダーソン中佐は、突き付けた大型のレーザーアサルトライフルを、フーベルタの股から腰、胸へと移動させて行く。
「や、止めなさい! これ以上は、許しません!」
「ハ? 今のアンタに、そんな権限があるとでも思って?」
レーザーアサルトライフルは、フーベルタの顔の前に達していた。
「お、お願いしますゥ。なんでもするから、殺さないでェ!」
懇願する、フーベルタ。
その足元には、黄金の水溜まりが出来上がっていた。
「イヤだね」
コリー・アンダーソン中佐は、容赦なく引き金を引く。
「ヒギャアア!?」
フーベルタの褐色の肌をした顔が、真っ赤な脳しょうとなって激しく飛び散った。
頭の中央が吹き飛んだ少女の、金色の長いツインテールが左右に落ちる。
「フーベルタァ!」
絶望の悲鳴を発するクーリアの桜色の瞳には、ピクピクと異様な動きをするフーベルタの姿が映った。
下顎(あご)を残し頭部を失った少女は、黄金の水溜まりの上にペチャリと尻もちを付く。
首から血を噴き出しながら、やがて動かなくなった。
「魔女に加担した者の末路さ。さあ、残るは3人だよ」
艦橋に、頭の後ろで腕を組まされた、3人の少女が入って来る。
「フレイア! シルヴィア! カミラァ!」
クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダは、11人のお付きの少女の中でも、特に信頼を寄せる3人の名を呼んだ。
「クッ、申しワケございません、クーリアさま」
「このような自体になって……」
カミラとシルヴィアの背中に、アサルトライフルの銃口が突き付けられている。
「キサマら、誰が喋って良いと言ったァ!」
「誰も許可など、しとらんぞ!」
その持ち主の2人の少女が、怒声を上げた。
「ヴァクナ少尉、ヴィカポタ少尉、作戦は上手く行ったみたいだね」
コリー・アンダーソン中佐は、アサルトライフルを構える2人の少女に話しかける。
「はい。不覚にも撃破され捕虜になった汚名も、これで注がれるでしょう」
「火星を恐怖に陥(おとしい)れ、大勢の人命を奪った魔女よ。部下を殺される気分は、どうだ?」
「ヒイイィィ!」
その時、無残に殺された仲間の死体を目撃した、フレイアが悲鳴を上げた。
「聞いて無かったのか、キサマ!」
ヴァクナ少尉のアサルトライフルが、キャロット色のユルフワヘアをした少女の右太ももを撃ち抜く。
「ヤアァーーッ!」
フレイアは、鮮血が流れる脚を抑えながら、悶(もだ)え苦しんだ。
「もうこれ意以上は、止めて下さい。このコたちを傷付けるのなら、わたくしを殺しなさい!」
毅然(きぜん)とした顔に戻って、フレイアを抱き寄せるクーリア。
「フフ、アンタは殺さないさ。少なくとも仲間全員の死を、見届けるまではね。そうだろ?」
コリー・アンダーソン中佐の顔が、艦橋の扉の方を向いた。
「モチロンさ。クーリア……キミの罪は未来永劫(えいごう)、絶対に許されない罪だ」
扉から現れたのは、群雲 宇宙斗だった。
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