ケツァルコアトル・ゼーレシオン
「お前たち、ケガはもう大丈夫なのか?」
9人の孫娘の、身体を心配するドス・サントスさん。
兵員の待機室の向こう側にあった、治療室のカプセルベッドに横たわる9人の娘たち。
それからボクもDNA鑑定を受けた結果、9人ともがボクの実の娘であるコトが判明した。
「ほぼ回復したよ。アタシらは、兵隊だからね」
「ケガも治ったのに、寝てもいられないか」
「反攻作戦に出るんだろ、代表?」
ボクとショチケの娘である、セシル、セレネ、セリス・ムラクモが、祖父に問いかける。
「ああ、スマンな。本来なら可愛い孫娘を、戦場に送りたくはないんだが……」
「ケッ。身内と判明した途端、これかよ」
「身内を大切に思うのは、誰だって同じだろう、プリズナー」
ボクも正直、彼女たちが自分の娘と判った途端、ドス・サントスさんと同じ感情が芽生えていた。
「アンタには、コイツらを率いて占領されちまったセノーテ予定地を、奪還する作戦に当たってもらう」
「わかりました。彼女たちは、ボクの直属にさせてもらいます」
提案を了承したボクたちは、ゼーレシオンらを駐屯させてある格納庫(ハンガー)へと向かう。
「まさかこんなカタチで、オヤジと会えるとは思ってもみなかったよ」
「まったくだ。ところでオヤジは、コミュニケーションリングを付けてないよな?」
「サブスタンサーを、どうやって操ってるんだ?」
部屋を出て直ぐに、ボクとマクイの娘であるマレナ、マイテ、マノラ・ムラクモの3姉妹が、左右両脇に並んだ。
「どうなんだろう。コックピットに乗り込んだら、ボクの意志で勝手に同期できてる感じだな」
「おじいちゃん、もう娘さんたちと仲良しなんですね」
不機嫌そうな笑顔を浮かべたセノンが、会話に割り込んでくる。
「ま、まあな」
「親子水入らずをジャマしちゃ、アレです。わたし達は、アフォロ・ヴェーナーに戻ろ」
セノンは真央たち3人娘を連れて、巨大な真珠色のイルカへと戻って行った。
セノンが去ってからは、親子水入らずとは行かず気マズい空気が流れる。
無言のままボクは、プリズナーやメルクリウスさんらと共に、格納庫へと戻ってきた。
「な、なんですか、これはッ!?」
見上げたゼーレシオンの巨体が、いつもと様相が異なっている。
白い装甲に黒い人工筋肉を持ち、金色の金属で彩られたゼーレシオンの背中に、大きな翼を持った白い蛇が、纏(まと)わり着いていた。
「キュクロプス・サブスタンサーの汎用規格に合わせて開発した、追加装備だぜ。名前は、『ケツァルコアトル』」
ドス・サントスさんの言う、キュクロプス・サブスタンサーとは、人が乗って操縦するタイプであるサブスタンサーのうち、20~30メートルの機体を指す。
奇抜な汎用規格を装備したゼーレシオンは、アステカの神のような風貌になっていた。
「ケツァルコアトル・ゼーレシオンって、ところですか」
背中からは、巨大な蛇の長い首とシッポが伸び、左右に折りたたまれた鳥のような翼を持っている。
全身に施された、アステカの刺青を思わせる文様が淡く光っていた。
「なにソレ、オヤジ。くっつけただけじゃん」
「でもさ、ドス・サントス代表」
「こんな装備があんなら、アタイらにもくれよ」
「残念だがコイツァ、スペシャル機にしか搭載できないワンオフの装備だ。オメーらの乗ってる、ジャガーグヘレーラーには装備ができねェんだ」
「クッソ、それじゃ仕方ないね」
「オヤジ、せいぜい可愛い娘を護ってくれよ」
「死んだら、呪って出てやるかんな」
ボクとチピリの娘である、シエラ、シリカ、シーヤ・ムラクモの3人の少女たちは、ふてくされた顔をしながらも、ボクに柔らかい背中を寄りかからせて来る。
「ああ。もうこれ以上、生贄なんてゴメンだからな」
ボクは娘を護る覚悟を決めると、エキゾチックな装備を身に付けた、ケツァルコアトル・ゼーレシオンに乗り込んだ。
前へ | 目次 | 次へ |