親子の死闘
「オヤジ、待っていてくれ。必ずサタナトスの野郎をぶっ飛ばして、アンタを元の姿に……!?」
黄金の巨大な像へと変化して行く大魔王に、異変を感じるバルガ王子。
「な、なにか様子がおかしいです、王子。黄金と化した大魔王の手足が、消えていってます!」
「ああ、ティルス。これは、どう言うこった!?」
黄金像として完全に封印したと思っていた2人は、目の前で起きている大魔王ダグ・ア・ウォンの変化に理解が及ばない。
「ガラ・ティアさんが魔王にされた時と、同じだ。巨大な魔王になった後に、人間サイズの魔王に変化したんだ!」
蒼き髪の勇者が、過去の経験を王子たちに伝える。
「それは本当か、ご主人サマよ」
「うん、それに小さくなった時の方が、遥かに強かったよ」
「そう言えば、ボクもそうだったよ。ギスコーネ派のメディチやペル・シアたちに襲われて、サタナトスの剣で魔王にされちゃった後、大きなイカみたいになっちゃったんだ。それから身体が小さくなって、その後ダーリンと遭ったんだ」
舞人やスプラが言った通り大魔王は、黄金と化した巨大な身体を脱皮するかの様に脱ぎ捨て、人間サイズの大きさへと変化して行った。
「巨大な身体のときでさえ、あれだけ強かったと言うのに……」
「小さくなって、強さが増すだとォ!?」
「冗談も、たいがいにせェよ!」
海皇パーティーの漁師兄弟と、見習い料理人も驚きを隠せない。
「どうやら、小型化は完了した様ですね」
「お気を付けください、恐ろしいまでの魔力を感じます」
傍仕えの少女と海洋生物学者も、最大限の警戒を促(うなが)した。
「ああ、わかってるぜ。血の繋がったオヤジだ。今、どんな状態にあるのかをな」
ファン・二・バルガ王子は、オレンジ色の髪を左腕で掻き上げながら、右手に黄金の長剣を身構える。
その瞳は、異形の姿にされた父を映していた。
大魔王ダグ・ア・ウォンは、蒼いウロコに覆われた身体に、4本の腕を持った特徴はそのままに、威厳のある黒いマントを纏い、手足のオレンジ色のヒレも小さくなっている。
そして何より目を引いたのは、その右腕に深紅に輝く三叉の槍を手にしていたコトだった。
「その槍はまさか……海皇の宝剣『トラシュ・クリューザー』が、変化したモノなのか!?」
バルガ王子が、父親に向かって叫ぶ。
『久しいな……我が息子よ』
蒼き体の大魔王は、悠然とした姿で言葉を発した。
「しゃ、喋れるのか、オヤジ!?」
『驚くコトも、無かろう。我が意識は、巨大な身体の時でさえ常にお前を見ておったわ』
「お袋が……死んだよ。サタナトスの手先となった7海将軍の手で、殺されちまった」
『そうか。だがあの女は、お前にその剣を託したのであろう?』
海王ダグ・ア・ウォンは、表情も変えずに息子の手に握られた黄金の長剣を見る。
「お袋の、形見みてェなモンだ」
『だがお前の真の母親は、あの女では無いのだぞ』
「わかっている。わかっているさ……」
親と子のぎこちない会話に、しばらく沈黙の時が流れる。
白いドームに集った舞人やルーシェリア、海皇パーティーのメンバーは、固唾を飲んで見守った。
「オヤジは、サタナトスの手先になっちまったのか!」
『そうだな。あの方に対する忠誠の如き感情が、我が心の内から湧き上がるのを感じる』
「このオレとも……戦わなくちゃ、なんねェのかよ!?」
『お前がサタナトス様の軍門に降る気が無いのであれば、戦わざるを得ない』
「お袋を死に追いやり、オヤジをこんな姿に変えあ挙句、カル・タギアをも破壊したヤツの軍門になんか降れるワケがねェ!」
黄金の長剣・クリュー・サオルを身構える、王子。
『我は、7つの大海と海洋の大魔王ダグ・ア・ウォン。敵対する者は例えお前であっても、討ち滅ぼすまでよ!!!』
ダグ・ア・ウォンも、深紅の三叉の槍を天へと掲げる。
すると巨大な渦巻きが無数に現れ、皆を襲った。
激しい海流の渦が、舞人やバルガ王子たちを次々と飲み込む。
『呆気ないモノだな。我が敵では、無いわ』
マントを翻し、立ち去ろうとする大魔王ダグ・ア・ウォン。
「待てよ、オヤジ。闘いは、始まったばかりじゃねェか!!」
バルガ王子は、サーフボードに乗って巨大な渦巻きの表面を滑っていた。
前へ | 目次 | 次へ |