星砕き(アステリオス)
「コ、コイツ、とんでも無ェ怪力だぜ。戦斧の1激を避けたつもりが、このザマだ……」
壁に叩き付けられたティ・ゼーウスの、胸から腹にかけて1文字に刻まれた傷。
「確かにダエィ・ダルスの忠告も、大袈裟じゃ無かったみたいだね。斬ると言うより叩き潰すのが、あの大戦斧の使い方らしい」
傷付いたティ・ゼーウスの前に立ち、アメジスト色の剣を具現化させるサタナトス。
「キサマが、侵入者の首魁(しゅかい)か。この地下闘技場に、生贄の者以外が紛れ込むのも、久しく無かったのだが……」
ミノ・ダウルス大将軍が、牡牛の角が生えた黄金の兜を取り小脇に抱えると、星のように輝く長い金色の髪が零(こぼ)れ落ちた。
「なるホド……ダエィ・ダルス。キサマが、手引きしたのだな?」
真っ白な顔に輝く碧眼(へきがん)が、稀代の天才建築家を捉える。
「わたしは、貴方のお父上であるミノ・リス王に依頼され、このラビ・リンスの迷宮を創り上げました。本来であれば莫大な報奨金と土地を得るハズが、ミノ・リス王は約束を履行しないどころかわたしの妻を殺し、息子まで奪った挙げ句、わたしを迷宮の地下牢へと幽閉したのです」
「それが、どうした。我がラビ・リンス帝国では、力ある者が絶対の正義。迷宮を創り終えたお前が、用無しとなったから幽閉したまでのコト。命があっただけでも、感謝するべきなのだ」
ミノ・ダウルス大将軍は、平然と言って退けた。
「随分と、身勝手な話だね。でもまあ、良くある話さ」
金髪の少年は、ダエィ・ダルスの前に立つと、剣を構えて大将軍との間合いを詰める。
「首魁自ら、わたしと戦うか。良かろう、我が大戦斧『星砕き(アステリオス)』の餌食となり、粉砕されるがイイ!」
ミノ・ダウルス大将軍が、大戦斧を大きく振り上げた。
「ヤレヤレ、大味な攻撃だね。隙だらけじゃないか」
サタナトスは、大戦斧の振り下ろされる前に間合いに入り、魔晶剣プート・サタナティスで大将軍の脇腹を斬り付ける。
「ボクの剣も、徐々にだが本来の能力が戻りつつある。さあ、魔王となって我が軍門に降るか、それとも肉塊となって飛び散るか……」
「避けろ、サタナトス。ソイツに、お前の剣の能力は利かねェ!」
金髪の少年の背後で、ティ・ゼーウスが叫んだ。
「なッ!?」
慌てて剣を構え直す、サタナトス。
けれども目の前に、大戦斧の巨大な刃が迫っていた。
「星の砕ける様を、その身を以(もっ)て味わえ!!」
大戦斧が振り下ろされ、サタナトスを粉砕する。
地面に叩き付けられた戦斧が、地下闘技場の床を灼熱に染め、巨大なクレーターを生み出した。
歓声が沸き上がる、地上の丘にある闘技場。
ミノ・ダウルス大将軍とサタナトスたちの戦いの様子は、ミノ・テリオス将軍の生み出した、巨大な鏡に映し出されていた。
「ス、凄まじな。あのデカい斧!」
ティンギスが、大きな口を開け驚いている。
「凄まじいなんてモンじゃ、無ェだろ。床が、蒸発しちまってる」
「サタナトスと言う男も、これでは1溜りもあるまい」
レプティスと、タプソスが言った。
「わ、我らの手で、アステさまの仇を討てはしなかったが……」
「ミノ・ダウルス大将軍さまが、仇を討って下さった」
「アステさまも、これで安らかな眠りに……」
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルが、サタナトスが死んだと思って涙を流す。
「ま、待って。アレを見て!」
「アイツ、まだ死んで無いよ!」
「黒髪の男に、助けられてる」
大きな鏡を指さす、ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェル。
「マジかよ。あの攻撃を喰らって、よく生きてられたな」
ティンギスを始め闘技場に集った1同が、テリオスの生み出した鏡に注目した。
「オイ、テリオス。まさか、この黒髪の男が、お前にそこまでの傷を負わせた……」
ミノ・テロぺ将軍が、問い質(ただ)す。
「ああ。かの者が、魔王ケイオス・ブラッド。次元を切り裂く剣を持った、男よ」
ミノ・テリオス将軍は、自身の生み出した鏡を見つめながら言った。
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