アステカの神対スペインの神
セノーテの予定地に残された、掘削機の上に貼りついた嵐と雷の神・シュガール。
「かつてアステカ帝国を侵略した、スペインの神か……」
「ヨーロッパのアーキテクターを従えてやがったのも、関係がありそうだぜ」
ケツァルコアトルとテスカトリポカ。
アステカの2柱の神の名をいただいたサブスタンサーが、スペインの神に刃を向ける。
『ギャガッガガッゲ』
不気味な音を発したシュガールは、無数に生えた大ムカデの頭をこちらに向け、一斉に火焔弾を吐いて攻撃して来た。
「嵐と雷の神のクセに、火焔弾とはね」
「無節操な神も、居たモンだぜ」
ボクのケツァルコアトル・ゼーレシオンは右に、プリズナーのテスカトリポカ・バル・クォーダは左に開いて攻撃を仕掛ける。
中央からは、娘たちが駆る9機のジャガーグヘレーラーが、ライフルによる射撃を開始していた。
「フラガラッハッ!」
腰の背面にマウントされた魔の十字剣を右手に握ると、ボクは大ムカデの1匹を頭から長い胴体に沿って、真っ二つに斬り裂く。
「テペヨロトル!」
プリズナーも、両腕に持った真っ黒な斧の名を叫んだ。
黒光りする斧で、大ムカデを乱雑に切り刻むテスカトリポカ。
「ガッハハ、こりゃあ大した切れ味じゃねェか!」
狂乱の黒き神は、2挺の斧をムカデの緑色の体液で汚しながらも、敵を次々に破壊して行く。
「プリズナー、煙が出ているぞ。大丈夫か?」
ゼーレシオンの高性能な目が捉えた、テスカトリポカ・バル・クォーダには、全身に黒い煙が纏(まと)わり付いていた。
「気にすんな、艦長。どうやらこれが、仕様らしいぜ」
ドス・サントスさんによって与えられた、新たな装備の性能を確かめる為、試し斬りをするように敵を倒して行く、黒きドクロの破壊神。
「スペインの神ってのも、大したコトはねェな」
「だけどおかしいぞ。これだけ斬り伏せているにも関わらず、大ムカデの数がほとんど減っていない」
「な、なんだと!」
狂乱から、我に還るプリズナー。
その足元には、無残に切り刻まれた無数の大ムカデの死骸が転がっていた。
「大ムカデがシュガールの本体から、昔の日本のロボットアニメの胸部ミサイルみたいに、無限に生成されてるんだ」
「オイオイ。質量保存の法則とか、どうなったよ」
「どうやらシュガールの本体が、一種のワープ装置なんだろうな。現に本体から切り離されて、活動しているヤツも居る」
本体から這い出た大ムカデは、その長き巨体をうねらせながら、巨大な穴の底へと落下して行く。
「うぎゃあ、ムカデが降って来た!」
「なんなんだい、コイツら」
「ライフルのビームが、通んないよ」
「セシル、セレネ、セリス、お前たちが中心になって対処してくれ。ライフルの遠距離よりも、近接戦闘の槍の方が通りやすいハズだ」
「了解したよ、オヤジ」
「元々ウチらのサブスタンサーは、近接戦闘用なんだ」
「確かに槍なら、装甲を破れるね」
夢で出会った3姉妹の長女ショチケ・サントスの3人の娘たちが、リーダーシップを取って大ムカデの殲滅(せんめつ)に当たっていた。
「よォ、艦長。本体から大ムカデが生成されるスピードが、速くなってねェか?」
「ああ、プリズナー。どうやら本体を真っ先に叩くしか、無いみたいだな」
ボクたちは、再びシュガールに攻撃を仕掛ける。
けれどもボクたちの前には、大ムカデの大群が立ちはだかっていた。
「クソッ、斬っても斬っても、これじゃキリがないぞ」
「近接武器じゃ、ラチが明かねェぞ。艦長、アレしか……」
テスカトリポカ・バル・クォーダのドクロの頭部が、ケツァルコアトル・ゼーレシオンを見ている。
「了解だ、プリズナー」
ボクたちの見解は一致し、ゼーレシオンは左腕に装備した大きな盾を展開した。
「ブリューナグ!!」
ゼーレシオンの盾から虚空の天井に向って、光の球がバチバチと音を立てて放たれていた。
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