パレアナの正体
リヴァイアス海溝の底に、1万年ものあいだ人知れず眠っていた、アト・ラティアの古代都市。
舞人たちが、護衛兵(ガーディアン)と死闘を繰り広げている間に、空の上へと浮上していた。
「こんなに一瞬で、海底都市が天空都市へと様変わりしてしまうとは、驚きだよ。お陰でボクのせっかくの虚城が、水没してしまったじゃないか」
その一部始終を、黒と白の6枚の翼で飛びながら見ていた、サタナトス。
彼の眼下では、波打ち際に建っていた虚城が、海底都市が浮上した影響で発生した津波によって、海面の下に消えようとしていた。
『サタナトスよ、もう1度聞く。お前はこの時代の、王となると言うのだな?』
黄金の翼で天空を舞う、黄金に輝く鎧の戦士が問いかける。
その腕には、パレアナが抱えられていた。
「そのつもりさ、ラ・ラーン。キミたちが、ボクの覇道に協力するのか、はたまた敵となって立ちはだかるか……楽観論を捨てるなら、恐らくは後者だろうね?」
「わたしも、もう1度言いましょう。サタナトス、アナタは選ばれた王なのです」
「違うと言っているだろう、クシィ―。ボクは人間と魔族の混血であり、人間に復讐を誓う男さ」
金髪の少年は、腰に佩いだ剣を抜く。
「この『プート・サタナトス』が、ボクに力を与えてくれた」
妖しく輝く、アメジスト色の刀身。
サタナトスの背後の空には、5体の魔王の姿があった。
「まさか、7海将軍(シーホース)であった我々が、空を飛べてしまうとは……」
海龍であるハズのアクト・ランディーグが、背中に紫色のドラゴンの翼を生やし力強く宙を舞う。
「ギギ……マジでオレ、飛んでる!?」
自分が空を飛んでいる違和感に、サメの歯をギシギシさせる魔王ベク・ガル。
「大魔王サマは、元々飛べてたケドよ。オレらまで飛べるなんて、驚きだぜ」
「サタナトスさまが、ウチらを強化してくれたお陰っしょ!」
「空、気持ちイイ。感謝するだァ」
メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの3人の魔王も、それぞれが象徴する色の翼を得て、空を飛んでいた。
「プート・サタナティスは今、本来の力を失っている。それでも魔族を強化できる力は残ったままさ」
アメジスト色の剣の、もう1つの能力。
それはかつてイティ・ゴーダ砂漠で、巨大サソリやワームたちを強化した能力だった。
『サタナトスさまは、我らが主。その主に敵対すると言うのであれば、再び矛を交える他あるまい』
身体を再生させた大魔王ダグ・ア・ウォンが、黄金の戦士に鋭い眼光を向ける。
その周囲には、翼を獲得した5体の魔王たちが集っていた。
『勘違いをするな、蒼き龍(ドラゴン)。キサマとの決着を付けてやっても良いが、我らはサタナトスと敵対する気は無い』
一触即発の空気が、黄金の戦士の言でいく分緩和される。
「ほう、それは有難いコトだね。とうぜん、条件付きかな?」
『そうだな。我らが使命は、クシィ―さまの身体に流れるアト・ラティア王家の血を、復活させるコト。この時代の王と結ばれるのも、悪くない選択肢だ』
「なにを言っているんだい。彼女の意識はともかく、身体はただの地方都市の教会の娘だよ。キミらの仕えるべきクシィ―王女は、すでに故人であるのは知っているだろう?」
『いえ、そうではありません。クシィ―さまの依り代となった娘には、アト・ラティアの王家の血が、確かに流れているのです』
女性的なフォルムの銀色の鎧に身を包んだ、トゥーラ・ンが反論する。
「なんだって、それじゃあ彼女は!?」
『クシィ―さまのペンダントは、運命では無く必然として、この少女の元へと運ばれたのだ』
ラ・ラーンは、腕に抱える栗色お下げの少女に、無機質な黄金の兜を向けた。
「なるホドね。でもボクの虚城は、海に消え無くなってしまった。どこか、他の場所に移動しよう」
『では、あの浮遊する街を、キサマの居城とするが良かろう。キヒヒ……』
少しハスキーな少女の声で、マ・ニアが笑う。
彼女も蝙蝠の6枚の翼を展開し、空を舞っていた。
「マ・ニア、キミが勝手に決めてしまって良いのかい?」
『構わんさ。なあ、ラ・ラーンよ?』
黒鉄色のボディを持った少女は、黄金の戦士に視線を送る。
『キサマに、王としての資質があるのであれば、アト・ラティアの街は自ずとキサマを受け入れよう』
黄金の鎧を纏った戦士ラ・ラーンは、主であるパレアナを抱え、海溝から浮上した街へと向かった。
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