ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第08章・70話

群雲 宇宙斗のコピー

 宇宙の温度は、かつての日本で使われていた摂氏で言えば、約マイナス270度だ。
太陽などの恒星に近ければ温度も上がるが、遠くなるにつれ恒星の熱は届かなくなり、マイナス270度へと近づいて行く。

「まったく、こんな宇宙の最果てで、こんな戦いを繰り広げるコトになるたァよ」
 サブスタンサーのコックピット内部で、アッシュブロンドの髪の男が1人でボヤく。
彼のサブスタンサーである、テスカトリポカ・バル・クォーダも、かなりのダメージを受けていた。

 男は、名をプリズナーと言う。
無論、本名では無かった。

「チッ、なんで互いに潰し合ってんだか……」
 女性型アーキテクターであるメンルファの機体も、中破以上の損傷を受けている。

 黒、白、青、赤の4機のテスカトリポカの名を冠するサブスタンサー同士の戦いは、勝者を選出するコトも無く終わりを告げていた。

「アンタとは、また何処かで遭うかもね」
 彼女の駆る、赤のテスカトリポカ・シぺ・テックが、捨て台詞を残し戦線を離脱して行く。

「そりゃ、こっちのセリフだぜ……」
 プリズナーが、それに反論したが、もちろん答えは返って来なかった。

「ギムレットのヤツは、とっくに逃げたみてェだな。死んでるクセに、逃げ足だけは早いぜ」
 ギムレットの駆る青のテスカトリポカ・ウィツィ・ロ・ポトリの姿はすでに無く、プリズナーは戦友の合理主義的な行動を称賛する。

 マイナス270度に近い宙空を漂う、バル・クォーダ。
激しい戦いによって、テスカトリポカの仮面は外れ、機体本来の顔に戻っていた。

「宇宙斗艦長を迎えに来たハズが、とんだケンカに巻き込まれちまったぜ」
 破損した、テスカトリポカの装甲を外す、バル・クォーダ。

「それにしたって、その艦長のコピーの機体が、いきなり真っ白になって消し飛ぶとはな。お陰で戦力の均衡が崩れて、ケンカも早めに終わったんだがよ」
 4機のテスカトリポカによる、戦いの終末を語るプリズナー。

「確か、この辺りに放り出されやがったな……」
 バル・クォーダの頭蓋骨のくぼみの中の目が、赤く輝いた。
機体が消失(ロスト)し、冷たい宇宙に放り出されたパイロットを捉える、プリズナー。

「艦長のコピーなんざ、薄気味の悪い。今、握り潰してやるぜ」
 宇宙を漂流していたパイロットが、バル・クォーダの右腕に収まる。

「運が無かったな、悪く思うなよ。どの道、パイロットスーツじゃ、大した時間は生き延びられんだろ」
 コミュニケーションリングを通し、サブスタンサーの右腕に力を込めようとした。

「ムッ……なんだ、コイツはッ!?」
 プリズナーは、パイロットを握り潰すのを躊躇(ためら)う。

 バル・クォーダの大きな腕が、開いたコックピットハッチに近づき、テスカトリポカ・ケツァルコアトルのパイロットを回収した。

「なんてこった。宇宙斗艦長の、コピーじゃ無かったのかよ!」
 気を失っているパイロットの容姿を観察しながら声を荒げる、かつての少年兵。

「ど、どうして、女になんかなってやがる!」

 彼の目に映る、群雲 宇宙斗のコピーのパイロットスーツは、コピー元と比べて小柄で、女性的なボディラインをしていた。
胸に小さな膨らみがあり、お尻は大きく、腰はくびれている。

「艦長よ。いつの間に、性転換したんだ……」
 パイロットスーツの、ヘルメットの中を覗き込むプリズナー。

 そこには黒髪のショートヘアの、群雲 宇宙斗に瓜二つの顔があった。
それでも本人と比べると、僅かに丸みを帯びており、眉も細く目元も垂れている。

「時の魔女め。コピーすんなら、もっと完璧にしやがれ」
 ボーイッシュな少女パイロットを、膝(ひざ)の上に抱えるプリズナー。
自身の宇宙での位置を確認すると、本物の群雲 宇宙斗を連れ戻すべく、任務を再開した。

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