海皇の宣戦布告
闘技場に、突如として現れた魔物の群れ。
そのどれもが、海洋生物を彷彿とさせる容貌であり、その首魁らしき魔物はひと際巨大だった。
「な、何者なのです。貴方たちは!?」
ミノ・リス王の妃(きさき)である、パルシィ・パエトリア王妃が問い質す。
「グルル……久しいな、ラビ・リンス帝国の王妃よ。我は、海皇ダグ・ア・ウォン」
蒼い巨体の首魁らしき魔物は、オレンジ色のヒレの付いた腕が4本あった。
タコやイカのような吸盤のある触手が、胸の辺りから無数にマントのように生えている。
頭から背中にかけても翼のようなヒレを持ち、手足の指の間には水かきがあった。
「か、海皇って、人間じゃ無かったのかよ!?」
「ティンギス、お前……青髪のボウズの話、聞いてなかったのかよ」
「サタナトスの剣が、海皇さまを魔王へと変えてしまったのだ」
同僚の軽卒さに、呆れ顔のレプティスとタプソス。
「魔物風情が、海皇を名乗るか!」
雷光の3将の1角である、ミノ・テロぺが声を荒げる。
「残念ながら本物の海皇じゃよ、ミノ・テロぺ将軍。サタナトスの剣は、強い魔力を持った人間を、魔物へと変えてしまうのじゃ」
ミノ・アステ将軍となった、ルーシェリアが経緯(いきさつ)を説明した。
「なんだと! だとしたら、ミノ・リス王に危険が……」
「心配には及びません、ミノ・テロぺ将軍。それよりも、カル・タギアの海皇ダグ・ア・ウォン様。我が国に大して、親善……と言うワケでは無いようですね?」
「察しが良いな、王妃。我は、武を以ってラビ・リンス帝国に、戦争を仕掛ける」
海皇は、海の宝剣トラシュ・クリューザーを掲(かか)げる。
晴れ渡っていた空に、急に暗雲が立ち込め、巨大な竜巻が闘技場に飛来した。
「オワァ、なんじゃコリャ!?」
「た、竜巻がいきなり現れて、闘技場を襲ってやがる!」
「お前たちに、オレたちに捕まれ!」
巨大な竜巻は、観客席に集った人々を空へと舞い上げる。
3人の船長は、従者となった12人の少女たちを自分たちの身体にしがみ付かせ、1ヶ所に固まって竜巻をやり過ごした。
「マズいよ、ルーシェリア!」
因幡 舞人が、背中のガラクタ剣を抜く。
「そうじゃな、ご主人サマよ。船長たちは、妾の重力剣(イ・アンナ)で重くして護ってやっておるが、闘技場全体となると庇(かば)い切れん」
漆黒の髪の少女が持つ剣は、紫色のオーラを帯びていた。
「海皇と言えど、これ以上の敵対行為に及ぶのであれば、容赦はせん!」
ミノ・テリオス将軍が、鏡のような刀身の剣(ジェイ・ナーズ)を抜く。
「小童(こわっぱ)が、我に勝てると思うてか」
海皇は容赦なく、トラシュ・クリューザーを振りかざした。
「ジェイ・ナーズ!」
ミノ・テリオス将軍も、自らの剣で鏡を無数に生み出す。
「鏡など、粉砕してくれるわ!!」
先端が3叉に別れた剣から、稲光が発生して無数の鏡を次々に打ち砕いた。
「な、なんだと! わたしの鏡が、効かない!?」
慌てる、ミノ・テリオス将軍。
「当然よ。鏡が我が姿を映す前に、我が剣が放つ稲妻の光が、キサマの鏡を覆い尽くすのだ!」
「ど、どうして、わたしの剣の、能力を!?」
「知れたコト。キサマと刃を交えた男から、聞いたまでよ」
海皇が、巨大な口元に笑みを浮かべつつ言った。
「それでは、魔王ケイオス・ブラッドの……やはりキサマは!」
海皇を呼び捨てにし、睨(にら)み付けるミノ・テリオス将軍。
「我が主は、サタナトス・ハーデンブラッド様よ。我は、キサマらラビ・リンス帝国を、サタナトス様の前に跪(ひざまず)かせる為にやって来たのだ」
3又の剣を闘技場の地面に突き刺す、海皇。
4本の腕に雷球が発生し、黒い積乱雲から雲の龍(クラウドドラゴン)が舞い降りて来た。
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