次なる太陽へと……
濃いグレーの分厚い雲から、絶え間なく降り続く黒い雨。
放射能まみれの黒い海は逆巻き、空から隕石が降り注いでいる。
「まるで冥王代にでも、戻ったみたいだ……」
自分の心臓から吹き上がった鮮血を浴びながら、微睡(まどろ)む意識の中で思った。
「ケツァルコアトルよ、儀式は果たされた」
「我らは次の時代の、種となり土となろう」
「さあ、共に悦楽を貪(むさぼ)ろうぞ」
ボクの血で、身体を真っ赤に染めたショチケ、マクイ、チピリが、纏(まと)っていたナワ族の民族衣装を脱ぎ捨てる。
まだ幼さの残った身体を、ボクの身体に擦りつける3人の少女たち。
「ボクは……ああ、そうだな。またお前たちと、1つに……」
脳裏から地球の光景は消え、闇が全てを蔽(おお)い尽くした。
妖しい太鼓の音と共に煙が揺らぎ、刺激的な香りが鼻を突く。
「我らが父、トラロックの太陽は地に堕ちた」
「今、次なる太陽が登ろうとしている」
「新たなる、太陽の名は……」
ボクの意識は、ショチケ、マクイ、チピリの3姉妹の身体と1つに重なり、絶頂に達した。
~その頃~
「クッソ、どうなってやがる。艦長を探しに宇宙に出たはイイが、いきなり敵の大群に遭遇しちまうとはなッ!」
水晶の髑髏(ドクロ)の頭部を持ったサブスタンサーが、敵に囲まれている。
「あのデカいコンドルの生み出した異次元の空が、都合良く水に潜んだ白い髪のヤツの次元へと、繋がっていると考えたのが浅はかだったぜ」
両腕の戦斧で、ダイス型の敵を切り裂くプリズナー。
彼のサブスタンサーを囲んでいたのは、火星を襲ったQ・vic(キュー・ビック)と名づけられた立方体だった。
「コイツが居やがるってコトは、カルデシア財団のご令嬢もここに来ているのか?」
水晶の頭部で辺りを確認するが、巨大な敵影は見当たらない。
「コイツらは、時の魔女の尖兵ってところか。ココは、時の魔女に関わる宙域かも知れねェな」
テスカトリポカ・バル・クォーダは、Q・vicの攻撃をあしらいながら、自身の位置を確認した。
「冥王星の公転軌道付近であるのは、間違い無い。太陽からの距離が、30から50AUくらいの円盤の何処かだが……流石に大雑把(おおざっぱ)過ぎるな」
1AUとは、光速でも8分もかかる太陽と地球との距離であり、その30倍から50倍の半径を持つ円の何処かであっても、あまりに広大過ぎる。
「よう。お困りのようだな、プリズナー」
その時、彼の髑髏型のコミュニケーションリングに、聞き覚えのある声が響いた。
「な、なんだ。誰か居るのか!?」
改めて周囲を確認する、テスカトリポカ・バル・クォーダ。
「オイオイ。オメーを宇宙に逃がしてやった恩人を、忘れちまったのか?」
「そ、その声……まさか……」
声の出処(でどころ)は、直ぐに見つかった。
水晶の髑髏の視線の先に立つ、ターコイズブルーの戦士の姿をしたサブスタンサー。
ハチドリの顔に羽の冠(かんむり)、槍と5つの房の付いた盾で武装している。
「オ、オメー……まさか、ギムレットか?」
かつての少年兵は、かつての戦友の名を叫んだ。
「久しいな、ボウズ。イヤ、戦火の時代からの、冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)」
しゃがれた声が、語りかける。
「まさか、こんな太陽系の田舎で再会するなんてな。テメー、死んだんじゃなかったのか?」
群雲 宇宙斗から、ギムレットはゲーによって死んだと聞かされていた。
「ああ。このオレとしたコトが、ドジ踏んじまってな。ゲーの野郎に踏み潰されて、ゴキブリみてェにペシャンコだ」
「ギャッハハ。テメーらしい、最期だな。で、どうやってこの世に、舞い戻った?」
自分は死んだと語る者に対して、聞き返すプリズナー。
「グチャっと潰されて、死んだままさ。だがオレの意識は、あの監獄の量子コンピューター(ゲー)にコピーされていてな」
「つまり……今のテメーは、身体を持たない幽霊(ファントム)ってコトか?」
「多少は成長したらしいな、プリズナー。そう言うこった」
ターコイズブルーのサブスタンサーの周りに、4匹の青白い炎を纏ったヘビが群がる。
「お前の能力、このテスカトリポカ・ウィツィ・ロ・ポトリが、見極めてやろう」
ギムレットのサブスタンサーは、槍を構えて突進して来た。
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