コピーとオリジナル
宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアは、左舷後方に被弾をしながらも、マーズの別動艦隊から逃亡を図っていた。
「敵艦隊を、引き離しつつある。取り付いたアーキテクターを、各個撃破すれば終わりだ」
シルヴィアのアタ・ランティが、仲間の少女たちに指示を出す。
「了解だ、シルヴィア。だがみんな、気は抜くなよ」
カミラさんのアタ・ランティが、アサルトライフルで次々に敵を撃破していた。
「クーリアさまの艦から、離れるですゥ!」
フレイアのアタ・ランティが、サブマシンガンを敵アーキテクターに向けて乱射する。
11人の少女たちの働きは目覚ましく、純白の気高き艦に取り付いたアーキテクターは、見る見る数を減らしていた。
「どうやら、なんとかなりそうだな」
勇ましい少女たちの、サポートをするゼーレシオン。
全てを斬り裂く剣(フラガラッハ)が、1000年前に見た時代劇のように、敵を斬り伏せた。
「艦長、上だ!」
プリズナーの声を、ゼーレシオンの触角が捉える。
「なに?」
真上を見上げると、真っ白に輝く小さな太陽を背に、1体の機体が迫っていた。
「新手の、アーキテクターか!?」
急接近する機体の攻撃を、ゼーレシオンの巨大な盾で防ぐボク。
漆黒の外装の機体は、ゼーレシオンより1回り小型で、女性的な風貌をしていた。
頭の後ろから紫色に輝く髪を生やし、両手には短刀のような武器を持っている。
背中には、コウモリの羽根の様なマントを装備していた。
「へェ。このペルセ・フィネーの攻撃をかわすとは、やるじゃないか」
女性的な漆黒の機体(ペルセ・フィネー)は、女性の声と共に再び攻撃を仕掛けて来た。
「お前は、マーズの手下か!」
フラガラッハが、ペルセ・フォネーを腰の辺りから両断する。
けれども、機体は幻の如く消え去った。
「な、残像だと?」
慌てて周囲を確認する、ボク。
「アタシは、コリー・アンダーソン中佐だ。今はマーズの下にいるが、本意じゃないさ」
背中らか現れたペルセ・フィネーが、ゼーレシオンの脇腹に短刀を突き刺す。
「クッ!?」
フラガラッハで、背中の敵を振り払うゼーレシオン。
ペルセ・フィネーは宙に跳んで、攻撃を退(しりぞ)けた。
「コリー・アンダーソン中佐だと!? 任地のセドナで不治の病にかかって、亡くなったんじゃ無かったのか?」
ボクは、それまでに得ていた情報を投げかける。
「それは、アタシの本体(オリジナル)の方だよ。アタシはオリジナルが生きている間は、火星で眠らされていてね。コピーのアタシは、オリジナルが死んだときの言わば保険さ」
「奇遇だな。ボクも火星のフォボスで、眠っていた」
ペルセ・フィネーの短刀による連続攻撃を、フラガラッハと盾で防ぐボク。
コリー・アンダーソン中佐は、冥界降りの英雄と謳(うわ)われた、バルザック・アイン大佐の伴侶であり、そのオリジナルはやはり亡くなっていた。
「へェ、そうかい。アンタも、コピーなのか?」
「さあな。違うと思うケド、確証は持てないさ」
「アハハ。まあ、そうだろうね。アタシだって、自分にオリジナルが存在して、自分はコピーだとか言われたって、実感無いからね」
クーヴァルヴァリアを離れ、漆黒の宇宙で戦闘を続ける、ゼーレシオンとペルセ・フィネー。
「それじゃあ、漆黒の艦隊を率いるのは、バルザック・アイン大佐なのか?」
「ああ、そうだよ。もちろん、コピーの方だケドね。オリジナル同士は付き合ったらしいが、アタシらは至ってドライな関係さ」
「不思議なモノだな」
「何がだい?」
「ボクは、そのオリジナルの方のバルザック・アイン大佐と、冥王星の軌道付近で共に戦っていたんだ」
若きコリー・アンダーソン中佐と刃を交えながら、ボクは自分が本当に本物(オリジナル)なのかと考えていた。
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