対峙
「海底都市が、オレたちが戦ってる間に天空に舞い上がってるとはな」
バルガ王子は、海皇パーティーの残存メンバーを引き連れ、宮殿の門から伸びる中央通りを進んだ。
「これだけ巨大な街全体が、狭い海溝を通って浮上したってのかよ」
漁師兄弟の弟である、ベリュトスが疑問を浮かべる。
彼は幼い頃より、兄のビュブロスと共に海に潜って銛で魚を刺し、長じては漁船に乗って網で大量の魚を捕まえ、生きて来た。
けれども今の彼の隣には、頼れる兄の姿は無い。
「海溝と言ってもリヴァイアス海溝は、カル・タギアがスッポリ収まるくらいの幅があるからな。全長に至っては、ヤホーネスの全土を超える長さがあるとされる」
海洋生物学者のシドンが、情報を提供した。
「しっかし、これホドの巨大な街を丸ごと天空に上げちまうなんてな。アト・ラティアのヤツらは、一体どんな魔法を使ったんだ?」
「魔法ではありません、王子。古い文献の記録に見られる、『ロスト・テクノロジー』と呼ばれる、未知の力が使われているのだと思われます」
まだ水が滴り落ちる街並みには、太陽の光を浴びた古代人の遺体が散らばっている。
けれども彼らが、答えを口にするコトは無かった。
「だがよ、シドン。どうして街は、浮上した。1万年も、海溝の底で眠り続けていたってのによ」
「お主の父が、大魔王となって暴れたからでは無いのか?」
シドンに替わり、ルーシェリアがしゃしゃり出てきて答える。
「ちょっと、ルーシェリア。失礼だろ!」
「でもダーリン。確かにそれくらいしか、原因が考えられないんじゃない?」
「そりゃあ……そうだケド」
「残念ながら、不正解かな」
すると上空から、反論する意見が聞こえる。
「だ、誰だ…ッ!?」
バルガ王子が空を見上げると、金色の髪をした少年の姿があった。
「また遭ったね、バルガ王子。海底都市は、愉しんでもらえたかな?」
口元を緩め、6枚の翼でゆっくりと降下してくる少年。
「……テ、テメェは、サタナトス!?」
「この者が、サタナトス……海皇様を、大魔王へと換えた張本人ですか!」
「カル・タギアをボロボロにしたのも、コイツの仕業ってワケかよ!」
王子の左右に、シドンとベリュトスが並んで、サタナトスを睨み付ける。
「キミたちの様子は、偵察魔からのビジョンで見ていたよ。バルガ王子、キミの仲間も何人かは死んでしまったようだね?」
「ああ。オレを庇って、ティルスが死んだ。オレたちを逃がすために、ビュブロスの野郎まで死んじまったんだ。覚悟しやがれッ!」
バルガ王子が、黄金の剣と氷の剣で斬りかかる。
「相変わらず、感情を押さえられないようですな、王子」
けれども王子の攻撃は、紫色の海龍の黄金の槍によって弾かれた。
「アクト……お前はまだ、そいつに味方すんのかよッ!?」
「王子の指南役だったアナタも、サタナトスの軍門に降ったのでしたね」
「海底神殿での借りは、きっちり返すぜ」
バルガ王子を囲むように、シドンとベリュトスがそれぞれの武器を構える。
「オイオイ、雑魚がなに粋がってんだ、コラァ!?」
「マジ、惨めっしょ!」
「そんなに笑っちゃ、悪いんだな」
今度はサタナトスの前に、蒼玉の魔王メディチ・ラーネウス、黄玉の魔王ペル・シア、橙玉の魔王ソーマ・リオが飛来した。
「お、お前らは、ギスコーネ派の……だがお前らは、オレの黄金剣クリュー・サオルで、黄金の像に変えてやったハズだ!?」
「あの時は、流石に終わったと思ったぜ、バルガ王子」
「一生海の底で動けないって、マジヤバっしょ!」
「でも大魔王サマが、助けてくれたんだな」
「なにィ、オヤジが!?」
「バルガ王子よ。彼奴(きゃつ)らも、強化されておるようじゃの」
「ホントだ。翼まで生やして、7海将軍の風上にも置けないよ!」
ルーシェリアとスプラが、魔王たちの変化に気付く。
「スプラ? お前、生きてたのか?」
「あっ、ベク・ガルじゃないか。キミまで、サタナトスに付いたのかい?」
イカの少女が、サメの歯の少年に問いかけた。
「当然だろ。オレは、大魔王サマに付く。お前も、そうしろ」
「ベーだ。ヤなこった。ボクは、ダーリンにくっつくモン!」
スプラは鎧の触手を、舞人の身体に絡ませる。
「パレアナ……」
「ん、どうしたの、ダーリン?」
「パレアナが……生きてる!?」
蒼い髪の少年の瞳には、栗色の髪の少女が映っていた。
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