会議の正体
南国風にデザインされた、解放感溢れる会議室。
水着姿のゲストが、アカシアの椅子に居並ぶ。
「ア、アポロ……その恰好は一体!?」
顔を真っ赤にし、口を押えながら許嫁に問いかける、クーリア。
「キミだって、同じ水着姿じゃないか。良く似合っている」
シャインレッドのブーメランパンツだけを身に付けた男は、威風堂々した振舞いで答えた。
美しい筋肉にて構成されたに肉体を、恋人に見せつけるかの様に。
「おかしな趣向の会議になってしまったとは思うが、来賓(ゲスト)に水着を着させて主賓のわたしが正装で現れるワケにも、行かないのでな」
「も、申し訳ございません。悪戯好きな義姉が、とんでもない不始末を……」
「キミが謝るコトでは無い。会議の場を、この艦・セミラミスに設定したわたしの責任だ」
「妹は、嫌がりましたからね。仕方がありませんでしょう?」
「ナキア義姉さまが、ですか……」
セミラミスの言葉に、表情を曇らせるクーリア。
「クーリアには、セミラミスさんの他にも義姉が居るのか?」
「ええ、事前に話して置くべきでしたね。ナキア・ザクトゥと言って、同じく巨大なリゾート艦を所有しておいでなのです」
「セミラミスと、ナキア・ザクトゥ……そう言えば、クロノ・カイロスに並ぶ大きさの宇宙豪華客船として、セノンが言ってた気がするな」
「あのコ(ナキア)の艦とは、同じリゾート艦でも随分と趣味が異なりますわ」
「ナキア姉さまの艦は、地球の中近東風のモザイクを多用したデザインですからね」
「ですが表向きリゾート艦を名乗っていても、その実かなりの数のアーキテクターやサブスタンサーを配備されてますからね。空母としての戦闘能力では、戦艦も顔負けでしょう」
メリクリウスが、含みのある風に言った。
「ナキアは、キミのコトをあまり良くは思っていないらしい。だが、カルデシア財団の正当なる後継者は、純血なる血によってのみ引き継がれる」
そう告げると、太陽神の名を持つ男は4人の従者を引き連れ、長テーブルの一番奥の席に座る。
純血なる血とは、クーリアのコトだろう。
そしてクーリアの許嫁であり、実質的なカルデシア財団のトップが、このアポロなんだ。
「宇宙斗艦長は、こちらへ……」
アポロのエスコートの1人が、アポロと長いテーブルを挟んだ対極の席の椅子を引いた。
仕方なくボクは、そこに腰を降ろす。
一見すれば、水着姿のゲストたちが集う緊張感の無い会議室に、様々な人間の思惑が入り乱れていた。
「では、会議を始めるとしよう」
アポロが、目の前のテーブルの左右に座った一同の顔を見渡すが、反対の意を示す者など当然居ない。
「宇宙斗艦長。貴方も、異存はあるまいな?」
気品のある物腰しの中に、威圧を潜ませる太陽神。
「異存と言うより、まず会議の目的が何なのか解らないのですが?」
「ここに来て、会議の目的が解らない……だと?」
「そうです。ボクは、フォボスのプラント事故に巻き込まれたハルモニア女学園の生徒たちを、送り届ける為に火星圏を訪れたまでです。一体、何を議論する会議なのでしょうか?」
「無論、貴方の言動が真実かどうかを、精査する為の会議だよ」
アポロは、神が人間を見るが如き瞳でボクを観た。
「ボクが……嘘を言っているとでも?」
「その通りだ。少なくとも、嘘を言っていないと言う証拠は何処にも無いだろう」
「本気で言っているのですか。ボクは、クーリアたちを故郷に返したいだけだ。嘘を付く理由なんて、何処にも無いじゃありませんか」
「嘘を付く理由など、幾らでもある」
「ならばアポロ、理由を答えなさい。宇宙斗艦長が一体、どんな嘘を付いていると言うのですか?」
クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダが、許嫁を問い詰める。
「無論、返還されるハルモニア女学園の生徒たちが、本物では無い……と言う嘘だ」
太陽神の答えに、ボクは少しだけ会議の正体が見えた気がした。
「貴方はまだ、その様な事を言っているのですか!」
苛立ちを隠し切れない、クーリア。
「当然だよ、クーリア。特にキミは、カルデシア財団を継ぐ血を持って生まれた女性だ。もしキミが本物で無かったとすれば、どうなるか?」
「偽物がカルデシア財団の後継者として、莫大な権力を手中に納めちまうだろうな」
プリズナーが、悪態を付きながら言った。
「偽物である彼女が、宇宙斗艦長の操り人形であった場合。いえ、『時の魔女』の手先であったとすれば、火星はおろか太陽系すらも脅かすかも知れませんねえ」
メリクリウスも、自らの見解を示す。
「クーリア、キミは本物なのか?」
その時、巨大なリゾート艦のトロピカルな街に、光が差し込む。
大きな窓の外に目をやると、火星の影から太陽が顔を出していた。
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