紅蓮の猛将
虚空の宇宙(そら)へと飛び出した、ゼーレシオン。
1000年前のボクであれば、それは布団の中の空想世界でしか実現しなかった出来事であり、今まさにボクは宇宙を飛んでいる。
「宇宙斗艦長。右前方に、漆黒に赤いラインの入った艦艇だ。恐らく、火のプレゲトーンの艦隊だぜ」
プリズナーの声を、ゼーレシオンの巨大な触角がキャッチした。
艦隊規模としては少数だったが、プレゲトーンの艦隊はあらゆる砲門を開き、激しく宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアを砲撃する。
「凄まじい火力だな。このままじゃ、クーヴァルヴァリアの装甲が破られるのも、時間の問題だぞ」
ボクは、ゼーレシオンの左腕に装備されたシールドを展開し、巨大なエネルギーの弾を生成させた。
「プリズナー、援護を頼む。敵艦隊に、ブリューナグを撃ち込んでやる!」
「任せな。美宇宙、聞えたか?」
「ウン。聞こえてるよ」
光のエネルギー球(ブリューナグ)を展開したゼーレシオンが、プレゲトーンの艦隊に突貫する。
ブリューナグが、1隻の大型戦艦の横腹をエグり取り轟沈(ごうちん)させた。
「やるじゃねェか、艦長。だがよ、ゼーレシオンが無防備だ!」
「判ってる。行け、フェブル・アーリア。ボクのオリジナルに、近づけさせないよ!」
プリズナーのバル・クォーダと、美宇宙の操る正式名称が判明したアーキテクター・ドローン(無人機)が、ボクを援護する。
2人に護られたゼーレシオンは、敵の戦艦クラスを次々に撃破して行った。
「流石は、ゼーレシオンの切り札だぜ。これで、先頭の艦艇を5隻撃破だ」
「ああ。だがブリューナグも、限界だ。通常兵装に切り替えて、戦闘を行なう!」
ボクはブリューナグを収束させ、全てを斬り裂く剣(フラガラッハ)にメインウェポンを変更する。
プリズナーの駆るバル・クォーダが、ガトリングライフルで敵戦艦を叩くと、美宇宙の操る5機のフェブル・アーリアが、美しい編隊飛行からの攻撃で敵空母を沈めた。
「フン、やりおるわ。マーズ様が、一目置くだけのコトはある」
漆黒に赤いラインの艦隊の旗艦で、1人の男がモニターで戦況を確認しつつ、ほくそ笑む。
男は真っ赤な髪に、オレンジ色の口髭やアゴ髭を蓄えており、褐色の肌に筋肉質の体をしていた。
漆黒に赤のラインが入ったスーツを纏い、真っ赤なマントを翻(ひるが)す。
「プレゲトーン提督。いかが致しましょう?」
背後に控えた部下の1人が、伺いを立てる。
「僅かな犠牲など、捨て置け。このままく宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアに向け、突貫する。全艦、前方にのみ火力を集中させよ!」
艦橋(ブリッジ)にて号令を降す、プレゲトーン。
けれどもその進路に、ゼーレシオンが姿を現した。
「……なッ!?」
唖然とする、紅蓮の猛将。
艦橋の前方部が、フラガラッハによって斬り裂かれた。
「グワッ……こ、こんなコトがァァーーーーッ!?」
プレゲトーンは艦橋に集ったブレーン共々、空気圧の差によって無理やり真空の宇宙へと引き吊り出され、凄まじい勢いで蒸発する。
「宇宙斗艦長、これでプレゲトーン艦隊は押さえたな」
「ああ。だけどヴァルバリアの左舷から、もう1艦隊が迫っていたハズだ」
「了解だよ。そっちに、急行しよう!」
ゼーレシオンは、置き土産とばかりにブリューナグを撃ち出すと、次なる敵艦隊に向け飛び出して行った。
旗艦を失ったプレゲトーン艦隊は、宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアの格好の餌食となり瞬く間に撃破されて行く。
「よし、見えたぞ。アレだ」
ゼーレシオンは、クーヴァルバリアの左前方から迫る艦隊の姿を、捉えていた。
「プレゲトーン艦隊に気を取られていたお陰で、かなりの距離まで接近を許してしまっている」
「ああ、このままじゃクーヴァルバリアに、ぶつかっちまう!」
漆黒に蒼いラインの艦隊は、クーリアの名を冠する戦艦の間近まで迫っていた。
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