ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP041

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選手交代

 スコアボードに、5-5の数字が並ぶ。
けれども同点弾を決めた黒浪さんは、ボクと杜都さんで肩を貸して、ベンチまで連れて行く他なかった。

「クロくん、だいじょうぶ!?」
 グランド横の、バスが降りて来たスロープの土手に黒浪さんを降ろすと、千鳥さんが駆けて来る。

「これくらい、ヘーキヘー……アイタタタ!」
「もう、強がっちゃダメだよ。今、手当てするから……ってアレ、どうやるんだっけ?」

「先パイ、わたしがやりましょうか?」
「えっと、アナタの名前は?」
「ち、千葉です」

 沙鳴ちゃんは、勢いでなのか本名を名乗った。

「千葉さん、クロくんをお願い」
「はい、わかりました」
 剣道の面の少女は、医療箱から包帯とテープを取り出し、黒浪さんの痛めた脚をテーピングで巻く。

「ゴメンね、クロくん。わたし、こういうの苦手で……」
「いいですって、千鳥さんはウチのカメラマンなんスから。オレは交代になっちまいましたケド、アイツらがまだ戦ってるんで、良い映像撮ってやってください」

「ウン、任せて。クロくんのさっきのシュートも、ちゃんと撮ったからね」
 身体に似合わないゴテゴテした大きなカメラを持って、三脚の場所へ戻って行く千鳥さん。

「やっぱ千鳥さん、可愛いよ……グギャア!!」
「ハイハイ、テーピングがズレちゃうから騒がない」
 容赦のない、沙鳴ちゃん。

「汰依(たい)、蘇禰(そね)、那胡(なこ)、黒浪と紅華、日良居(ひらい)と交代よ」
 セルディオス監督が、言った。

 日良居さんは、前半出られなかったボクに替わって中盤に入っていたから、体力的に限界が近そう。
でも、紅華さんまで交代だなんて……。

「クッソ、どうしてオレまで交代なんだよ!」
 案の定、紅華さんが怒りをぶちまけながら、引き上げて来た。

「どうしてって、口の中ケガしてるね。今日は練習試合だから、交代枠多いってのもあるよ」
「こんなモン、なんとも無ェよ。それより、交代は中止しろ。オレはまだ……」

「選手にそんな権限、無いね。選手交代決めるの、監督の仕事よ」
 冷たく言い放つ、セルディオス監督。

「ふざけんな、オレは出るぜ!」
「落ち着け、紅華。監督の言う通り、今日は練習試合だ。言ってしまえば、今日の試合は本番に向けての調整に過ぎない」

「だからって、手を抜けって言うんスか、倉崎さん!」
「そうだ。理想で言えば、全ての試合に全力で望むべきだろう。だが現実問題として、選手の体力には限界もあるし、オレや黒浪みたいなケガもする」

「倉崎の言う通りね。プロのサッカー選手にとって、身体は大事な商売道具よ。アマチュアみたいに、ムリする必要のないところでムリするの、プロじゃないね」
「だけど、まだ同点じゃ無ェか。この試合、まだオレはなにも……」

「そうでも無いだろ、紅華。得点こそ無かったが、相手の左サイドを切り崩せたのは、相手の弱点を見抜く、お前の陰険な性格のお陰じゃないか」
 汰依さんが、言った。

「相手の弱みに突け込めたから、ホームチーム相手に有利に戦えているしな。しかも相手は10人だ。このまま押し切るぜ」
 蘇禰さんも、クールに微笑む。

「後はオレらに任せて、お前は彼女たちとイチャついてろ。その方が、お前らしいからよ」
 那胡さんの視線が、ベンチ脇で応援する7人の女子高生に向けられた。

「お前らなあ。人をけなしたいのか、もち上げたいのかはっきりしろ!」
 紅華さんは、ピンク色の髪を掻き上げながらため息を吐く。
その顔は、いつものチャラついた紅華さんに戻っていた。

「3人とも、ボランチに入るよ。杜都と一馬、1列上げるね」
 セルディオス監督が、フォ―メーションの指示を出す。

「一馬……後は任せるわ」
 紅華さんが、ボクに言った。

「……ウン」
 ボクは小さく頷くと、グランドに戻った。

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