地下迷宮に待ち受ける者
複雑に絡(から)まった糸玉のような、次元迷宮(ラビ・リンス)を走る3人の男たち。
「次元迷宮が、こうも複雑だったとはね。時間と共に迷路が変化する上に、異常な仕掛けがそこら中に仕掛けてある」
金髪の少年が、言った。
「入るたびに、形を変える迷宮とはな。道案内人が居てくれて、本当に助かったぜ」
アッシュブロンドの長髪の少年が、それに応える。
「わたしも当時は、面白がって色々と仕掛けを組み込んだモノでね。まさか自分が迷宮の地下牢に、封じられるなどとは思はずに……」
伸び放題だった髪や髭を切り、多少はマシになった中年の男が自嘲(じちょう)する。
「まったく、滑稽(こっけい)な話だよ。それにしてもミノ・リス王は、猜疑心(さいぎしん)の塊のような男だね。これだけの迷宮をキミに創らせて置きながら、迷宮にキミを捕らえてしまうのだからね」
金髪の少年は、名をサタナトスと言う。
人間と魔族のハーフである彼は、母親や妹を苦しめた人間世界に復讐すべく、自らの軍団を強固なモノへと作り変えようとしていた。
「ヤツは、自分がどれだけ恨まれているかを、知っているだけだ。だから暗殺を恐れて、こんな迷宮まで創らせて自分の身を護っている……臆病な王さ」
アッシュブロンドの長髪の少年は、名をティ・ゼーウスと言う。
ミノ・リス王の国家、ラビ・リンス帝国によって祖国を滅ぼされ、ラビ・リンス帝国の尖兵として戦争に駆り出される幼少期を過ごした彼は、王の暗殺を狙う。
「王の力を、甘く見るモノでは無いよ、若者。猜疑心や臆病とは、言い換えれば計画を万全と整え、あらゆる不安要素を消し去る思考を指す。為政者としては、むしろ望まれる能力なのだよ」
稀代の天才建築家は、名をダエィ・ダルスと言う。
ミノ・リス王に請われて次元迷宮を創り上げた男は、王によって最愛の妻を殺され、大切な息子を奪われ、自ら創り上げた迷宮の地下牢へと幽閉された。
「含蓄(がんちく)ある言葉と、受け取って置くよ。確かにこの先に居るヤツを倒さないコトには、ミノ・リス王の元へは辿り付けないだろうしね」
前を見据える、サタナトス。
3人の視線の先に、光が見えて来た。
「ああ……かなり前から、凄まじい気(オーラ)を放ってやがったからな」
「油断しないでくれ。あの男が……」
迷宮を抜けると、そこは地下闘技場になっており、広大な円形の場(フィールド)が広がっている。
観客席の替わりに巨大な壁が周囲を囲み、闘う者の逃亡を阻(はば)んでいた。
「あの男が……ミノ・テリオス将軍かな?」
サタナトスが、ダエィ・ダルスに聞く。
観客も居らず、閑散(かんさん)とした地下闘技場。
周囲には真っ赤な炎が揺らめくかがり火台が配され、地下と言えどそれなりの明るさを確保していた。
そんな闘技場の、中央に立つ1人の男。
「そうだ。彼がラビ・リンス帝国の軍事力の要(かなめ)にして、最強の将軍だよ」
男は、サタナトスの倍はあろうかと言う身長で、全身が筋肉に覆われている。
黄金の鎧の胸には五芒星が描かれ、黄金の兜には大きな牡牛の角が生えていた。
盾は持たず、両腕に両手持ちの大戦斧を構えている。
「見たところ、絵にかいたような猛将って感じじゃないか。本当にこの男が、この国最強だとすると、少しばかり期待外れだね」
嘯(うそぶ)く、サタナトス。
「その答えは、戦ってみれば解るだろう」
ダエィ・ダルスが言った。
「なるホドな、ソイツは話が早いぜ!」
駆け出していたティ・ゼーウスが、間合いを詰め剣で斬りかかる。
「……なッ!?」
けれどもティ・ゼーウスの前に、巨大な大戦斧があった。
真っ二つにされそうになる、アッシュブロンドの少年。
「ハ、ハート・ブレイカー!!」
真っ赤な内臓のような剣が、帯となってティ・ゼーウスの前方を覆った。
「グッ……ガハッ!?」
大戦斧は内臓の帯にヒットするが斬れるコトは無く、パチンコのようにティ・ゼーウスの身体を弾き飛ばす。
「テリオスが言っておった、侵入者か。父上の命を狙う者は、このミノ・ダウルスが叩き潰す」
黄金の大将軍は、3人の前に威風堂々と立ちはだかった。
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