ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・11話

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地球のラグランジュポイント

 シャラー・アダドは、ボクたちが艦隊を組んで接近するのを確認すると、火星から遠ざかる軌道を推進し始める。

「セミラミスさん……かとは思うが、どこに向っているか解るかな?」
 テル・セー・ウスの艦橋でボクは、中学生くらいの体躯の3人の少女たちに聞いた。

「このままですと、太陽系を上方向に抜ける軌道になります」
「それって、地球の北極方向ってコト?」
「はい。詰まるところ、オールトの雲まで目ぼしい天体はなにもありません」

 オリティアが、ボクの質問の意図を組んで答えてくれる。

「簡単に、軌道を割り出させない腹積もりか。火星の反応はどう?」
「今のところ、追っ手を出して来る様子はありませんね。時の魔女の侵攻で、焼け出された人々は着るモノも無く、食べ物すら行きわたっていない区画もあるそうですから」

 メラニッペ―が言った。
どうやら彼女の才能は、ボクに似合った服を見繕うコトだけでは無いらしい。

「倉廩実つれば礼節を知り、衣食足れば栄辱を知る……か」

「暴動が発生していたりも、するんですって。暴動なんて、この何百年間無かったコトよ」
「キミらだって、イーピゲネイアさんに加担し暴動をしたじゃないか?」
 ボクはアンティオペーに、反論してみた。

「ア、アレは、人間たちのアーキテクターに対する扱いが、酷かったから……それに今は、火星の話をしているんです」
 少しふてくされる、テル・セー・ウスの艦長。

「暴動ってのは、現政権であるマーズ政権に不満を抱いているってコト?」
「それもありますが、アーキテクターと人間との確執もあるようです。襲ってきたQ・vic(キュー・ビック)は、アーキテクターだったコトが確認されておりますから」

「そうなのか、オリティア。実際に、あんな謎の立方体の大群に襲われたら、アーキテクターに不信感を抱くのも、解る気がするよ」

「もしくは、意図的にそう誘導した可能性もあります」
「なるホドね。Q・vicは……」
 ため息を吐く、ボク。

「火星の人々の心に、アーキテクターに対する恐怖を植え付ける、手段だったってコトか」
 時の魔女は、人々とアーキテクターの間にあった信頼を、大いに揺るがせた。

「宇宙斗艦長。シャラー・アダドが、軌道を変えました」
「引き続き、追尾を頼む」
 テル・セー・ウスと約200隻の艦隊は、シャラー・アダドの背中を追って、深淵の宇宙を航行する。

「オリティア、凡(おおよ)その進路は割り出せるか?」
「少なくとも、太陽系の内側に向かっているコトは確かです」
「火星の内側って、地球じゃないのか?」

「そうとも限らないんですよ」
 全ては自動コントロールの艦の艦長が、艦長の椅子に後ろ向きに座りながら言った。

「地球のラグランジュポイントに、いくつものコロニー群が形成されてる……ってトコかな?」

「アレ、知ってたんですか、艦長?」
「1000年前の古びたロボットアニメの設定でも、一般常識だからね」

 キョトンとする、アンティオペー。

「シャラー・アダドが向かっているのは、どうやら地球とほぼ一致する軌道……つまり、地球のL1かL2のラグランジュポイントのようです」

 地球のL1、及びL2のラグランジュポイントは、地球と太陽を結ぶ直線状にあり、L1は僅かに内側、L2は僅かに外側に位置していた。

「そうか、残念だな」
「なにが残念なんですか、艦長?」
「ボクの時代のロボットアニメじゃ、そこにコロニー群は無かった」

 モニターに映し出されたシャラー・アダドは、蒼く輝く宝石のような惑星を飛び越えて、地球の外側へと向かう。

「どうやら目的地は、地球のL2のラグランジュポイントみたいだね」
「はい、艦長。シャラー・アダドが、我が艦に着艦許可を求めてます」

「この艦の艦長は、キミだろ。ボクは賓客を、出迎えに行って来るよ」
 ボクが、格納庫へと辿り着く頃には、シャラー・アダドは既に、テル・セー・ウスのハンガーに収まろうしていた。

「セミラミスさん……久しぶりだな」
 実の妹であるナキアさんが亡くなって、クーリアが火星を襲った首謀者になってしまったコトを考えると、どう声を掛けていいか思案に悩んだ。

「ナキアさんの駆ったセンナ・ケリグーとは、同系統の機体って聞いたケド、こうして見るとシャラー・アダドの方が、プロポーションが良いな」
 ボクがどうでもイイ感想を述べていると、シャラー・アダドの豊満な胸にあるコクピットハッチが展開する。

「え!?」
 ボクは、思わず叫んだ。

 降りて来たパイロットが、ヘルメットを脱ぎ去ると、漆黒のクワトロ・テールが無重力のハンガーに舞った。

「セミラミスさんじゃない……キミは……時澤 黒乃!?」
 振り向いたパイロットの顔は、確かに時澤 黒乃の顔だった。

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