別れた運命
「マジか。このスカした野郎が、倉崎 世叛(よはん)のチームの選手ってのはよォ」
題醐(だいご)さんが、怪訝(けげん)そうな顔でボクを睨(にら)んでいた。
「間違いないだろう。地域リーグの公式も確かめたが、そちらにも得点者として彼の名前が乗っている。まあ、相手に14点も取られてはいるがな」
宝城さんが、スマホでさらなる情報を提示する。
「14点だァ。どんなキーパー使ってんだ。オレだったら……って、そう言うコトかよ」
題醐さんは、自分で納得してしまった。
「サッカーで14点なんざ、普通はあり得ない数字(スコア)だからなあ。オメーが必要ってのも、わかる気がするぜ」
「美浦の言う通り、キーパーが早急な補強ポイントと言うワケだな?」
宝城さんの質問に、コクリと頷(うなず)くボク。
「確かに14点なんて、野球ですらほとんど聞いたコトがない数字だからね。どうよ、鷹春。アンタ、行ってやってみたら?」
ポエムさんが、それとなく聞いた。
「誰がやるか」
「なんだい、口先だけ? アンタがキーパーでも、変わらないって……」
「流石に、変わるだろ。少なくとも、何点かは防いでるぜ」
「だったら、なんで?」
「倉崎のヤツの下に付くってのが、気に喰わねェ」
「相手は、サッカー界期待の新星なんだろ。別に下に付いたって、構わないと思うケド」
「フッ。そう言えばお前、代表の合宿じゃ、倉崎 世叛と一緒だったと言っていたな」
宝城さんが、話に入って来る。
「そうなの。ってかアンタ、代表にまで呼ばれてたってコトかい!?」
「ジュニアユースの頃の、話だ。アイツもオレも、代表の常連ってワケでも無かったんだがな」
「それが、片や日本サッカー界の注目を集める的で、名古屋じゃレギュラーどころかチームの中心でよ。片や学校も退学して、サッカー部からも……」
「黙れ、アホ。オレは、サッカーから足を洗ったんだ。じゃあな!」
美浦さんの言葉に反発した題醐さんは、どこかへ行ってしまった。
「あちゃ~。怒らせちまった」
悪いと思っているのかどうか、美浦さんは頭を掻いている。
「アイツ、自分の部屋に行ったね。ま、ほとぼりが冷めたら、またアタシから話してみるよ」
ポエムさんが、大人らしい対応をした。
「お願いします。オレたちも、アイツにはサッカーを続けて貰いたいと思っているんで」
「わかっているよ。だケド、最終的に答えを出すのは、アイツ自身さ」
「はい。そろそろライブも始まる様ですし、オレたちは失礼致します」
「ああ。また、寄っとくれ」
気さくな挨拶を交わす、ポエムさん。
「じゃあわたし達も、お暇(いとま)しよっか、ダーリン」
「……ウ、ウン」
ボクたちも、席を立った。
「オレンジジュース、美味しかったです。わたし達も、またお邪魔させて貰ってもイイですか?」
「モチロンさ。深夜時間じゃなきゃ、また来てくんな」
女の人同士、会話が自然に流れてる。
ボクもあんな風に、普通に喋れたらな……と思いながら、地上へと出る階段を昇った。
外に出てライブハウスを振り返ると、Gilbert(ギルバート)と書かれた看板が、薄っすらとピンク色に光っている。
それが、ポエムさんの亡きお父さんの名前だと知った今、ただの看板とは思えなかった。
「さ、沙鳴ちゃん……今日は……アリガト」
精一杯、言葉を口から吐き出す、ボク。
「どう致しまして。でも、題醐さんはまだゲットしてませんよ」
隣を歩く、沙鳴ちゃんが上を見上げた。
「また、来なくっちゃ……」
空には星が、輝き始めている。
「わたしも、出来る限り付き合いますから、頑張りましょう!」
「ウ、ウン」
頼もしい相棒を得たボクは、決意を胸に家路に付いた。
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