検査結果
「ほ、本物よ。決まっているでしょう?」
クーリアは、上ずった声でアポロに聞き返す。
その言葉に、不安や恐怖が混じっているコトは、疑い様に無い事実だった。
「どうしてそう言える?」
「それは、わたくし自信だからよ。本人であれば、自分が本物であるコトは明白だわ」
普段は冷静な少女が、自分自身にしか証明がなされない答えを口にする。
「残念ですが、クーヴァルヴァリア。この場合、第三者にそれが証明できなければ、意味がありません」
メリクリウスも、アポロの糾弾に加勢した。
「ではDNA鑑定でも、指紋や虹彩認証でも、好きなモノを実施すればいいでしょう?」
「貴女が、同意いただけるのでしたら、実施させていただきますが」
恭しく頭を下げ、伺いを立てる金髪の好青年。
「もう、とっくに実施しているのでは無くて、アポロ?」
クーリアは、アポロの紺碧の瞳の奥を見た。
「それって、更衣室にカメラが付いていたってコト?」
「今は、カメラなどとあからさまな装置で無くとも、人間の組成を調べる方法など幾らでもあります」
「流石に、1000年も時が過ぎ去っていると、監視技術も進歩しているんだなあ」
「もちろん、更衣室に各種センサーは取りつけられてますよ」
あっさりと監視を認める、メリクリウス。
「そ、そうなんですか!?」
「ええ、宇宙斗艦長。他にも身長や体重、身体の部位の大きさなど、あらゆる数値が解かってますね」
「ちなみにクーリアの胸は、前に測定した時に比ると、右が1.4センチ、左が1.2センチ大きくなってるわ。その分お尻も、2.8センチも大きくなっちゃってるケドね」
「セミラミス義姉さま、後でお話があります」
「ちょっと、クーリア。顔が怖いわ。冗談よ、冗談」
「冗談で済む問題では、ありません」
冥王星の気温くらいに冷たい瞳で、義姉を睨みつける義妹。
確かに義姉が言う様に、クーリアのピンクと紫色のビキニに包まれた身体は、大人へと成長している様に思えた。
「オイ、艦長。なにイヤらしい目で、お嬢様を見てんだ?」
「か、艦長まで!?」
「うわぁ、ち、違う。そんなんじゃないって、クーリア!」
プリズナーの裏切り行為に、ボクは慌てて話題を替える。
「ア、アポロさん。今の話だとクーリア以外にも、ボクやプリズナー。他の女の子たちの身体も、調べたってコトですよね?」
「無論だ。火星に危害を加える可能性のある人間を、放置は出来ないからな」
「や、やだ!」「そんな……」「は、恥ずかしいですゥ!?」
クーリアの護衛として付いてきた、シルヴィア、カミラ、フレイアの3人の少女も、顔を真っ赤に染めていた。
「ごめんなさいね。これも、この艦を預かる者の特権……いえ、義務なのよ。良からぬテロリストや犯罪者が紛れ込むのを防ぎ、お客様の安全を守らなきゃならないの」
少しだけ本音が漏れる、セミラミス。
「みんなの検査結果に問題が無かったから、貴方はこの会議室に現れた……違いますか?」
ボクは、しばらく沈黙するアポロの顔色を伺った。
「流石に、賢(さか)しいな。1000歳も、年上なだけはあると言うコトか」
「では、アポロ。わたくし達が皆、本物であるというコトを……」
「少なくとも、検査結果はそう示している」
アポロは尚も、素直には認めず抵抗を見せる。
「だが、宇宙斗艦長。貴方の艦は、我々の科学技術を上回る。木星圏の2つの軍事企業の艦隊をハッキングし、その旗下に加えてしまっている。もし、我々が到達していない科学技術で、人間の完全なるコピーを創れるとすれば、証明は崩れ去る」
「アポロ、貴方はこの期に及んで、まだ夢物語の様な理屈を言うのですか!」
「まあまあ、クーヴァルヴァリア。アポロは火星圏のみならず、ディー・コンセンテスの代表としてこの会談に当たっている。慎重になるのも、仕方の無いコトだよ」
アポロを弁護する、メリクリウス。
「ですがこれで、ボクはともかくクーリアたちの疑いは、晴れたのでは無いでしょうか?」
「そうよねえ。流石に人間の完全なコピーが創れるまで、技術が進んでいるとも思えないわ」
ボクの言葉を、セミラミスさんが弁護する。
「確かにキミたちが、本物であると言う事実は認めるべきかも知れん」
「アポロ。それでは……」
「だが、時の魔女に洗脳されている疑いは、晴れてはいない」
太陽神は尚も、疑いの目を許嫁に向けた。
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