バーチャルコースター
翌日、カプリコーン区画のホテルを出たボクたちは、アリエス区画へと移動し街を散策する。
「この区画は、ホントに地球のパリみたいな風景なんだな」
街は、アールヌーボーのアパートメント風の建物や、ゴシック建築の巨大な寺院などが立ち並び、華やかな衣装に身を包んだ人々が通りを行き交っていた。
「見て下さい、おじいちゃん。アレが、パルク・デ・ルベリエの目玉、バーチャルコースターに大観覧車なのです!」
隣でアイスクリームをたくさん抱えた少女が、賑やかなテーマパークを指さす。
昨日、ボクとセノンはキスをした。
けれども今の彼女は、普段通り無邪気に笑っている。
「マスコットキャラの、ベリーくんですよ。手を振ってますゥ!」
「1000年後の時代にも、マスコットキャラは生き残っているんだな」
ロココ様式の門をくぐると、コミカルな金色の羊がボクたちを出迎えた。
「まずは、バーチャルコースターだな。さっそく、乗ってみようぜ」
「マッハ6のスピードが、疑似体験できるらしい……」
「愉しみだね。早く行こ!」
真央、ヴァルナ、ハウメアが、駆け出した。
3人とも今日は、パルジェンヌ風のお洒落な格好をしている。
「ああ! 待ってください、マケマケ」
「相変わらず真央は、マケマケなんだな」
「とうぜんです。それよりおじいちゃんも、行こ!」
栗毛のクワトロテールを揺らしながら、駆け出す少女。
「そうだな。未来のジェットコースターがどんなモノか、チャレンジしてみるか」
引き籠りで、ジェットコースターなど数回しか乗ったコトが無かったボクだが、少女たちの熱気の乗せられ熱くなっていた。
「ボクの時代のテーマパークのジェットコースターときたら、数時間待ちが当たり前だったケド、今はすんなり乗れるんだな」
コースターは同時に5レーンもあり、電車の環状線のように慌ただしく次々に発着している。
「アレ、クヴァヴァさま達も来てますね」
「ホントだ。11人の取り巻きのコたちも、一緒だな」
乗り場には、セノンや真央たちよりも高級そうな衣装を纏った、少女たちが居た。
その中でも真っ白なドレス姿のクーリアは、一際美しく輝いて見える。
「き、奇遇ですわね、宇宙斗艦長……」
恥じらいながら目を背ける、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。
「奇遇ねえ。アタシら、別々の部屋だったのに同じ遊園地の同じ場所で巡り合うだなんて」
「アクロポロリスの12の街は、それぞれ10億の人口がいるのに……」
「その中のアリエス区画で、たまたま出会うなんてスゴい偶然だよねェ」
「な、なにが言いたいのですか、貴女たち!」
「クーリア様が、偶然を装ったとでも!?」
「ハッキングして行き先を突き止めただなんて、そんなコトは断じて……ムグゥ!?」
真央たちオペレーター3人娘に指摘され、苦しい言い訳をするシルヴィア、カミラ、フレイア。
「み、皆さま、コースターが来てますわよ。細かいコトは気にせず、楽しみましょう」
クーリアが、強引過ぎる話題転換を計る。
到着したコースターは3人掛けで、先頭には真央、ヴァルナ、ハウメアが乗り、次の席にボクとセノン、クーリアが乗った。
背後には、シルヴィア、カミラ、フレイアが乗り、ナゼか鋭い眼光を光らせている。
つまりボクは、左右をクーリアとセノンに挟まれて、前後をそれぞれの陣営の少女たちに囲まれながら、コースターに乗る羽目になった。
「あ、いよいよ発車しますよ!」
「す、少し緊張しますわ……」
『ジリリリ』と音が鳴り、『ポォン』と滑らかに滑り出すコースター。
「おわ、以外に速ッ!?」
周りの景色が吹き飛ぶ程に、一気に加速する。
「きゃああ、楽しいのですゥ!!」
「ど、どこがですの。ちょっと、速過ぎませんコトォ!?」
2人の少女の腕に締め付けられ、コースターは更にスピードを上げて行った。
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