狂乱の演舞
4つの太陽を象徴する、4機のテスカトリポカ。
白、青、赤のテスカトリポカが、黒いテスカトリポカを集中攻撃していた。
「クソッ、3対1は流石に不利が過ぎるぜ」
黒のテスカトリポカ・バル・クォーダを駆るプリズナーは、機体を黒い煙に変化させて、間合いを取ろうとする。
「させないよ。煙に変化出来るのは、アンタだけじゃ無いんだからさァ!」
赤のテスカトリポカ・シぺ・テックが、赤い煙に変化して追撃をかけて来た。
「やはりな。お前の動きは、読めてんだ!」
いち早く実体化した黒のテスカトリポカは、赤のテスカトリポカが実体化する瞬間を狙って、両腕の戦斧を振り回して襲う。
「チッ! 人間のクセに、戦い慣れてるね」
虚を突かれたメンルファは、攻撃を受けながらも後ろに下がって直撃を回避した。
テスカトリポカ・シぺ・テックの、赤い外部装甲が宇宙空間に散らばって行く。
装甲が剥(はが)がれた中からは、黄金に輝く粒状の内部装甲が姿を現した。
「これでも、ガキの頃から死線を潜り抜けて来たんでな」
かつての少年兵は、赤のテスカトリポカに追撃しようとする。
「違ェねえ。コイツはとことん、死神に嫌われてやがんのさ!」
青のテスカトリポカ・ウィツィ・ロ・ポトリが、間に割って入って槍を突き立てた。
「ジャマすんじゃねェ、ギムレット!」
「ハッ! そんなご託は、戦場じゃ通用しねェコトくらい、お前が1番よく知ってんだろ」
「まあな。ゲーに潰されたお前に、言われんのがシャクなだけだ!」
虚空(こくう)の宇宙で、ぶつかり合う黒と青のテスカトリポカ。
戦友同士の戦いが、しばらくの間続く。
「今度は、ボクが割り込ませて貰おうかな」
次に割って入ったのは、白のテスカトリポカだった。
「フラガラッハ!」
テスカトリポカ・ケツァルコアトルの全てを斬り裂く剣が、切り結んだ黒と青のサブスタンサーの間を両断する。
「チッ、またジャマが入ったか」
「オイオイ。オレにまで、当たるところだったぞ!」
剣に斬り裂かれる前に、互いに弾き合って攻撃をかわした戦友2人。
「この戦いに、敵も味方も無いんじゃないかな?」
「お前、いきなり何を言って……」
白のテスカトリポカのパイロットの言葉に首を傾(かし)げる、ギムレットのテスカトリポカ・ウィツィ・ロ・ポトリ。
「アハハ、ガキのクセに面白いコト言うじゃないか。アタシは、気に入ったよ」
赤のテスカトリポカを駆るメンルファが、戦線に復帰する。
「なんだって、こんなオレたちが争う必要があんだよ」
「理由なんて、無いさ。戦いたいから、そうしてるだけ」
「アハハ、ますます気に入ったよ」
青、白、赤のテスカトリポカも、互いに互いを攻撃対象と認識した。
「へッ! なんだか知らねェが、3対1よりはマシだ。行くぜ!」
黒いテスカトリポカも、戦いに参加する。
太陽系の最果てで繰り広げられる、4機のテスカトリポカ同士の戦いは、混迷を極めて行った。
~その頃~
地球の外縁軌道から地球を見守る、テル・セー・ウス号が、ある異変を捉えていた。
「スクリーンを見て、アンティオペー艦長。謎のサブスタンサーの様子が……」
オペレーターを務めていた、メラニッペーが叫ぶ。
「ケツァルコアトル・ゼーレシオンみたいな機体が、消えて行く?」
新米艦長は、疑問形でしか自体を把握できなかった。
最新鋭艦のスクリーンに、地球の衛星軌道上で徐々に色を失う、黒いサブスタンサーが映し出される。
「謎のサブスタンサー、完全に消失。異空間より出現していた隕石も、新たには確認出来なくなくなりました」
メラニッペーの言葉通り、謎のサブスタンサーはまるで幻だったかのように完全に消え去り、地球へと降り注いでいた隕石の群れも、出現しなくなっていた。
前へ | 目次 | 次へ |