ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・10話

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ハートの髪飾り

「もう1度、移動が必要になるんなら、ゼーレシオンを出す必要は無かったな」
 ボクは白い巨人と一体となると、再びスペースランチの狭いペイロードベイに身を屈める。

「きゃああッ!?」
 すると、コクピット内部の椅子の後ろから、少女が転げ落ちて来た。

「あうゥ~、痛いのですゥ!」
「セ、セノン、なんでここに!?」
 頭をぶつけた栗毛の少女は、パンツ丸見えになっている。

「お、おじいちゃんだけじゃ、なんか心配で……つい」
「ついじゃ、無いだろ。これから何処に連れて行かれるかも、解らないんだ」
 可愛い下着を慌ててスカートで隠したセノンに対し、普段より厳しい口調で言った。

「も、もう、お別れしたままなんて、イヤなのです。シャトルから、燃えてるアクロポリスの街を見たとき、おじいちゃんが死んじゃってないか、心配で心配で……」
 大きなタレ目から、大粒の涙を零すセノン。

「艦長、どうかされましたか?」
「悪いんだが、少し時間をくれ。ワケは後で話すから」
 ボクはアンティオペーにそう返すと、セノンを引っ張り上げた。

「あのサブスタンサーに乗ってるのは、恐らくセミラミスさんだ。セミラミスさんは、悪戯好きではあるが、温厚な人だ。普通に考えれば、危険は少ない任務だろう」
「それじゃあ、連れて行って……」

「でも、時の魔女が絡んでいるなら話は別だ。いつ、危険が襲ってくるか解らない」
 窮屈そうにうずくまるゼーレシオンの上に立つ、ボクとセノン。

「実際に、クーリアは魔女によって洗脳をされ、彼女の義姉であるナキアさんは、命まで落としたんだ」
「それは、解ってます……でも!」
「セミラミスさんは、クーリアとナキアさんの義姉だ。悪いが、連れていけない」

「そう……ですか。わかりました」
 クワトロテールの1本を握って、俯くセノン。

「すまない、セノン。キミには、生きていて欲しいから」
 ボクは彼女の手に、自分の手を重ねる。

「ペンテシレイアさん。セノンを、頼みます」
『了解致しました、艦長。どうか、お気をつけて』
 艦橋にいるであろう、ペンテシレイアさんの声が、ハンガーに響いた。

 スペースランチに乗り込んだボクは、イーリ・ワーズを後にし、新たなる標準旗艦へと移動する。

「アレが、キミが艦長となる艦か、アンティオペー」
「流石に同型艦だけあって、代り映えがしませんね」
 ランチを操縦する、クリムゾンレッドのソバージュヘアの少女が答えた。

「宇宙斗艦長、あの艦に命名する権利を、いただけないでしょうか?」
「へ、命名って……まあキミの姉さんの話じゃ、指揮もし易くなるらしいし、構わないよ」

「では、『テル・セー・ウス』と、名づけます」
「テーセウスと、ペルセウスを足した感じだな?」
「そんな感じです」

 そのままだった。

「こんなコですが、宜しくお願いしますね、宇宙斗艦長」
 レンガ色のストレートヘアをした少女に、頼まれる。

「キミは、オリティアと言ったね」
「はい。戦術面や、艦隊運用はお任せ下さい」
 どうやら彼女は、優秀な参謀らしい。

「わたしは、メラニッペーです。服のコーディネイトは、わたしにお任せくださいませ」
 ニコやかに微笑む、ライム色の天然パーマの少女。

「あ、ああ。頼むよ」
 そんなスキルが役立つことがあるのかと思いつつ、一応は頷いた。

 ランチは同じ形の後部ハッチから、同じ配置の格納庫に入る。

「なんだか、同じ艦に戻って来たと錯覚するな」
「AIやサブスタンサーが製作した艦は、寸分たがわず同じ配置だったりしますからね」
 ランチを降りると、ボクはもう1度ゼーレシオンをハンガーに立たせる。

 胸部ハッチを開け、辺りを見回した。
当たり前だが、栗色のクワトロテールの、コケティッシュな少女の姿はない。

「セノン……ゴメンな」
 彼女が握っていたクワトロテールには、時澤 黒乃の形見である髪飾りが付けられていた。
ボクはそれを知っていて、彼女を置いてきたのだ。

「艦長、どうかされましたか?」
「イヤ、なんでも無い。今行くよ」
 ボクは、3人の少女たちと艦橋に向かう。

「では、アンティオペー艦長。出航の準備を」
「わたしが、艦長……はい、了解です」

「オリティア、この新造艦隊に振り分ける艦艇の選択を頼む」
「お任せください。1分で終わらせます」

 優秀なクルーによって運用され始めた、テル・セー・ウス。
数千の艦艇を引き連れて、シャラー・アダドの先導する深淵の宇宙に向け出港した。

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