ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・62話

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見殺しにされた7億の民

 ゼーレシオンの大きな瞳が見た、戦場の凄惨な映像(ビジョン)が、ボクの脳裏に映し出される。

 灼熱の炎に包まれた道路を、逃げる大勢の人波。
1000年の時が流れた未来でも、人々は互いに押し退け合い、踏み潰されて死んで行った。

「宇宙斗艦長、これ以上被害の拡大を防ぐには、貴方の部下を投入する他ありません!」
「キューブの数が、多すぎる。どうやったって、こっちの戦力が少なすぎるぜ!」
 メリクリウスさんと、プリズナーが、ボクの娘たちのアクロポリス防衛戦の参戦を望む。

「ダ、ダメだ。アイツらを、危険には晒せない。クーリアを……クーリアさえ止められれば、この戦闘は終わるんだ!」

 ボクは『究極のトロッコ問題』の決断を、先延ばしにした。

 トロッコ問題とは、思考実験の1つである。
その大まかな概要はこうだ。

 暴走したトロッコがあって、その先に4人の作業員が居たとする。
4人はトロッコに気付いておらず、そのままでは4人が確実に死んでしまう。
けれど、トロッコと作業員の間にはポイントがあって、トロッコを退避線に逃がすコトが可能だ。

 アナタは、ポイントを操作できる場所に立っている。
けれども待避線には、1人の作業員が気付かず作業をしていた。
アナタは、ポイントを操作すべきだろうか?

 操作すれば、4人の人命は救われる。
けれども、本来であれば死ぬ必要のなかった1人が、死ぬコトになる。
それは、殺人では無いのだろうか?

 操作しなかった場合、4人の作業員が死んでしまう。
4人は、アナタがポイントを操作すれば助かったハズだ。
アナタは、4人を見殺しにしたのでは無いだろうか?

「こんなコトを……こんなコトをしちゃあ行けない、クーリア!」
 飛翔したゼーレシオンの銀翼が、燃え盛る街の炎で赤く染まる。

 眼下の道路で、幼い男の子がつまづいて倒れた。
直ぐに母親らしき女性が近寄って助け起こすが、2人を炎の渦が焼き払う。
そんな悲劇が、広大なオリュンポス山の裾野に広がる巨大都市の、至るところで発生していた。

「なんで、こんなコトになってる……キミは、優秀で優しい女のコだ!」 
 街に降下し、エッフェル塔のように聳え立つQ・vavaに向って、突き進むゼーレシオン。

 この時のボクは、全く気付いていなかった。
『先延ばしにする』とは、『ポイントを操作しない』のと同じなのだと言うコトを。

 ボクは娘たち可愛さに、7億の民の命を見殺しにしてしまっていた。

「キミは自分の血筋を誇るコトも無く、自分の役割りからも、逃げなかった!」

「そう……でもそれは、周りがわたくしに押し付けた、わたくしの虚像なのです」
 Q・vavaのマントが、再びフォトンレーザーを一斉照射する。

「虚像って……クーリア、キミは!?」
 レーザーの弾幕を掻い潜り、ボクは異形のサブスタンサーに進路を取った。

「本当のわたくしは、逃げたかった。全てを投げうってでも、貴方の傍らに居たかった!」
 今度は、前後左右を覆うマントのパーツの間から生えた、巨大な鎌を持った4本の腕が、ゼーレシオンを斬り裂こうと攻撃を仕掛けて来る。

「でも、そんな我がままを、周りの誰も許してはくれなかったのよ!」
 大鎌が、ゼーレシオンの後ろの高層ビルを、上下に分断する。
裂け目から人々が地上へと落下し、地上では大勢の人間が倒れて来るビルの下敷きになった。

「フラガラッハァッ!!!」
 吹き上がる土煙の向こうから飛んできた大鎌と、斬れぬモノの無い剣が斬り結ぶ。
軍配は、ゼーレシオンに上がり、Q・vavaは4本あった腕の1本を失った。

「確かにキミは、真面目過ぎたのかも知れない。だけど、こんなコトをしちゃダメだ!」
 ゼーレシオンで、更なる接近を試みるモノの、それは残った3本の鎌による連続攻撃で跳ね返される。

 その間にも、ボクのしてしまった決断によって、多くの人命が失われて行った。

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