ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~第12章・01話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

キティオン

「浅い大陸棚に位置し、美しい珊瑚に覆われたカル・タギアも、酷く荒れてしまった」
 水浸しとなった海底の街の図書館で、若き海洋生物学者が言った。

「だが、このカル・タギアには、まだ先人の知識が残されている。伝説だと思われていた、アト・ラティアが復活し、サタナトスの手に堕ちた今、せめてその謎の一端でも紐解かねば……」
 背の高い本棚を前に、黒いローブを水に濡らし、小脇には本を数冊抱えている。

「シドンよ。お主、よくこんな水び出しの図書館で、文献を漁れるのォ」
 浮遊した漆黒の髪の少女が、海洋生物学者に文句を言った。

 分厚い本棚が並ぶ3階建ての円筒形の建物は、1階を進むには膝まで水に浸かる必要があり、2階へと続く階段には瀧のように水が流れている。

「あ、いたいた、シドン。バルガ王子が大変なんだ!」
 透き通った鎧を着た少女が、苦も無く階段の瀧を登って来た。

「なんじゃ、イカの小娘ではないか。妾たちは今、忙しいのじゃ」
「あ、キミも居たんだ。シドンの邪魔しないでよ。彼は、国王サマも目を掛けておられた、天才学者さんなんだから」

「いや、スプラ。ルーシェリア殿は、役に立ってくれているよ。知識の深さや多様性に置いて、わたしなど彼女には遠く及ばん」

「ええ、シドンがァ!?」
 驚きを顔いっぱいに表現する、スプラ。

「これで解ったかの。妾はお主のように、頭が透き通ってはおらぬでの」
「なんだってェ!!」
「コラコラ、止めないか、2人とも。王子が、呼んでいるのであろう?」

「そ、そうだよ。とにかく、早く来て」
 スプラの慌てように、シドンとルーシェリアも急いで後を追う。

「ど~いうコトだ、王子。姉さんが、死んじまったってのはよォ!」
 2人が向かった先の路地の向こうから、少女の怒鳴り声が聞こえて来た。

「なんじゃぁ、あの真っ赤な鎧の小娘は?」
 水の溜まった三叉路を折れると、カル・タギアの住人たちが輪になって集まっており、その中心には赤い鎧を着た少女が立っている。

「アレェ、バルガ王子は?」
 スプラが問いかけると、住人たちが一斉に同じ方向を指さした。

「どうやら王子は、あの穴の向こうのようじゃの」
 住人たちの指先には、建物があって大きな穴が開いている。

「ところで、あの小娘は誰じゃ?」
「あの子は、キティオン。死んじゃったティルスの、妹だよ……」

「そう……なのかえ」
 ルーシェリアは、少しだけ事態を把握した。
……と同時に、少女がどうして怒っているかも、理解する。

「アイツは……お前の姉は、オレを庇って死んだ……」
 穴の中から、傷付いたバルガ王子が現れた。

「だから、なんでだよ。そんなに強い、相手だったのか!」
 バルガ王子に詰め寄る、キティオン。
けれども王子は、それ以上の反論はしなかった。

「相手は、アト・ラティアの機械の巨人だ。それも、複数体が同時に襲って来たのだ」
「シドン……アンタまで付いていながら、どうにかならなかったのかよ!」
「どうにも、ならなかった。だからわたしは、王子に撤退を指示した」

「姉さんを置いて、オメオメと!」
「そうだ。撤退のとき、ビュブロスが身を挺してくれたから、王子やわたしは生きていられる」
 キティオンに歩み寄る、若き海洋生物学者。

「ビュブロスのヤツまで、死んじまったのかよ!」
「そうだぜ、キティ。兄貴はオレに王子を頼むって言って、逝っちまった」
 通りの向こうから、ベリュトスが現れる。

「言い訳するつもりは、無ェ。ティルスを死に追いやったのは、このオレだ」
「ふ、ふざけんな。どうしてアンタが付いていながら……姉さんは……うわああッ!」
 赤い鎧の少女は群衆を押し退け、泣きながら何処かへ駆けて行った。

「王子、キティの気持ちも、考えてあげて下さい」
「悪ィな、シドン。余裕、無ェわ」
 天を仰ぐ、バルガ王子。

「考える時間が、出来ちまうとな。今でもアイツが出て来て、説教されねぇかと思っちまうぜ」
 ボロボロになったドームは、なんとか海水を支えていて、あちこちに瀧が流れ落ちている。

「では、王子。戴冠式を行ってください」
「な……シドン、お前、なに言って……」

「バ、バルガ王子が、ダグ・ア・ウォン王の跡を、継がれるのですか!」
「こ、これは、素晴らしいコトだ!」
「わたし達にも、希望が湧いてきたわ」

 サタナトスによって破壊された、カル・タギアの街へと戻って来た住人たち。
けれども街は荒廃し、尊敬すべき海皇は、サタナトスの手で大魔王となってしまっていた。

「バルガ王子……ご決断を」
 うやうやしく、片膝を付くシドン。

「オ、オレが……海皇だってのか!?」
 戸惑う、王子。

「バルガ王!」
「新たな王の、誕生だ!」
「さっそく、戴冠の儀式の準備に取り掛かろうじゃないか!」

 周りを囲んでいた群衆が、湧き立つ。
傷付いた海底都市は、新たなる王を要求した。

 前へ   目次   次へ