荒れ狂う闘技場
「魔王が3体がかりで戦って、雑兵如(ごと)きに討ち取られようとは……まさに7海将軍(シーホース)の、名折れよ!!」
蒼玉の魔王メディチ・ラーネウス、黄玉の魔王ペル・シア、橙玉の魔王ソーマ・リオが、ウティカやルスピナらが呼び出した精霊の加護を受けた、イオ・シルら12人の少女に破れ去ったコトに、憤(いきどお)る大魔王。
「あの娘たち、よくやったのじゃ。これでサタナトスの手にかかった、女将軍も浮かばれよう」
大魔王ダグ・ア・ウォンと対峙する、ルーシェリアが言った。
「ボクたちも、負けてられないよ」
「そうじゃな、ご主人サマ。妾たちも、大魔王を討つとするかの」
自らに身体強化を施した舞人も、ルーシェリアと共に大魔王に挑みかかる。
「7つの海を象徴する槍よ。我が元に、来い!」
大魔王ダグ・ア・ウォンは、敗れ去った3体の魔王が武器としていた、槍を呼び寄せた。
「なんじゃ……敗れた部下の槍など、どうする気じゃ?」
「ア、アイツ、槍を自分の剣に吸収してるッ!?」
舞人の前で3槍の槍が、3又の剣の刃先それぞれに吸収される。
「我がトラシュ・クリューザーは、我が部下が槍の能力を得た。さあ、味わうがイイ!!」
三叉の剣を振りかざす、大魔王。
圧倒的に巨大な渦潮が、クレ・ア島の丘の上に建つ、闘技場のフィールドに出現した。
「ルーシェリア……フィールド全体が海になって、渦を巻いてるよ!?」
「海龍亭の、生け簀(す)の比では無いわ。まったく、とんでもない能力よ」
唖然とするしか無い、2人。
「蒼玉の魔王メディチ・ラーネウスが恨み、まずはその身に受けて貰おう」
トラシュ・クリューザーの3本の刃の1つが、青く輝いた。
渦を巻く海から、海水で出来たウツボが無数に現れ、舞人たちを襲う。
「ガハッ! コ、コイツ、ボクの強化された身体まで、食い破って来る!」
「ご主人サマよ、捕まるのじゃ!」
ウツボたちによって、海に引きずり込まれそうな舞人を、引き上げるルーシェリア。
「た、助かったよ、ルーシェリア」
「下を見てみィ。上空に逃げたところで、1時凌(しの)ぎに過ぎん!」
「こ、これって……水カサが、ドンドン増してきている!」
大魔王の生み出した巨大な生け簀は、かなりのスピードで水カサを増し、ついには闘技場の観客席にまで流れ込み始めていた。
最下層の客席に居た観客たちは、ウツボによって身体を喰いちぎられている。
「うわァ、お前ら上に逃げろ!」
「ウツボに、喰い殺されちまう!」
「早くするんだッ!」
ティンギス、レプティス、タプソスの3人の船長が、12人の少女たちに客席の上段に逃げるように促(うなが)した。
「船長さんたちは、なんとか無事だね」
「じゃが、パルシィ・パエトリア王妃の辺りにまで、水が迫っておるぞ!」
「な、なんだって!?」
慌てて闘技場の、宣誓台の方を見る舞人。
凶暴なウツボが生息する生け簀の水が、王妃の足元まで迫っていた。
「まずは、王妃に生贄となっていただこう」
大魔王ダグ・ア・ウォンが、青く輝くトラシュ・クリューザーを掲げる。
海面から無数のウツボの群れが、パルシィ・パエトリア王妃に向け一斉に飛び掛かった。
「マ、マズい!」
「ダメじゃ、ご主人サマよ。ここからでは、間に合わん」
どうするコトも出来ない、2人。
ウツボの群れが、岸壁に打ち寄せる波のように、王妃を飲み込んだ。
「クソッ、よくも王妃サマを!」
「待つのじゃ、ご主人サマよ。王妃は、無事じゃ」
王妃の仇を討とうとする舞人を止める、漆黒の髪の少女。
「……え?」
再び、宣誓台を見る舞人。
そこには、パルシィ・パエトリア王妃が優雅に立っていた。
「なんで、王妃サマは無事なんだ?」
「フッ。どうやらパルシィ・パエトリア王妃も、高位の魔法を操れる様じゃ」
ニッと笑う、ルーシェリア。
「王妃サマは……魔法使いなのか?」
「魔法を使えると言う意味では、そうじゃろうな。じゃが、もっと上の存在やもしれぬ」
ルーシェリアの言葉の意図を、舞人は解らなかった。
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