アイドルのライブステージ
最新のアプリ・ユークリッターは、日本をボクの生徒たちの話題で持ち切りにする。
『プレジデントカルテット』、『ウェヌス・アキダリア』、『プレー・ア・デスティニー』、そして『サラマン・ドール』。
今まさに華々しいデビューを飾るであろう、4組のアイドルユニットは全て、天空教室の生徒だった。
「どうだい、キミの生徒たちの晴れ舞台だ。しっかりと目に、焼き付けて置いてくれたまえよ」
久慈樹社長が、隣の席で何か言っているが、大歓声が邪魔して聞こえない。
ボクは今、ユークリッドのプロデュースする4組のアイドルたちが初ライブを行う、記念すべきライブ会場に居た。
「こ、こんな大ステージで、アイツら……本当に、大丈夫なのか?」
久慈樹社長の方を見るが、やはり聞こえてはいないようだ。
巨大なすり鉢状のライブステージの、中間地点のVIP席に座るボク。
2階ほど下に位置するステージは、まだ幕に覆われていて、スタッフたちが準備を進めている。
上を見ると、上端の観客席は地上3階くらいの高さにあって、全ての観客席がビッシリと埋まっていた。
「観客の方々も、ハデな衣装を着てますね。これが、ケミカルライトか。アイドルのステージで、みんな振ってるヤツですね」
周りのボルテージに引きずられ、思わず質問してしまうが、やはり答えは返って来ない。
すると、ステージに貼ってある立方体の白い幕に、内側から照明が当てられ、英字新聞のようなアルファベットの文字列が、幾つも流れた。
「『Is everyone ready to begin?』……みんな、準備はいい?」
「『Let's liven things up!』……盛り上がって、行きましょう!」
「『I hope you'll have fun in our live events』……ライブを、愉しんで行ってね!」
教師の性(さが)なのか、表示されている英文を、訳し始めるボク。
すると、表示されていた英字がすべて消え、『PRESIDENTS QUARTETTE』の文字が、大きく踊る。
「プレジデントカルテット……ライア、メリー、テミル、エリアの4人か」
ステージを覆っていた立方体の幕が、パアっと弾けた。
幕は無数の紙となって、周囲の観客席に散らばる。
「ス、スゲエ、これメリーたんのスナップだ!?」
「オ、オレは、テミルっちのだぜ!」
舞い散る紙を拾った観客たちから、歓声が上がった。
けれどもステージには、観客の予想を裏切る光景が展開される。
4つに区切られたステージの上で、アンティークな60年代のアメリカオフィスを思わせるデスクに座る、4人の女性。
アコースティックな音楽が流れ、まるで4人はオルゴールの上の人形のようだ。
ライアは弁護士風のデスク、メリーは教師のデスク、テミルは不動産屋の雑然としたデスク、エリアは教会の一室を思わせる簡素なデスクと、それぞれの目指す職業に合ったデスクに座って、それぞれの個性に合ったタイプライターを打っていた。
「これはまた、凝った演出だな」
腕を組み、感心するボクの周囲で、観客たちも同様にザワ付いている。
カタカタと響く、タイプライターの打鍵音がクローズアップされ、次第に音量を増して行った。
耳障りにも感じる音が頂点に達したとき、ステージが真っ白に光り輝く。
「アコースティックな曲が、ロック調に替わった!」
地下に基礎を打ち込んだであろう、頑丈なライブ会場が揺れ始めた。
「ライアちゃーーーーんッ!!」
「うおぉぉーーーエリアぁぁぁぁ!」
「メリーたぁああーーん!」
「テミルっち、最高ォォーーーーー!」
会場のあちこちで成人した男たちが、ボクの生徒たちの名前を絶叫する。
フォーマルなビジネススーツをアレンジした衣装で、歌い踊る4人の生徒たち。
「これが、アイドルステージか……」
ボクは、始めて体験するアイドルの生ライブに、呆気に取られていた。
前へ | 目次 | 次へ |