イーテル・ソレイ
「そうか。流石のお前でも、アイツは一筋縄では行かなかったか」
倉崎さんが、言った。
だケド、直接会っているワケじゃない。
今、倉崎さんは大阪に居て、Zeリーグのガバメントーテ大阪との試合を控えていた。
「す、すみません……」
「謝る必要は無いぞ、一馬。アイツは、筋金入りの変わり者だからな。予想はしていたさ」
スマホから聞える、優しい倉崎さんの声。
あれから沙鳴ちゃんと2日間、ライブハウス・ギルバートに通ってみた。
でもそれが問題になって、ボクも沙鳴ちゃんも学校側から注意を受ける。
結局のところ、ほとんど沙鳴ちゃんが説明してくれたお陰で、誤解は解けたケド。
「だ、題醐(だいご)さんは……絶対なんとかする」
倉崎さんから受けたミッションを、成功させられなかったコトが悔しかったのか、ボクの口がそう宣言していた。
「イヤ。学校から注意されたとあっては、考え直す必要がありそうだ。というか、お前の学校にオレも、顔を出すべきだったな」
「そ、そんな必要は……」
「これでもお前の、雇用主に当たるんだぞ、オレは。それに、沙鳴もウチのマネージャーだ。学校側に、誤解があっては困るからな」
ヤッパ倉崎さんは、大人だと思った。
ボクより2つ年上だケド、2年後のボクが倉崎さんみたいになってる可能性って、限りなく低いよね。
「一馬、今は次の試合のコトを考えろ。初戦は散々な結果となってしまったが、次は負けられんぞ!」
倉崎さんが、気合を入れてくれた。
そう、次の日曜日には、デッドエンド・ボーイズにとって公式戦2試合目の試合がある。
相手は岡崎のチームで、アビエーテプラナ岡崎って言う、昔から地域リーグとかで戦っているチームだ。
「普段は工場で働いてる選手がほとんどらしいが、ウチのOBも何人か名を連ねているからな。簡単な試合には、ならんぞ!」
「……は、はい!」
初戦で、14点も取られて負けてるんだ。
簡単な試合など無いコトくらい、解っている。
会話を終えると、その日はアビエーテプラナ岡崎のホームページをチェックして寝た。
そして……試合当日。
「今回も、アウェーなのかよ」
紅華さんが、文句を言った。
「ウチにとっては、むしろ好都合だ、紅華」
「まだ本拠地スタジアムの交渉も、終わってませんからね」
雪峰さんと、柴芭さんが答える。
ボクたちは、倉崎さんがなけなしの経費で買った、マイクロバスの前に集合していた。
「ところでよ。お前らの後ろのナイスバディな姉ちゃんは、誰よ?」
「ミス・シャルロットだ」
雪峰さんたちの後ろに、どう見ても目立つ女性が立っている。
ウェーブのかかった薄い色の金髪を肩に垂らし、瞳は蒼かった。
白いスーツに、金のネックレスと黒いベルトをしている。
「シャルロット・神功寺(じんぐうじ)よ。アナタたちチームの、メインスポンサーになったの」
「も、もしかして、ハーフなのか!?」
黒浪さんが、子供っぽい質問をした。
「正確に言うと、もう少し複雑ね。わたしは、オランダ生まれで日本育ち。でも祖父はフランス人だから、フランス系の名前なのよ」
「へ、ヘェ~」
「お前さ。ゼッテーわかってないだろ」
黒浪さんが、紅華さんに突っ込まれてる。
「今日からユニホームに、スポンサー名が入る。それぞれ、自分のユニホームを確認してくれ」
「オワッ! 胸ンとこ、なんやよう解らんロゴが入っとるで!」
「なあ、キャプテン。これ、なんて読むんだ?」
金刺さんと黒浪さんが、自分のユニホームを広げていた。
「イーテル・ソレイよ。ラテン語の旅を意味するiterと、フランス語の太陽を意味するSoleilを足しただけなんだケド、日本のサッカーチームに多いでしょ?」
替わりに答える、シャルロットさん。
「確かに日本のサッカーチームでは、多いでありますな」
「既存の単語の多くは、すでに商標登録されてしまってますからね」
杜都さんの疑問を解決する、柴芭さん。
「わたしも、同じ理由なの。商標の通った名前を使えば、利用料が発生するからね。ビジネス初期での出費は、ヤッパ抑えたいじゃない?」
「ところで、シャルロットさん。イーテル・ソレイって、なんのブランドなんスか?」
「なんか雰囲気からすると、香水とか料理っぽくね?」
「せやケド、旅と太陽やで。もしかして……?」
「ええ。イーテル・ソレイは、アジアをメインとした旅行会社なの」
デッドエンド・ボーイズの3人のドリブラーの質問に、シャルロットさんは答えた。
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