神の血と人間の血
「神の血を引く、大将軍か。だが神など、本当に存在するのか?」
ダエィ・ダルスの工房(アトリエ)で、ケイダンが工房の主に質問する。
「どうだなか。だがこの世界には、神の血(イー・コール)を引くとされる人間も、少なからず存在する。彼らは、一般の人間に比べて強靭な肉体を持っていたり、特殊な能力を身に着けている者も多い」
ダエィ・ダルスは、自らのアトリエでなにやら作業をしながら、片手間で会話を続ける。
「ミノ・ダウルス大将軍は、もう100年近くも、ラビ・リンス帝国の大将軍の座にあるからな。不老不死とは言わないまでも、老いるのが遅いのは確実だぜ。その間に、雷光の3将の顔ぶれも何度か変わっちまってるからよ」
少年時代に、ラビ・リンス帝国の尖兵として戦場に駆り出された、ティ・ゼーウスが言った。
「その神の血とやらが、サタナトスの剣の能力を阻んだと言うのか?」
「オレの剣(ハート・ブレイカー)もそうだが、人間や魔物に対して効果はあるが、神に対しては効果を発揮しないからよ。ま、戻って確かめないと、解らんがな」
大きな図面台を挟んで座る、ケイダンとティ・ゼーウスが話を進める。
「それじゃあ、戻って確かめようじゃないか……」
まだ傷の癒えない、サタナトスが提案した。
「お前、星砕き(アステリオス)によって、前身の骨が砕かれてるんだろ。大丈夫なのか?」
「それについては、ケイダンにでも背負って貰うさ」
「それは構わんが、サタナトス。剣の能力が効いているという、確証でもあるのか?」
ケイダンが、隣に座らせた金髪の少年に問いかける。
「流石に、そこまでの自信は無いケドね。でも、ミノ・ダウルス大将軍は、神の血を引いてはいるが、神そのものじゃない。つまり、半分は人間なんだ」
「お前の剣の能力は、人間を魔物に変えるんだったよな。だったら、神と人間の血を引く者にその能力を使ったら、どうなるんだ?」
「それをこれから、確かめに行くんじゃないか。我が盟友」
サタナトスが、言った。
「盟友だと? どう言うコトだ、サタナトス」
「ケイダン。ボクは彼と、同盟を締結したのさ」
「たった1人の、王とか?」
「こっちだって、大した大所帯じゃないさ。でもいずれ、ボクも自分の国を創り、自分の軍隊を持つつもりだ。そうなった時に、同盟国は必要だろ?」
「随分と、遠い未来を語るな」
「近い未来については、お前に任すよ、ケイダン」
天使の笑顔を見せる、サタナトス。
「話は付いたか?」
工房の主が、問い質(ただ)す。
「ああ。もう1度、地下闘技場に戻って、大将軍サマの様子を探りに行くんだとさ」
ティ・ゼーウスが、皮肉を混ぜながら答えた。
「良かろう。わたしは、このアトリエに残ってサポートしてやる」
「ダエィ・ダルス、アンタは来ないのかよ?」
「わたしの剣(ダイア・レイオン)は、戦闘向きでは無いからな」
「了解だよ。ケイダン、ボクを運んでくれ」
「ヤレヤレ、まったく……」
ケイダンは、隣の椅子に座っていた金髪の少年を、抱え上げる。
「じゃ、行って来るぜ。ま、大将軍が魔王になってるなんざ、望み薄だがな」
アッシュブロンドの長髪の少年が、大建築家に旅立ちの挨拶をした。
「頼んだぞ……わたしには、まだ……」
ダエィ・ダルスは、3人の少年の背中を工房から見送った。
次元迷宮(ラビ・リンス)が、4次元パズルのように動き出す。
3人の少年たちは、数分で地下闘技場へと辿り着いた。
「なんだか、やけに早く着いちまったな」
「恐らく大建築家が、迷宮をいじったのだろう」
ティ・ゼーウスの疑問を、ケイダンが解決する。
「天井が崩落して、岩や瓦礫(がれき)だらけだが、それにしたって、やけに静まり返ってるぜ」
「ミノ・ダウルス大将軍は、何処だ?」
アッシュブロンドの少年が警戒をし、黒髪の少年が気配を探った。
「フフ……どうやらボクの勘が、当たっていたみたいだね」
小声で呟く、金髪の少年。
激しい地鳴りと共に、3人の目の前に牛頭の魔王が姿を現わした。
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