ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第11話

時間

 時間とは、なんだろうと考える。
科学的に言えば、物質が遷(うつ)ろう無限のさまを、人間が区切った尺度なのだろう。

「お前たちの先生で居られるのも、あと僅かな時間……か」

 抽象的に言うのであれば、時間とは過去から未来へと流れる一方通行の河であり、誰も時間を遡(さかのぼ)った者など居ない。

「ボクが足掻(あが)ける時間も、これで最後と言うワケだ……」
 かつての教え子たちが、アリスをイジメていたと知ったボクは、落ち込まずには居られなかった。

「そんなコトいうなよ、先生。まだテストがダメだなんて、決まったワケじゃないジャン」
 かつては勉強が苦手で嫌いだった、レノンが言った。

「わたし達、頑張るんだからね。みんな、先生がクビになんて、なって欲しくないんだから」
 エレベーターのゴンドラの、透明ガラスにもたれ掛かった栗毛の少女が、ボクを見つめている。

「ああ。そうだな、ユミア」
 テストを受ける生徒たちを励ます立場のボクが、逆に励まされてどうする。
もっと、しっかりしないと。

「教師であるボクに残された最後の手段は、キミたちを信じるコトだけだ」
 ボクは自分の両頬を、激しく叩いた。

 日本の技術者たちが開発した高速エレベーターは、ボクたちを瞬時に下界まで運んでくれる。
この巨大高層建築を作ったのだって、日本の技術者や建築会社なんだ。
それらの会社に、優秀な人材を提供して来たのは、かつての義務教育や学校だった。

「なにも、落ち込む必要なんて無いさ。どんなシステムにだって、利点もあれば欠点もある」
 ボクは必死に自分の信念を補完し、前向きになろうとする。

 エレベーターのドアが開き、馴染みの地下駐車場の光景が広がった。

「思えばボクは、最上階と最下階の2つのスペースしか、使って来なかったな」
「なに、しんみりしてんのよ。これからだって、まだまだここに来るんだからね」

 ボクの雇い主は、強気な顔を見せる。
けれどもそれは、ユミアなりの精一杯の強がりなのだろう。

「だけどまさか、ライブ会場でテストを受けるハメになるなんてな」
「思っても、みなかったのです」
 先を行く、レノンとアリスが言った。

「アイツの悪趣味には、ホントあきれる他ないわね」
 久慈樹社長の悪口をまき散らしながら、控室へと入って行くユミア。
他の生徒たちも、後に続く。

「申しワケございません。こちらの控室は、男性はご遠慮願います」
 簡易の机に居た女性スタッフが、ボクにアタマを下げた。

「そ、そうですか。わかり……」
「なんで、男性は入れないのよ。ただの控室でしょ?」
 納得したボクの脇から、ユミアが飛び出して来る。

「ライブ用の衣装に、着替えていただく必要があるからです」
「ハア。衣装って、制服じゃないワケ?」
「はい。アイドル用の衣装に着替えていただきます」

「意味がわかんないんだケド。なんでアイドルじゃないわたし達まで、アイドルの衣装を着なきゃ行けないのよ!」

「久慈樹社長の、ご指示です」
 事務的なコトしか言わない、女性スタッフ。

「アイツの指示に、従ってやる必要なんて無いわ。みんな、このままテストを受けましょ」

「ソイツは、困るな。スタッフの指示には、従ってくれないと」
 そこには、高価そうなスーツを当然のごとく着こなした、久慈樹社長が立っていた。

「出たわね、久慈樹 瑞葉。一体、どう言うつもりよ」
 普段通りの、スパイスの利いた対応を取るユミア。

「天空教室の仲間はみんな、アイドルをやっているんだ。キミたち4人だけ除け者にするのは、可哀そうじゃないか」

「ア、アタシたちも、アイドルになれってコト!」
「そ、それはチョット……」
 いきなりの発言に驚く、レノンとアリス。

「アイドルになるかどうかは、個人の意思だったのではなくて?」
「それは昨日までの話だよ、クララ」
 久慈樹社長は、天使のように笑った。

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