神と悪魔の申し子
サタナトス、ケイダン、ティ・ゼーウスの3人の少年の前に姿を現わした、牛頭の巨人。
大将軍が纏(まと)っていた、五芒星のデザインされた黄金の鎧を身に着け、頭部には2本の角の生えた黄金の兜を被っていた。
「こりゃあ、本当にあのミノ・ダウルス大将軍なのか!?」
アッシュブロンドの少年が、気圧されながらも、ハート・ブレイカーを身構える。
「違うよ、ティ・ゼーウス。コイツは、大魔王ミノ・ダウルスさ」
金髪の少年は、言った。
「確かに人間の状態に比べ、身体も倍以上は大きくなっているぞ」
ケイダンも、師匠譲りの幻影剣・バクウ・ブラナティスを具現化させる。
「コイツは……味方なのか?」
ティ・ゼーウスは、牛頭の巨人に近づいた。
『ムオオオォォォーーーーーッ!!』
他を威圧する咆哮(ほうこう)と共に、大魔王ミノ・ダウルスは戦斧を振り上げる。
「残念だが、まだ完全に魔王となったワケじゃないみたいだ。彼の身体に流れる神の血が、魔王になるのを阻(はば)んでいるんだろうね」
牡牛のような黒い毛波みと化した皮膚に、元々角のある兜から伸びた、立派な2本の角。
牛頭の大魔王は、前身の筋肉を躍動させ、アッシュブロンドの少年を襲った。
「それを、先に言えっての!」
ハート・ブレイカーの臓物を、地下闘技場の崩落を免(まぬが)れた天井に貼り付かせて難を逃れる、ティ・ゼーウス。
「だがこちらを、完全に敵として認識してはいないようだな?」
「マジか。確かに、追撃はして来ねェが……」
臓物を解除し、ケイダンの後ろに降り立つティ・ゼーウス。
「彼は今、戦っているのさ。彼の中にある、魔族の魂と神の魂がね」
サタナトスは、魔晶剣・プート・サタナティスを具現化させた。
「ボクの剣は、どうやら完全には、キミを魔王にするコトは出来ないみたいだ」
金髪の少年の背中から、天使の白い翼と魔族の黒い翼が現れる。
「でも……キミの人間であった心だけは、完全に魔族にさせられる!」
金髪の少年は、6枚の翼を以って宙に舞い、大魔王ミノ・ダウルスに向け突進した。
『ブオオオォォォーーーーーッ!!』
大魔王は、苦しみながらも戦斧を振り回す。
けれども、サタナトスのアメジスト色の剣が、大魔王の牛頭の眉間(みけん)に突き刺さった。
「……や、やったか!?」
「イヤ、ヤツの攻撃はまだ終わっていない」
ケイダンが、バクウ・ブラナティスで時空を斬り裂く。
「な、なんだと。またアイツが、星砕きの攻撃を喰らったら、今度こそ身体が……!?」
振り回された星砕き(アステリオス)が、サタナトスの身体を粉砕しようとした瞬間、空間が裂け中からケイダンが現れた。
間一髪で、金髪の少年を時空の裂け目へと引き吊りずり込む。
次の瞬間、星砕きは闘技場の壁や床を粉砕し、完全に消し去った。
「グワァッ! やはり星砕きは、普通の戦斧なんかじゃねェ。壁や床が、消えちまってやがる!」
ティ・ゼーウスは、ハート・ブレイカーを使って難を逃れる。
大魔王ミノ・ダウルスは、闘技場を破壊しつつ、苦しみながら暴れまわった。
その巨体が真っ白に輝き、やがて小さく収束する。
「こ、これが……サタナトスの剣の、真の能力だと?」
光が収束した場所へと近づく、ティ・ゼーウス。
彼の目の前には、真っ白な肌の男がうずくまっていた。
「その通りさ。そして今、新たな大魔王が誕生したんだ」
サタナトスとケイダンが、ティ・ゼーウスの背後から現れる。
「コイツは、お前の部下になったのか?」
「さあね。目覚めてみないコトには、解らないよ」
瓦礫だらけの床に伏せった、男を見守る3人の少年。
やがて男は起き上がり、少年たちに蒼い目を向ける。
「目覚めたみたいだね。キミは、誰だい?」
金髪の少年は、天使のような笑みを見せた。
「オレは、ミノ・ダウルス。神と悪魔の、申し子よ」
男は均整の取れた美しい肉体を持ち、頭の横から2本の角が伸びていた。
前へ | 目次 | 次へ |