ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第20話

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貸し切りのテニススクール

「生徒の1人に、電話をかけてみたんだがな。どうやら今日は、屋外でプロモーションビデオの撮影があるとかで、ユニットごとに別々の場所に出かけてるみたいなんだ」
 スマホから耳を離し、ソファでココアを飲んでいる友人に向かって言った。

「ゲゲッ、マジかよ!?」
「残念ながらな。だが、おおよその撮影場所は判ってはいる」

「近いのか?」
「プレジデントカルテットが、10時から裁判所で撮影があって、プレー・ア・デスティニーは、この近くのテニスコートで、2時から撮影だそうだ」

「もう1組みは……えっと。なんだっけ?」
「ウェヌス・アキダリアだな。アイツらは、夜からバーで撮影らしい。高校生の年齢にも関わらず、夜の歓楽街を撮影場所に選ぶなんて、まったくどうかしてるよ」

「ああ、あのバインバインの、巨乳双子姉妹か。日本は昔から、そ~ゆうのには寛容だからな。アイドルに限らず、漫画やアニメ、ゲームなんかも……」

「堅苦しいヤツと思うかも知れんが、自分の生徒ともなるとな。流石に無関心では居られんのだ」
「教師ってのは、親心に近い感情でも沸くのか。とは言え撮影時間がずれているのは、助かるぜ。今日中にクライアント全員に、会うコトが出来るかも知れん」

「オイオイ、かなりのハードスケジュールになるぞ。お前1人なら、構わんが……」
「と~ぜん、付き合ってくれんだろ。お前の生徒だし」
「ヤレヤレ、せっかくの休日が台無しだ」

 ボクの嫌そうな顔を見て、ニカッとほほ笑む友人。
腹は立ったが、仕方なく出かける準備をする。

「今からだと、まずは10時からのプレジデントカルテットからだな?」
「アホか。撮影中に突っ込む気なのか、お前は」
「あ……」

「まずは撮影前の、プレー・ア・デスティニーからだ。2時からの撮影とは言え……」
「そろそろスタンバっていても、おかしくないってか」
「うむ。撮影は、この先のテニスコートだから、周る順番も合理的だな」

 ボクと友人は20分ほど歩いて、街中のテニスコートにやって来た。
緑のフェンスに囲まれた敷地の中に、緑の芝コートと茶色のクレイコートがいくつか並んでいる。
緑の庭木の向こうには、ピンクのパステルカラーをした建物も見えた。

「とは言え、アポなしだからな。取材許可が、降りるかどうか」
「イヤ、お前がトイレ行ってる間に、電話は入れて置いたぞ」
「流石は優等生、しっかりしてるな!」

「お前はもう少しは、しっかりしろよ、劣等生。ボクが居なかったら、どうする気だったんだ」
「まあ、社員証もあるしよ。取材って言えば、OKされるかもって」
「行き当たりばったりだな、相変わらずお前は」

 けれども面接に明け暮れていた今年の夏頃までは、友人のフットワークの軽さにずいぶんと助けられたモノだった。
絶対に本人に言う気は無かったが、ささやかな恩返しもかねていた。

「先ほど、お電話した者です。取材の申し込みを……」
「伺っております。こちらにご署名いただき、こちらを首にかけてご入場下さい」
 ボクと友人は、『来客用』と書かれたカードを首からぶら下げ、建物の奥へと進んだ。

「けっこう広いな。しかも、やけに静まり返ってるし」
「今日は1日、貸し切りだろうからな。それに、撮影までまだ時間もある」
「んじゃ、手分けして探そうぜ。オレは、こっち見てくる」

「オイオイ。受付に戻るか、建物の見取り図でも見れば、簡単に……」
 ボクが忠告するより先に、友人は駆けて行ってしまった。

「今の会社に、ボクのような面倒見の良い同僚でも、居ると良いんだが……」
 ボクは少しだけ戻って、食堂にあった見取り図を確認する。

「すでに来ているとすれば、女子更衣室か。だが流石に、赴くワケにも行かんだろ。トイレの位置は、この先……取材前に済ませて置くか」
 ボクは、食堂脇の狭い通路を進んだ。

「ちょっと、みなさん。撮影前なんですから、そんなにはしゃがないで下さい!」
 聞き覚えの無い女性の声と、僅かだが、水の跳ねる音も聞こえる。

「へ~き、へ~き」
「だって今日、貸し切りなんでしょ?」
「ここ前に来たころあるケド、誰も居ないなんてヘンな感じィ」

「お、お前ら、そんな恰好で、トイレに行く気か!?」
 今度は、聞き覚えのある無邪気な少女たちの声と、落ち着いた少女の声が聞えてきた。

「撮影スタッフが来るの、午後からなんでしょ?」
「今はこの建物、女だけなんだから大丈夫です」
「早くしないと、漏っちゃう!」

 いきなり現れた、下着やアンダースコート姿の7人の少女たちが、ボクの傍らを駆け抜けて行く。
しばらくすると背後から、大きな悲鳴が建物中に鳴り響いた。

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