鮮やかな水着たち
「ハァン、や、やめ……」
「クーリア。アンタの武器も、一段と威力を増したわねぇ」
セミランスの細い指が、マシュマロみたいな胸をムニュムニュする。
「み、皆の前で、いつまで揉んでる気ですかッ!?」
クーヴァルヴァリアは、強引に手を振りほどくと、振り向きざまに義姉の頭を平手で叩いた。
「イッタ~イ、なにすんのよ、クーリア?」
「なにすんのよじゃ、ありません。それはこちらの台詞です!」
ギロリと義姉を睨み、凄い剣幕でまくしたてる。
「いいですか、セミラミス姉さまはカルデシア財団の長女なのですから、もっとしっかりなさって下さい。この様な重要な会議で、どうして出席者全員水着なんですか。自由奔放が過ぎます!」
クーリアの義姉に対するお説教は、長々と続いた。
「ヤレヤレ、カルデシア財団の未来のトップだと言うのに、困った姉妹ですね」
それを横目に、一人の男がボクにグラスを差し出し、話しかけて来た。
見るとグラスには、赤ワインらしき液体が注がれている。
「どうです、あなたも一杯」
「い、いえ、メルクリウスさん。ボクは高校生のまま、冷凍睡眠(コールドスリープ)に入ったせいか、どうも未成年の意識が抜けなくて」
「おや、そうですか。これは残念」
そう言うと男は、ボクに差し出した方のグラスを飲み干す。
毒は入って無いとでも、言わんばかりに。
「あのセミラミスと言う女性は、一見すると我がままで自由奔放そうに見えて、その実裏では知的で計算高く物事を進める女性なのですよ」
「知的な女性だと言うのは、直ぐに気付きました。彼女は、クーリアの義理の姉だと聞きましたが、カルデシア財団の後継順では、やはりクーリアが……」
「ええ、そうですよ。カルデシア財団は、純血(ピュアブラッド)とやらで、後継者を決めて来た歴史があるのです。下らない、時代錯誤な習しですよ」
メリクリウスも、暗にクーリアの後継順位が最優先との見解を示す。
「ボクも、血に寄る継承の全てを肯定はできない。でも祖先たちは、そうやって血を繋いで来ました」
「王族の血が、ホントに子や孫に繋がっていたのかも怪しいモノですケドね。DNA鑑定でもすれば、実は赤の他人だったなんてコトも、けっこう出て来ると思いますよ」
海パン姿の金髪の青年は、アカシアのテーブル席に腰を落ち着けた。
「そいつは同感だねえ。純血なんてのは古来より何度も、戦争や争いの火種になって来た。悪名高き独裁者も、アーリア人の純血とやらを謳ってやがったしな」
メリクリウスの前に座ったプリズナーが、ラタンの椅子に踏ん反り返る。
「アレ、プリズナー、水着が変ってる。アロハシャツも着てるし?」
「流石にブーメランパンツで、会議にゃ出られんだろうが。クーリアを脅して、代わりの水着とシャツを用意させたんだ」
「別に脅されなくとも、用意いたしましたよ」
クーリアの護衛として来ていた、シルヴィアが言った。
アイスブロンドの美しい彼女は、セルリアンブルーのビキニを着ている。
「これ程の重要な会議、本来であれば礼服やドレスで行なうのが通例ですからね」
同じく護衛の、カミラが口添えた。
ピンクブロンドのカーリーヘアの彼女は、ピーコックグリーンのビキニを着ている。
「み、みなさんは何を着てもお似合いですケド、わたしなんて幼児体形だから……」
3人付いて来たうちの最後の1人、フレイアが自信無さそうに呟く。
キャロット色のユルフワヘアの彼女は、桜色のワンピース水着を着ている。
「いやぁ、3人とも良く似合ってるよ。可愛いんじゃないかな」
「ケッ、ガキの水着なんざ、目の保養にもなんねえよ」
意見が割れる、男性陣。
「やはり艦長と呼ばれる人は、器が違いますね」
「野蛮人とは、比べくも無い」
「ま、まあまあ。2人ともそのヘンにしときましょうよ、ね」
「やっぱ、褒められてぇだけじゃねえか」
「プリズナーも、そのくらいにして置いてくれ。それより……」
トロピカルな会議場に居た全員の視線が、入口の開かれたドアに集まった。
「待たせたな、クーリア。それに他の者たち」
ギリシャ彫刻が動き出したかと錯覚させる肉体美の男が、部屋に足を踏み入れる。
「では、会議を始めるとしようか」
男が身に着けていたのは、シャインレッドのブーメランパンツ1枚だった。
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