ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・59話

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膨らんだ腹

「う、宇宙を統べるだって!?」
 普段の気品漂うクーリアであれば、決して口にしない台詞。

「はい。わたくしと共に、この身勝手で下らない世界を、支配いたしましょう」
 アクロポリス宇宙港が爆撃されて巻き起こった上昇気流によって、激しくはためく漆黒のローブ。
神々しい白い身体が、ローブの下から見え隠れする。

「……どうしたんだ、クーリア。キミは、時の魔女になにをされたッ!?」
 いつもより妖艶な顔をした少女に、ボクは驚きを隠せなかった。

『フフフ、これがこの娘の本心よ。どうやらお前のコトを、心底好いているようだ。健気なコトよ』
 クーリアの口から発せられる、機械的な声。

「お前は、時の魔女なのか!?」
「それとも、わたしの憎らしい妹なのかしら?」
 人質を失い窮地に陥ったマーズとナキアが、クーリアに問いかけた。

『無論、その両方であり、どちらでも無いとも言えるな』
「お姉さま、わたくしをそこまで、憎んでいらしたのですね。ウフフ」
 クーリアの中で、2つの人格が交互に現れる。

「でも、ナキアお姉さまが思っているホド、わたくしは自分が欲しいモノを、手に入れられてはいないのです。だって、お姉さまは最愛のマーズさまと結ばれ、お腹にそのお子を授かっているのでしょう?」

「え、ええ、そうよ!」
 頭部を破損し、視界の多くが失われたセンナ・ケリグー。
メインカメラとの同調のみを切断し、コックピットを開けて視界を確保するナキア。

「わたしのお腹の中には、わたしを愛してくださったマーズさまのお子が宿っている。どんなに美しいコが生まれるか、楽しみだわ」
 センナ・ケリグーのコックピットの中で、膨らみ始めたお腹をさすりながら言った。

「わたくしも、お姉様のお子の顔を、早く見たいですわ。一刻も早く……ウフフ」
 クーリアはボクに背中を向け、カーネーション色のサブスタンサーに向って飛ぶ。
漆黒のローブから見え隠れするお尻に、ゼーレシオンは顔を背けた。

「な、なに。なんなのよ、アンタ!?」
 開いたコックピットハッチから、顔を覗かせる妹の姿に驚く、ナキア・ザクトゥ。

「わたくしは、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ……」
 クーリアはその中へと進入し、姉の目の前に顔を近づけた。

「アンタは一体、何者なの!?」
「あれホド憎まれていた妹の名を、お忘れなのですか?」

 クーリアの手が、姉の僅かに膨らみ始めた腹部に触れる。

「ヒッ!?」
 ナキアの甲高い声を、ゼーレシオンの長いセンサーが捕らえた。

「ハアアアァァァ……アアッ……お腹が……お腹がァ!!?」
 急に色っぽい喘ぎ声をあげて、苦しみ始める。

「ど、どうした、ナキア。その女に、なにをされた!?」
 愛する女を気にかける、マーズの赤いサブスタンサーが、背中を見せた。

「グハッ!?」
 背面から狙撃され、マー・ウォルスの片翼が吹き飛ぶ。

「ア、アポロ、テメェ!」
「ここは、戦場だ。戦神と呼ばれたキサマが、忘れたワケではあるまいな?」
 狙撃をしたのは、アポロの黄金のサブスタンサーだった。

「マ、マーズさまぁああ、うぅ、生まれるゥ……生まれてしまいますわァ!?」
 クーリアがコックピットから離れ、ゼーレシオンの巨大な瞳が、ナキアの姿を捉える。

「な、なんだ。なにが起こったんだッ!?」
 ボクの脳裏に伝わった映像は、風船のように膨らんだ腹を押さえて藻掻(もが)く、ナキア・ザクトゥの姿だった。

「どう言うコトです。彼女はまだ出産にはホド遠く、腹も大して膨らんではいなかったハズ!?」
 水色のサブスタンサーに乗ったメリクリウスさんが、冷静さを欠いている。

「お、恐らく、クーリアに取り憑いた『時の魔女』の仕業です」
 ボクの目は、漆黒のローブを纏い自由に空を飛ぶクーリアを追っていた。

「マジで『時を操る能力』でも、持ってやがんのか……時の魔女ってのはよ?」
 バル・クォーダにのったプリズナーも、目の前で起きている出来事を信じられないらしい。

「アアア……もうダメェ、生まれちゃうゥゥ!!」
「ナ、ナキア!?」
 片翼となったマー・ウォルスで、センナ・ケリグーを支えるマーズ。

「待ってろ。一旦、お前の艦に撤退だ」
 妊婦を抱えるように、慎重に撤退を始めるマー・ウォルス。

「フン。逃がすと思うか。アクロポリス宇宙港に集った者たちの中にも、子供や妊婦が混じっていたハズだ。自分たちだけ助かるなどと、思い上がりも甚(はなは)だしい」
 アー・ポリュオンの黄金のフォトン・ライフルが、後退する2体のサブスタンサーを補足する。

「ダメですわ、アポロ」
 黄金のサブスタンサーの前に現れたのは、クーリアだった。

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