紫色の抱擁(ほうよう)
「宇宙斗艦長、後ろ来てるぜ」
プリズナーの叫び声が、ゼーレシオンの触角を通してボクの脳裏へと伝わって来た。
「わかっているさ」
全てを斬り裂く剣(フラガラッハ)が、背後の敵を両断する。
宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアは、バルザック・アイン大佐率いるマーズの別動艦隊の追撃を受け、激しく被弾していた。
「クローンと言えど、バルザック・アイン大佐の用兵は流石だぜ。脚の速い艦だけを選別して快速艦隊を編成し、先回りをして足止めしやがったんだからよ」
「ああ。だけど敵は、そこまで多く無い戦力を分散したんだ。クーリア、前方の快速艦隊のみを徹底して叩けば、活路は見いだせる」
偉そうに、指示を飛ばすボク。
「わかりました、宇宙斗艦長。狙える全砲塔、前方の快速艦隊に集中砲火(クロスファイア)を!」
クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダは、ボクの言葉通りに宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアの砲塔を、前方を塞いでいた艦隊へと向けた。
砲塔からレーザーが1斉に発射され、見る見る敵を撃破して行く。
速さに重きを置き、元々装甲の厚くない艦隊は、瞬く間に壊滅してしまった。
「今です。突破を!」
宇宙の藻屑(スペースデブリ)となった敵艦隊の間を、抜けて行く宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリア。
クーリア旗下の11人の少女たちが駆るアタ・ランティが、敵の残存が居ないかと警戒していた。
「バルザックのヤツ、ヘタを打ったね」
1機のサブスタンサーが、ゼーレシオンへと攻撃を仕掛けて来る。
「コリー・アンダーソンか!?」
「オリジナルは、くたばっちまってるからね。今はアタシが唯一の、コリー・アンダーソンだよ!」
ペルセ・フォネーが急接近して来て、両腕に仕込まれた短刀でコックピットを刺そうとした。
「させるかよ!」
ボクはゼーレシオンの脚で、ペルセ・フォネーを蹴とばして窮地を凌ぐ。
「クッ、やるね。だケド、ペルセ・フォネーだってこれくらいは出来るんだよ!」
2本の短刀を、ゼーレシオンに向けて投げつける、ペルセ・フォネー。
「武器を失うリスクがあるってのに、こんな攻撃……」
ゼーレシオンは、2本の短刀の間に入って攻撃をかわした。
「油断したね。絡(から)め取らせて貰うよ」
無重力空間を飛んでいた短刀が、ピタリと止まる。
「なに……ワイヤーか!」
短刀には、細いワイヤーが接続されており、止まった反動でゼーレシオンの右腕と左脚に、クルクルと巻き付いた。
「さあ、電流で焼け焦げちまいな」
「電流なんかで、ゼーレシオンは堕とされたりしない!」
ペルセ・フォネーはワイヤーに電流を流すものの、ゼーレシオンの装甲や筋肉はそれらを無効化する。
「フラガラッハ!」
ボクは、ゼーレシオンの右腕に絡まったワイヤーを斬り、左脚を大きく後ろに振った。
「な、なんだって……キャア!」
ゼーレシオンの左脚に絡まっていたワイヤーが、ペルセ・フォネーを手繰(たぐ)り寄せる。
「これで、トドメだ!」
ゼーレシオンも、ペルセ・フォネーに向け加速させるボク。
「こ、こんなところで、わたしは……イヤアッ!」
ペルセ・フォネーは、腰の部分で真っ二つに両断された。
下半身は少しだけ宇宙を漂った後に爆発し、上半身はゼーレシオンが確保する。
「ふざけたマネを……捕らえた気だろうが、まだ戦えるんだよ!」
上半身だけとなった女性的な風貌のサブスタンサーは、紫色に輝く髪を長く伸ばして、自身共々ゼーレシオンを締め上げた。
「しまった……フラガラッハが!?」
締め上げられた反動で、全てを斬り裂く剣は手から離れてしまう。
「これで、アンタを道連れにできるね」
「どうして自分の命まで、粗末にする」
ギシギシと音を立て、2体のサブスタンサーに喰い込んで行く、紫色の髪。
「クローンの命なんて、そんなモノさ。所詮は、オリジナルの代替品に過ぎないんだよ」
ゼーレシオンとペルセ・フォネーは、虚空の宇宙で抱擁(ほうよう)を続けていた。
前へ | 目次 | 次へ |