ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~第13章・28話

水の王女とカゲロウの神

「さて、実験室もキレイに片付いたね」
 見違えるホドに整然と並んだ本棚や、なにも落ちていない床。
2人の愛弟子たちの仕事に、満足気な顔を浮かべる大魔導士。

「リュオーネ……お主、自分で部屋を片付けたコトはあるのかえ?」
「ないな。そんな時間があれば、研究をしているからね」
 シャポーで顔を隠す大魔導士に、肩を竦めるルーシェリア。

「でもさ。見たところ、どこにでも居そうなコたちだケド、魔法の才能はあるの?」
「そうだね。ルスピナ、ウティカ、精霊を呼び出してごらん」
 スプラの疑問に、弟子たちに実技で答えさせるリュオーネ。

「わ、わかりました、お師匠さま。まずは、わたしからやってみます」
 ルスピナが目を閉じ、両掌(てのひら)を天に向けて開いた。

「ん……んん、水の精霊さん……」
 すると、左右に垂らしたコバルトブルーのお下げが、水を纏(まと)ってフワリと揺らめく。

「ずいぶんと、大物が出て来おったわ」
「こ、これって、水の精霊(ウォーターエレメント)と言っても、かなり上位のヤツなんじゃないの!」
 ルーシェリアとスプラは、少女の背後に具現化した精霊を見て驚く。

 青い水で出来た精霊は、ミドルヘアに整った顔立ちをした少女の姿をしていた。
下半身は6頭の犬の上半身になっていて、犬の下半身からは、12本の海龍の尻尾が長く伸びている。

「名をメガラ・スキュレーと言って、水の王女とも呼ばれる高位精霊さ。魔物とされるコトもあるケドね。どちらかと言えば、神に近しい存在だよ」
 弟子の呼び出した精霊を、解説する師匠。

「では、次はわたしが行きます。ハアッ!」
 気合の掛け声を上げる、ウティカ。
ハンターグリーンの背中で纏めた髪が、風に舞う。

「今度は妾も、知らぬ精霊じゃのォ」
「元魔王の、キミでも知らないんだ」
「風の高位精霊なのは、一目瞭然(いちもくりょうぜん)なのじゃがな」

 風は、ウティカを中心として竜巻となり、海底都市のドームの天井に雷雲を呼ぶ。
吹きすさぶ暴風の中に、異形の姿が顕(あらわ)れた。

「わたしですら、東の国の文献をあさって、やっと正体を突き止めたくらいだからね」
「なんと、東の国の神なのかえ?」
「ああ、そうさ。かなり古い時代の神だよ」

 大魔導士は、弟子の呼び出した巨大な竜巻を見上げる。

「名を、アニチ・マリシエイと言ってね。陽炎(かげろう)の神らしいね」
「カゲロウ……夏の暑い日とかに、幻が見えるヤツのコト?」
「そう。だから姿を見せないのさ。軍神と呼ばれたり、暁(あかつき)の女神とされたりするらしいね」

「それでは、男か女かも解らぬではないか」
「まったく、その通りだよ。謎だらけの精霊を、呼び出してくれたモノさ」

 リュオーネは、高位精霊を呼び出した弟子たちの元へと向かう。
2人の労をねぎらうと、呼び出した精霊を本来の世界へと返した。

「なんじゃ。ひょっとして呼び出せはするが、返すのは出来ないのかえ?」
「まだ、そこまでは教えてないからね。なあに、直ぐに覚えるよ」
 弟子たちを連れて、戻って来るリュオーネ。

「名高い大魔導士サマに言われちゃうと、流石に説得力あるよね」
「これだけの、高位精霊を見せられてはのォ。納得する他、ないようじゃ」

「ところでお前たち、バルガ王の元へ行くのであったな?」
 大魔導士は、シャポーを上げる。

「そうだケド、なにか伝言でもあるの?」
「いいや、スプラ。実はこのコたちを、王の元へ連れて行ってやってくれないか?」

「2人って、ルスピナちゃんと、ウティカちゃんのコト?」
「他に居ないだろう」
 弟子の背中をポンと叩いて、2人を送り出すリュオーネ。

「お、師匠さま!」
「ど、どう言うコトでしょうか?」

「魔法の修行さ」
「しゅ、修行ですか?」
「今でも、お師匠サマの元で……」

「魔導の知識を覚えるのも、重要なコトだケドね。実際に世界を歩いて、色んな精霊と出会い、魔法を会得するのも大切なコトだからね」
 不安そうな顔の愛弟子たちに、優しい微笑みを見せる褐色の肌の大魔導士。

「アンタたちはね。まだ若いんだ。色んなモノを、その目で見て来るといい」
「わ、わかりました」
「では、行って参ります」

 ルーシェリアとスプラに連れられ、旅立って行くルスピナとウティカ。
リュオーネは少しの間、小さくなって行く愛弟子たちの背中を見送った。

 前へ   目次   次へ