敵の真意
ゼーレシオンの背中に、突如として現れた巨大なサブスタンサー、ツィツィ・ミーメ。
宇宙の法則を平気で覆(くつがえ)し、ボクを襲った。
「ガッ……コ、コイツ!?」
背中にダメージを受け、深淵の宇宙にグルグルと飛ばされるゼーレシオン。
「だ、大丈夫ですか、宇宙斗艦長!?」
「メ、メルクリウスさん、油断しないで。ツィツィ・ミーメの、目的は……」
回転を立て直し、ボクは飛ばされて来た方向を確認した。
「プリズナー、背中を合わせて下さい。ツィツィ・ミーメの目的は、援軍に来た5機のアーキテクター・ドローンを味方に引き入れるコトです!」
メルクリウスさんのテオ・フラストーが、バル・クォーダと背中を合わせる。
「そりゃ、コイツに言ってくれ」
バル・クォーダを駆るプリズナーが、同じコックピットに座る美宇宙に責任を押し付けた。
「わかってるよ。コントロールが奪われたら、お終いだからね。なるべく近くに、来て!」
もう1人のボクッ娘が、コミュニケーションリングを通じてバル・クォーダと繋がり、さらに電波で援軍の5機にコンタクトを取る。
5機の無人機(ドローン)は、背中を合わせたバル・クォーダとテオ・フラストーの周囲に密集し、Q・vic(キュー・ビック)の大群を撃破し始めた。
「今ンとこ、アイツはワープして来ないな」
「ですが、油断はできません。今までの傾向から、ツィツィ・ミーメが1瞬でワープ可能なコトは、判明しているのですから」
姿を現わさない敵ボスを、警戒しつつもザコ狩りを続けるプリズナーと、メルクリウスさん。
それに美宇宙の操る5機のアーキテクター・ドローンも加わって、大量のQ・vicは破壊された。
「おかしいですね。ツィツィ・ミーメは、一向に姿を現わす気配がありません」
「ああ。バカデカいサイコロも、半分以上は倒しちまってるぜ」
バル・クォーダと、テオ・フラストーは、疑問を抱きつつも敵の殲滅(せんめつ)を続ける。
「尖兵(せんぺい)を使い捨てるのは解りますが、一体何の目的があって……」
「アレ? ボクのオリジナル、居なくない?」
美宇宙が、素朴な疑問を言った。
「オイ、優男! 艦長の姿が、何処にも見当たらないぞ!」
バル・クォーダの髑髏(どくろ)の頭部が、背中のサブスタンサーを見る。
「ええ、してやられました。敵の狙いは、宇宙斗艦長だったのです!」
テオ・フラストーのコックピット内部で、冷や汗を流すメルクリウスさん。
その頃、ボクの乗るゼーレシオンは、ツィツィ・ミーメに背中から抱き付かれ、まったく違った宇宙へと連れてかれていた。
「ど、何処なんだ、ココは!?」
ゼーレシオンが誇る高感度アンテナでも、近くにバル・クォーダやテオ・フラストーらの存在を、全く感知できない。
「1瞬で飛ばされたみたいだが、3次元に広がる広大過ぎる宇宙で、自分が何処を漂っているのかなんて解るモノなのか?」
ツィツィ・ミーメは、すでにゼーレシオンから離れていたが、ある程度の距離を取ってまだ近くに存在していた。
「アレは……かなり大きな天体だな?」
ゼーレシオンの高感度カメラが、漆黒の宇宙に浮かぶ純白の天体を捉える。
「真っ白で、綺麗な星だ。完全な円をしているし、準惑星クラスか?」
ボクが自問したのに答える様に、脳裏に準惑星エリスの名が浮かんだ。
「エ、エリスだって!?」
思わず、叫んでしまうボク。
ゼーレシオンは、エリスの公転軌道上から、エリス直近の宇宙空間まで飛ばされていた。
更にゼーレシオンが、なにかをボクの脳裏に表示する。
それが何なのか、見るコトは出来なかった。
「エリスの遥か遠方の空間を、指し示している。あの場所が、どうしたって……?」
そう言いかけたボクは、自分の目的を思い出す。
「ア、アレってまさか……ネメシス!?」
それはサッカーボール大の、木星クラスの質量を持った小型ブラックホールだった。
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