激闘(フィアス・ファイティング)
「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい……目の前が真っ暗だ!?」
まだ微かに残る意識で、舞人が思った。
けれどもそれは、最後の意識となる。
目は真っ赤に燃え、全身は黒い毛と皮膚に覆われ、背中からは6枚の漆黒の翼が生え始めた。
「イ、イカンのじゃ、ご主人サマのヤツ、完全に自我を……のわッ!?」
宙を飛ぶルーシェリアに向け放たれた雷撃が、彼女の翼に直撃する。
『小娘風情が、この大魔王ダグ・ア・ウォンを相手によそ見などと、笑わせてくれるわ』
大魔王は、4つの腕それぞれに雷球を生成し4方へと放つ。
雷球は、辺りにあった雲を纏い、巨大な龍の姿へと変貌を遂げた。
「水の龍(ウォータードラゴン)に、城のゴーレム(キャッスルゴーレム)の次は、雲の龍(クラウドドラゴン)じゃと。海底都市の王だった男が、節操がないのォ」
襲い来る4体のクラウドドラゴンに対し、イ・アンナによる重力攻撃で、対処を試みるルーシェリア。
けれどもクラウドドラゴンは、重力攻撃で四散したかと思うと、再び別の場所に実体化して見せる。
『巨大な嵐とは、巨大な大洋が生み出すモノよ。故にこの3又の槍は、天候をも支配できるのだ』
ダグ・ア・ウォンの持つトラシュ・クリューザーが、大海原の上に巨大な積乱雲を生み出し続けた。
「これはまた……厄介じゃのォ」
当初は4体だったクラウドドラゴンは、今や無数に増えて黒雲の中を駆け巡っている。
『言ったであろう、我は大海原の大魔王にして、地震と軍隊の大魔王ぞ』
その言葉通り、ルーシェリアの目の前にはクラウドドラゴン、ウォータードラゴン、キャッスルゴーレムが立ちはだかっていた。
「クッソ。オヤジのヤツ、とんでも無ェ能力を身に付けやがったな!」
3体の魔王を向こうに回す激戦の中で、バルガ王子が言った。
「どうします、兄上。今のところ、優勢なのはあの少年くらいですが、あの力は……」
「ああ、もはや暴走状態だ。完全に、自我を失ってやがるぜ!」
弟のギスコーネすら危惧する舞人の暴走に、手をこまねくコトしか出来ないバルガ王子。
けれども暴走した舞人によって、サタナトスは確実に危機を迎えていた。
「まさか、これホドまでとは。魔王や邪神どもから奪った力を、完全に侮っていた……」
「ガアアアァァァーーーーーーオ!!!」
激しい咆哮を上げ、舞人の漆黒の爪がサタナトスを捕らえる。
「グハッ!?」
胸に4筋の傷が付き、血飛沫を上げて吹き飛ばされるサタナトス。
「お、おのれ……人間風情が。このボクに、傷を付けるな……にィ!?」
「お、お前を倒せば……パレアナがァァァーーー!!」
舞人の脚の爪が、金髪の少年を蹴り飛ばした。
『ククク、余裕ぶっていたクセに、随分と苦戦をしておるではないか。小僧よ』
黄金の戦士、ラ・ラーンが、サタナトスを皮肉る。
けれども、返答は返って来なかった。
『フッ、やはり彼奴(きゃつ)は、覇王の器では無かった様だな』
瓦礫に埋もれたサタナトスに背を向け、クシィ―の元に歩み寄る黄金の戦士。
『どうじゃろうな、ラ・ラーンよ。王とは、個の武勇のみ優れていれば良いと言うワケでは、無かろうて。匹夫の勇など、部下が持っていれば事足りるのじゃよ』
ハスキーな少女の声が、ラ・ラーンを引き留める。
『なにを言っておる、マ・ニアよ。彼奴の命運は、あの少年によって絶たれ……ム?』
振り返ったラ・ラーンの金色の兜の先に、倒れたサタナトスの前に立つ紫色の龍の姿があった。
「そこを……どけ。そいつを殺して……ボクは……」
魔力を全開にした為か、僅かに自我を取り戻す舞人。
「残念ながら、そうは行きませんな。このお方は、我が王が傅(かしず)く主。討たせるワケには、参りませぬ」
紫色の海龍は、深紅に輝く槍を構えた。
「それならまず……お前が死ね!」
暗黒のオーラを纏った舞人が、紫色の海龍に襲い掛かる。
「フッ、いくら強大な魔力を振りかざそうと、このアクト・ランディーグは抜けはせぬ!」
深紅の槍が、舞人の心臓に狙いを定めた。
「ガハッ……グウウァ!」
舞人は咄嗟に両腕で、深紅の槍を握り受け止める。
けれども神速の槍は腕をスリ抜け、舞人を吹き飛ばす。
「ほう。我が一撃の急所を外すとは、中々に面白い」
アクト・ランディーグは、再び槍を身構えた。
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