時間と空間の牢獄
斬り取られたいくつもの空間が、断続的に連なった異次元の塔。
その頂点へと続く赤い糸を追って、サタナトスたちは次元を移動していた。
「かなり、上まで昇って来たな。オレのハートブレイカーの糸も、あと少しだぜ」
ティ・ゼーウスの手にした真っ赤な臓物の剣は、本来の姿を取り戻しつつある。
「だが……大建築家は恐らく、オレたちの追跡を気付いている」
「そろそろ、なにか仕掛けて来てもおかしくは無い……か」
魔王ケイオス・ブラッドの言葉に、見解を示すサタナトス。
臓物の赤い糸に導かれたバクウ・プラナティスが、時空を切り裂き、また別の時空へと跳んだ。
「言った途端、来やがったぜ」
ティ・ゼーウスが、叫ぶ。
「ど、どう言うコトだ……コレは!?」
焦りを見せる、ケイオス・ブラッド。
「どうやら元の場所に、戻って来たみたいだね」
彼ら3人の前には、王の間が広がっていて、その中央には大魔王ミノ・ダウルスが戦斧(アステリオス)を抱え立っていた。
「どうした、お前たち。ダエィ・ダルスを、追うのでは無かったのか?」
金髪の大魔王は、訝(いぶか)し気な顔を見せる。
「オレたちは、大建築家を追っていたハズだったのだがな」
「1瞬にしてこの部屋へと、戻されちまったのさ」
ケイオス・ブラッドと、ティ・ゼーウスが答えた。
「フッ。魔王ケイオス・ブラッドよ。その口ぶりだと、随分と長く追っていた様だが、お前が時空を斬り裂き出て行ったのは、僅か数秒前だぞ」
「なに? そんなハズは……」
「大魔王の言う通りだぜ、ケイダンよ。オレのハート・ブレイカーも、臓物の糸がほぼ巻き取られていたハズが、この通り最初の状態へと戻っちまった」
ティ・ゼーウスの剣も、部屋を出る時の痩せっぽちな状態になっている。
「要するに、時間が巻き戻されたってコトだね」
サタナトスが、言った。
「時間が、巻き戻るだと。そんなコトが……」
「オレだって、俄(にわ)かには信じられ無ェがよ。そう考えるしか、辻褄が合わないんだ」
「オレのバクウ・プラナティスは、時空を超えられるのだぞ。なのに……」
ティ・ゼーウスの言葉を、否定できない魔王ケイオス・ブラッド。
「忘れたか。ココは、次元迷宮(ラビ・リンス)と呼ばれる場所だ。その製作者が敵に回ってしまったのは、厄介だったな」
「まったく、人事のように言ってくれるね。大建築家を怒らせたのは大魔王、キミじゃないか」
「オレが誰を怒らせようが、オレの勝手よ。だがかつて、ダエィ・ダルスが我が父ミノ・リス王に、高説を垂れていたのを聞いたコトがある」
「ホウ。それは、どんな内容だったのかな?」
おどけて聞く、サタナトス。
「時間と空間は同じだと、ヤツは言っていた」
「どう言う意味だ?」
「オレにも、アンタがなにを言ってるのか、サッパリ解らん」
ケイオスとティ・ゼーウスは、お手上げと言った顔をした。
「なる程。空間を操れるのであれば、空間と同じである時間も操れると言うコトかい?」
「恐らくな。聞いた時は、オレにも理解できなかったが、この地下迷宮を見るに少しは理解できる」
サタナトスの見立てを肯定する、大魔王ミノ・ダウルス。
「どう言うコトだ、サタナトス」
「オレたちにも、判るように説明してくれよ」
「簡単に言えば、ボクたちは時間と空間の牢獄に、捕らわれてしまったってコトさ」
金髪の少年は、2人の少年の要求に答えた。
「厄介なコトに、なったな」
「時間も空間も好き勝手操れるんじゃ、どうしようも無いじゃねェか」
「イヤ。大建築家が操れるのは、この次元迷宮だけだよ。現にボクは、大建築家を追っていたときの記憶を持っている」
「ムッ。確かに言われてみれば、オレもその記憶があるな」
「そう言や、オレもだがよ。だからって、なんの解決にもならんだろ?」
「まあね。その内イイアイデアが、思い浮かぶかも知れないさ」
サタナトスは、無邪気な顔をして寝てしまった。
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