降り注ぐ艦砲射撃
アクロポリス宇宙港の空に浮かんだ、『クーヴァルヴァリア』の純白の船体の上に、時空を裂いて現れたエキゾチックな装いの巨大宇宙空母。
「どう言うこった。あの女は確か、マーズの野郎が囲っていた女じゃねェか」
「カルデシア財団、後継者の娘の1人ですか。あの者の艦には、あのような能力が?」
バックスとケレースが、メリクリウスに詰め寄る。
「『ナキア・ザクトゥ』に、時空を切り裂いてワースできる能力なんて、ありませんよ」
金髪の好青年は、肩を竦めて反論した。
「『時の魔女』が、彼女の艦に何らかの細工をしたと見て、間違いないでしょうね」
メリクリウスさんは、会場のモニター全てに映るカーネーション色の女性を見る。
『わたしを貶め、マーズ様をも見殺しにしたアポロ、メリクリウス、それにセミラミスお姉さま。まずはアナタたちが護ろうとしている火星の民衆に、償ってもらいましょうか』
ナキア・ザクトゥ・センナケリブが、宣言した。
「艦砲射撃です。気を付けて!」
アイボリーに、蒼や翡翠色の装飾が施された艦が、アクロポリス宇宙港に向けて攻撃を開始する。
レーザーやミサイルが、いとも簡単に観衆を吹き飛ばし、爆風と共に砕けた身体が舞い上がった。
「気を付けろっつったって、1発でも喰らえば一巻の終わりだぜ!」
「会場がパニック状態です。逃げ惑う人が、倒れた人を踏みつけて……このままでは!」
文句をまき散らすバックスさんに、誰かと連絡を取るケーレスさん。
艦砲射撃は容赦なく続き、無抵抗の人々が次々に爆散して砕ける。
ボクたちの居るステージに向っても、艦砲射撃が降り注いだ。
「クッ……こんなところで!?」
「なんてこったッ!?」
「プリズナー!」
真っ白な光に包まれる、ステージ。
ボクは、死を覚悟する。
『ドゴオオオォォォーーーーーーッ!!!』
レーザーが直撃したステージに、巨大な爆発が巻き起こった。
『パパ、無事ですか?』
『攻撃は、なんとか防げました』
可愛らしい声が、ボクに問いかける。
「その声、マテアやステアたちか!?」
目の前には光のリングが何個も展開し、爆発からボクたちを守ってくれていた。
『はい、そうです!』
『今、到着するところです』
会場へと降り立つ、マスカット色をした12体のグレンデル・サブスタンサー。
「助かりましたよ、宇宙斗艦長」
10メートルクラスの小型の機体が操る光のリングが、会場に降り注ぐ艦砲射撃を完全に防いでいた。
「ボクも、サブスタンサーで出ます。なんとか、攻撃を止めさせないと」
メリクリウスさんが、ステージから駆け降りて行く。
「オレたちも、避難した方が良さそうだぜ、ケーレスの婆さんよ」
「申し訳ございません、宇宙斗艦長。お礼は、後ほど……」
ディー・コンセンテスに名を連ねる2人も、ステージを離れた。
『パパァ。パパたちのロボット……』
『持ってきたよォ』
『とーちゃーく!』
チョコレート色をした12機のグレンデル・サブスタンサーが、ゼーレシオンとバル・クォーダの、20メートルクラスのキュクロプス・サブスタンサーを、フォトンウィップに絡めて運んできた。
「チョコアやココアたちか。アリガトな」
『ウン、またいっしょにお風呂入ろ』
『その前に、アイツやっつけないとだね』
「ああ、そうだな」
ボクは、ゼーレシオンへと乗り込んだ。
視界が巨人と同化し、会場の様子が細部に至るまで目に入る。
「だけどもう、何千人と死んでしまっているな……」
艦砲射撃の爆発によって、生涯を閉じた人たちが無残な姿で散らばる。
20メートルの巨人となったボクは、やり切れない気持ちのまま立ち上がった。
「今は、これ以上被害が増えないコトを考えろ。死んじまったヤツが、生きかえるワケじゃねェんだ!」
バル・クォーダに乗ったプリズナーの声が、ボクに忠告する。
「了解だ、プリズナー。ゼーレシオンで、ナキアさんを止めて見せる!」
白に黄金を縁取ったサブスタンサーは、火星の宇宙へと舞い上がった。
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