龍天降下(ドラゴンバースト)
『グハハ、我の配下を討たせはせんぞ。我が、息子たちよ』
2人の王子たちの前に飛来し、鋭利な牙の並んだ口で豪快に笑う、大魔王ダグ・ア・ウォン。
「コウモリの嬢ちゃんは、やられちまったか……」
「兄上。父上の左上の腕を」
ギスコーネの指摘した、大魔王の4本ある腕の1つには、漆黒の髪の少女の頭が握られていた。
『この小娘も、我と我が軍隊を前に良く戦った。ガハハ』
ルーシェリアを、地面へと放り投げる大魔王。
その背後に、城の残骸で構成されたゴーレムが飛来し、上空ではウォータードラゴンやクラウドドラゴンの群れが、黒雲の中を悠然と飛び回っている。
「ク……うう」
天空都市の地面に転がった少女は、全身が紅い血に染まっていた。
『かつては、冥府の魔王にして暗黒の魔王と言われた、ルーシェリア・アルバ・サタナーティアが、赤い血を流すとは皮肉なモノよ……』
大魔王は爪の生えた巨大な脚で、漆黒の髪の小さな頭を踏み潰そうとする。
「ギャッ……カハッ!!?」
天空都市の地面が陥没し、ダグ・ア・ウォンの周囲に土煙が巻き上がった。
「オヤジ……なんてコトを!」
「いえ、見て下さい。兄上!」
再びギスコーネが、兄のバルガ王子に催促する。
「ヤラセ ハ シナイ……」
そこには、ルーシェリアを抱えた舞人が立っていた。
『なるホド、大した身のこなしよ、小僧。我が、直々に相手をしてくれようぞ』
「待て、アンタの相手はオレたちだぜ」
「父上、刃を向けるコトをお許し下さい」
それを阻むかのように、実の父親へと斬りかかる2人の王子たち。
けれどもその進路を、城の形をしたゴーレムが塞いだ。
「ジャマしやがって。城のゴーレムたァ、ふざけた趣味をしてやがる!」
「ですが兄上、相手は強敵です」
2人は、巨城兵を仰ぎ観る。
ルック・ゴーレム(巨城兵)は、両肩から腕にかけてがタレットと呼ばれる塔になっていて、背中にも2基の小堡(バービカン)が貼り出していた。
胸壁からは6門の大砲が顔を出しており、王子たちに向かって火を噴く。
「グォ、撃ってきやがたぞ!?」
「これでは迂闊に、近づけません」
王子たちは、動く巨城を前に苦戦を強いられ、舞人たちに近づけなかった。
「ス、スマンな……ご主人サマよ。妾としたコトが……情けない限りじゃ」
舞人の腕の中で呟く、漆黒の髪の少女。
「グルルゥ……」
ルーシェリアを抱く力を強め、喉を鳴らし警戒する舞人。
その紅き瞳は、蒼き龍の姿を捉える。
『これで未熟な邪魔者は、いなくなった。まずはキサマのその力、見極めてやるとしよう。龍天降下(ドラゴンバースト)ッ!!』
4本の腕を組んだまま言い放つ、ダグ・ア・ウォン。
「ご主人サマ……上……じゃ……」
ルーシェリアが言い終わる前に、天空から水の龍と雲の龍が舞い降りて来て、舞人たちを襲った。
「ガアアアアアアーーーーーッ!!」
紅の剣が、襲い来るウォータードラゴンの1匹を、縦にスライスする。
けれども水の龍は、瞬時に元の形状を回復した。
『キサマの剣は、魔族を少女に変えると聞くが、ウォータードラゴンの正体は海水よ。斬れは、すまいて。クラウドドラゴンとて、然(しか)り!』
水の龍と雲の龍は、舞人がいくら斬っても直ぐに元の姿を回復し、再び攻撃を仕掛けて来る。
「ムダじゃ、ご主人サマ……よ。なにか、方法を考えねば……」
闇雲に龍を斬る舞人の胸に抱かれながら、漆黒の髪の少女は打開策を考える。
けれども、朦朧とする意識の中では、良い考えは浮かばなかった。
『所詮は、獣か。この程度の智謀と力とは……失望したぞ』
自ら生み出した魔物たちを従えて、舞人に近づくダグ・ア・ウォン。
「グルル……」
すると舞人は、白い靄(モヤ)の中へと消えた。
「オイ、ギスコーネ。ずいぶんと、霧が出て来やがったじゃねェか」
「ええ、兄上。どうやら彼は、水の龍や、雲の龍を、無作為に斬っていたワケでは無いようです」
ギスコーネが言った通り、天空都市を覆うように白い霧が立ち込める。
『ヌ、これは……!?』
大魔王が自身の身体を見ると、無数の亡霊たちが纏わり付いていた。
前へ | 目次 | 次へ |