復活の魔女
戦神マー・ウォルスの灼熱の腕によって、焼かれたハズのクーヴァルヴァリア。
けれども彼女はいつの間にか、漆黒のローブの女によって救い出されていた。
「オイ、ナキア。どう言うこった。マー・ウォルスの腕には、煤(すす)すら残って無ェぞ!?」
マーズが、撃墜されたナキア・ザクトゥに詰問する。
「マ、マーズさま。その女こそが、マーズさまを甦らせた張本人なのです」
頭部を失ったセンナ・ケリグーが、赤いサブスタンサーの背中に回り込み、隠れながら言った。
「……だが、どういうコトだ。あの女は、味方じゃ無かったのか!?」
「わかりません、マーズさま。どうしてあの女が、わたしの妹を……クーリアを助けたのか!?」
人質を失った2体のサブスタンサーは、恋人同士のように機体を寄せ合う。
「こ、この女……まさか!?」
髑髏のフェイスをしたサブスタンサーから聞こえる、プリズナーの声が僅かに震えていた。
「ああ。恐らくは……『時の魔女』だ」
ゼーレシオンやバル・クォーダが身構える前で、漆黒のローブを頭までスッポリと被った女が、カルデシア財団のご令嬢を抱え宙に浮かんでいる。
「最も、アレが本体である確証は、何処にもありませんがね。それに『女』かどうか……人間なのかすらも、定かではありません」
メリクリウスさんらしい見解が、水色のサブスタンサーから聞えた。
『ククク……お前らしい穿った見解だな、メリクリウスよ。確かにわたしは、時の魔女であり、時の魔女では無い存在……』
漆黒のローブを纏った女が、機械的な声を発する。
「コ、コイツ、喋れるのかよ!?」
アドレナリンの分泌度合いを高める、プリズナー。
「まるで、謎かけ論ですね。まさしく、『時の魔女」の名にふさわしいと言ったところでしょうか」
水色のサブスタンサー『テオ・フラストゥー』が、12機の部下を従え身構える。
「余裕かましてる場合かよ。お前らは昔、コイツに手も足も出なかったんだろ?」
「ええ、そうでした。彼女は、我々人類の英知を超えた存在……」
「時の魔女は時空を切り裂き、援軍を呼ぶ恐れがある。全力を持って、排除せねばなるまい」
黄金のサブスタンサー『アー・ポリュオン』を駆って、アポロが白い艦から戦場へと駆け付けた。
『アポロか……久しいな、小僧。100年ぶりと言ったところか?』
「フッ、確かにあの時のわたしは、サブスタンサーのエースパイロットとして浮かれ上がった小僧であった。だが、時は人を成長させる」
『わたしを前に、時を語るとは笑止よ。時の魔女は、時と空間を支配する』
漆黒のローブが、火星の上空を吹き荒れる気流で、激しくはためいた。
「ク、クーリアの焼かれた手足が、スゴいスピードで再生されていってる!?」
時の魔女が抱くクーリアの身体の細部まで、識別するコトが可能なゼーレシオンの高性能なカメラアイは、ボクの脳裏に驚愕の映像を浮かび上がらせる。
「こ、これが『時の魔女』の、能力なのか!?」
焼かれた衣服はそのままだったが、炭化してしまった身体は、元の白く美しい肌を取り戻していた。
「あ、貴女はどうして、妹を助けようとするのです。冷たい地下牢で、子を産み死を待つだけだったわたしは、貴女に救われた。貴女は、わたし達の味方では無かったのですか!?」
タルシス3山基地の地下牢で、自分を救ってくれた恩人に真意をただすナキア。
『ククク……この娘には、わたしの依り代となってもらう』
魔女はそう告げると、ローブの中にあったであろう女性的な身体が消え去る。
『お前たちには約束通り、この太陽系をくれてやろう』
漆黒のローブは、クーリアの身体の上に落ちた。
……と同時に、真珠色の髪にピンク色のクワトロテールをした少女が、カッと目を見開く。
「ク、クーリア!?」
宙に浮かんだままのクーリアは、ボクたちの目の前で焼けて煤けた衣服を完全に脱ぎ捨てると、漆黒のローブを身に纏った。
「宇宙斗艦長……」
「い、意識が戻ったのか、クーリア。ボクが解かるか?」
「ええ、もちろんです。お慕い申し上げる、男性(ヒト)なのですから……」
クワトロテールの少女の目が、赤く光る。
「宇宙斗艦長。共にこの宇宙を、統べましょう……」
クーリアは、真っ赤に輝く妖しい瞳で、ボクを見つめた。
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