ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・67話

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僅かなふれあい

 天空都市から溢れ出す、白い霧(ミスト)。

 その正体はと言えば、大魔王ダグ・ア・ウォンの生み出した、水の龍(ウォータードラゴン)や、雲の龍(クラウドドラゴン)の身体の一部であり、舞人によって切り裂かれた欠片でもあった。

『ククク、面白いコトを考えるモノよ。我が配下の龍を切り裂いて霧を生み出し、亡霊どもを紛れ込ませるとはな』
 なおも余裕の、大魔王。

『なれど亡霊如きに、大魔王は縛れぬ。無駄であったな!』
 ダグ・ア・ウォンが、丸太のような4本の腕で、自身に纏わり付いた白いモヤを振り解く。
同時に自身を中心とした突風が巻き起こり、霧を四散させた。

「ギャアアアア!」
 日の光を浴び、消滅する亡霊たち。

『我が主たちの、悲鳴が……』
 天を仰ぎ見る、黄金の戦士ラ・ラーン。

「や、止めて……民たちが、消えてしまう……」
『クシィ―様。アレはもう、この世界に留まって居てはならぬ、魂なのです』
 空へと消える亡霊に、駆け寄ろうとする少女を抱きとめる、黄金の戦士。

「パレ……アナ」
 因幡 舞人は、クシィ―ことパレアナの目の前に居た。

『こ、この者、いつの間に……』
『中々に、面白い小僧じゃ』
 トゥーラ・ンとマ・ニアも、舞人の行動に驚く。

「ムゥ、霧は亡霊どもの目くらましであると共に、我との対峙を回避する為でもあったか!』
 舞人の意を知り、悔しさを滲ませる大魔王。

「舞……人……」
 栗色の髪の少女が、可憐な手を伸ばす。

「パレアナ!」
 獣だった舞人の顔が、僅かに元の表情を取り戻した。

「舞人ォ!」
「パレアナァ!」
 少しずつ、自我を取り戻した2人の指先が、僅かに触れ合う。

 幼馴染みの孤児として、小さな街の教会に育った2人が、やっとの想いで出会った瞬間……。

『軽々しく、我が主に触れるな、小僧』
 2人の間を、黄金の戦士が遮った。
ラ・ラーンは光の球を右腕に発生させ、舞人の腹にブチ込む。

「ガハッ……アアア!!?」
 光弾を受け、天空都市の外へと吹き飛ばされる舞人。

「舞人ォーーー!」
 少年の耳から遠ざかる、幼馴染みの少女の声。

「チッ、あの黄金の鎧ヤロウ、とんでも無ェ能力を持ってやがるぜ!」
「ですが兄上。撤退の、好機かと……」
「お、おう。そうだったな、ギスコーネ」

 2人の王子は、1番近い街の縁から、大海原へと飛び込んだ。
王子たちと対峙していた3体の魔王が、後を追おうとしたが、サタナトスによって止められる。

「まあ、見逃してやろう。そんなコトを言える立場じゃ、無いのかもだケドね」
 戦いに後れを取ったサタナトスが、下唇を噛みながら言った。

「パレ……ア……」
 大きく空へと放り出され、意識を失う舞人。
落下する少年の髪が、元の蒼へと戻って行く。

「まったく……しょうがないご主人サマじゃの」
 コウモリの翼を持った少女が、大洋へと落下する少年を抱きとめた。

「妾を空へと放りだして置いて、自分は他の女にうつつを抜かすとは、困ったものじゃ……」
 蒼に戻った少年の髪を、優しく撫でるルーシェリア。

「その相手がパレアナであれば、多少は許せるがの」
 眼下に広がる大海原に、2人の王子の姿を見つけるルーシェリア。

「なんとか、無事に逃げられたの」
「ああ、そうだな。だが、これで終わったワケじゃ無ェ」
 海面に立ったバルガ王子が見上げる空には、天空都市が揺ら揺らと漂っている。

「オヤジやアクトたちを元の姿に戻し、サタナトスのヤロウをぶっ潰す。ギスコーネ、テメーにも協力して貰うぜ」
「ボクは、兄上や父上を裏切った身……よろしいので?」

「今回の一件は、お前が原因でもある。きっちり、自分の尻拭いくらいしろ」
「……はい、兄上!」
 兄に言われ、覚悟を決めるギスコーネ。

「オ~イ、みんなァ。良かったァ、ダーリンも無事だったんだ」
 波間に、スプラ・トゥリーが顔を出す。

「シドンたちは、無事か?」
「うん、とっくにカル・タギアに送り届けたよ」

「濡れるのは好かんが、カル・タギアに戻る必要がありそうじゃな」
「だったら、ダーリンは預かるからね。おっ先ィ!」
 ルーシェリアから舞人を奪い取ると、海中に潜って行くスプラ。

「なッ、待つのじゃ、ドロボウイカめェ!」
 漆黒の髪の少女も、空から大海原へと飛び込んだ。

「緊張感の無い、人たちですね」
「ああ、だが暗く落ち込んでるよりはマシだ。ティルスたちに、顔向けできないからな」

「そう……ですね」
 ギスコーネは、兄のお付きの少女の形見となってしまった剣を見つめる。

「行きましょう、兄上。ボクには、カル・タギアでやらねけれな行けないコトが、たくさんある」
「覚悟は、決まったみてェだな。よし、行くか」

「ええ、兄上」
 2人の王子は、まるで鮠(はや)のように宙を舞うと、波間から姿を消した。

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