ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・74話

もう1人のボクッ娘

「大丈夫か、プリズナー?」
 ゼーレシオンと1体化していたボクは、宇宙を漂流するバル・クォーダに語りかける。

「ああ、無事だぜ。アンタを迎えに来たハズが、逆に迎えに来られるとはよ」
 皮肉を言う、いつものプリズナーの声が、ゼーレシオンの触角からボクの脳裏に伝わった。

「ずいぶんと、酷くやられたようだな。動けるか?」
 プリズナーの乗るバル・クォーダには、戦いによるであろう破損(ダメージ)が見られる。
トラロックの格納庫で追加された、テスカトリポカの装備も失われてしまっていた。

「心配ねェよ。宇宙を漂流するハメになっちまったから、エネルギーを温存していただけだ。それより、あの優男は一緒じゃなかったのか?」

「詳しい話は省くが、ボクとメルクリウスさんは今、コキュートスと言う宇宙ドッグを拠点にしている」
「コキュートス(嘆きの河)……ギリシャ神話の地獄を流れる河か。物騒なドッグだな」

「冥界降りの英雄が、名付けた名前だよ」
「ああ、冥界降りだと? まさかあの、バルザック・アイン大佐のコトか?」

「そうだ。死んだと思われていたらしいが、生きていたんだ」
「そうかよ。冥界ってのは、いつからそんなに簡単に、戻って来れる場所になったんだ……」
「なにか、言ったか?」

「イヤ。それより、宇宙斗艦長。こっちも、いいモノ見せてやるよ」
「いいモノ……って、今は急がないと、コキュートスとのランデブーに間に合わなくなるんだが」
 ボクは、宇宙ドッグとの待ち合わせ(ランデブー)を懸念する。

「手間は、取らせねェよ。バル・クォーダの、コックピット内の映像だ」
 長い触角が受け取った映像が、ボクの脳裏に投影された。

「うわッ! な、なんだ、コレ!?」
 ボクの受け取った映像には、ボクにそっくりな顔が映っている。

「ギャハハ、やっぱそうなるよなあ!!」
 予定通りの反応をしたボクに、大笑いのプリズナー。

「い、一体、どうなってるんだ。なんでボクが、そこに居る?」
「どうやら、時の魔女の仕業らしいぜ」
「時の魔女……この世界の不思議な事象は、全て時の魔女が片付けてくれるな」

「オレはアンタを迎えにこの辺りにやって来て、いきなり戦闘するハメになったんだ」
「戦闘……時の魔女の兵か?」
「恐らくな」

 ゼーレシオンとバル・クォーダは、会話を交わしながらもコキュートスに向け、移動し始めた。

「待ち伏せに、近かったからよ。オレのテスカトリポカ・バル・クォーダを含め、黒・白・赤・青の4機のテスカトリポカが、この太陽系の最果てで戦い合ったんだ」

「まるで、アステカ神話のようだな」
「オレも、同じ感想だぜ」
 プリズナーも、アステカ神話を知っているのだろう。

「コイツは4体のウチ、白のテスカトリポカのパイロットだったのさ」
「白い、テスカトリポカ……どんな機体だったんだ?」

「アンタのケツァルコアトル・ゼーレシオンを、真っ白にした感じの機体だったぜ」
「ボクの、ゼーレシオンを……」

「コイツの機体は、戦いの最中にいきなり消えちまってよ。宇宙に放り出されたのを、フン捕まえてやったんだがな」

「人を虫みたいに、言わないでよ!」
 バル・クォーダのコックピットの中のボクが、怒っている。

「しかもコイツにはまだ、とって置きの秘密があるんだ。ホレ!」
 プリズナーがおもいきり、もう1人のボクの平たい胸を揉(も)んだ。

「キャアァッ! いきなりなにすんだい!」
 まるで女のコのような悲鳴が、ゼーレシオンの触角を通して脳裏に伝わる。

「聞いたか、宇宙斗艦長。コイツ、女なんだぜ」
 悪戯小僧のように笑い転げる、プリズナー。

「もう1人のボクが……女のコ!?」
 もう1人のボクは、ボクッ娘だった。

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